2020年7月22日水曜日

ヤフーオークションの闇

落札数が400以上ということは、同一業者からの落札はカウントされないルールを考えると、月に20以上は落札していることになり、通常ありえない。


 10年ほど前からヤフーオークションをよく利用している。主として掛け軸を買うことが多いが、カメラや家具、陶器など様々なものをここで買っている。これまで特に騙されたこともなく、たまには失敗もするが、それはこちらの判断違いであり、出品者のせいではない。ヤフーオークションの特徴は、どんなに安くても、例えば1000円でも落札者が一名しかいないと値段は1000円となることで、競う相手がいないと本当に安い値段で手に入る。私が集めている土屋嶺雪や近藤翠石なども随分安く手に入った。これらはあまり有名でなく、競合者も少ないからであろう。ところがここ1、2年、昔のような極めて安く手に入ることは難しくなってきた。原因はわからないが、以前なら数千円くらいで落札されたものがその数倍でも落札できなくなってきた。理由の一つに、極めて落札数の多い何らかの集団がいるようだ。個人の収集家であれば、いくら骨董好きとはいえ、落札数は300を超えることはない。ところが最近の落札者には4000070000を超える落札者がいる。同じ出品者からの落札は一つに数えられるので、私がよく買う会社のものは10点くらい買っても落札数は1であるので、この70000を超える落札数は異常である。おそらく可能性としてはオークション代行会社のものか、出品者と結託した同業、骨董商のものと思われる。個人の入札者は落札数が少なく容易にわかるので、ネットの骨董商同士が値段をつりあげることことも可能である。昔は入札者の過去の落札品もわかったので、その傾向がわかったし、500を超える落札数はなかったが、落札者の情報が表示されなくなると同時にこうした怪しげな入札者が増えてきた。あるいは日本のヤフーオークションは海外からの参加は基本的には認めていないが、中国の代行会社から落札が増えたせいかもしれない。というのは日本の古い西洋画についてはあまり落札数の多い入札者は少ないが、中国もの、日本の掛け軸ではこうした入札者が増える。先日の伊藤若冲とされる掛け軸では、20人が落札に参加したが、このうち落札数が400を超える者は9人で、最高は76646であった。入札額が80000円まではいいのだが、そこから400以上落札数の入札者が三人200000円まで値を上げ最後は落札数74の個人が206000円で落札した。以前であれば、こうした場合も個人の入札者だけの競合であったので100000円以上になることはなかったし、この絵に関すれば230000円くらいであろう。こうしたこともあり、最近はヤフーオークションもプロがアマチュア個人を騙すようなところに見えてきて嫌いになってきた。

 話が変わるが、以前から調べている“謎の芳園”について少し新しい情報が入った。大英博物館やシンシナティー美術館にある“芳園輝”の署名のある西山芳園とされるコレクションの多くは、画風やサイン、印鑑より西山芳園でなく、別の芳園であることがわかったが、それでは誰かというと、はっきりしない。可能性としては江戸後期から明治にかけて作品を残して“香川芳園”という人物がいる。この人物、ひどい作品も多く、果たして香川芳園が“芳園輝”かはっきりしない。ところが最近、イタリア、ヴェネチアの東洋美術館が所蔵する3つの“芳園”署名のある作品について同館のSilvia Vescoさんが解説し、謎の芳園について論文にしている。結論ははっきししないが、私のブログも参考文献として引用してくれている。もう一つはボストンの美術商、松木文恭の日本美術のカタログ(1898)に”Kagawa Hoyen”の名が出てくる。ここでは”Kagawa Hoyen was born in Kiotoin,1820. He was to have inherited the title of Baron from his father, Baron Kagawa, but the artistic instinct in him was so strong that he renounced his heritage and became a painter. He studied first with the famous Shibukawa Bunrin and later with celebrated Giokuho. He was been the instructor of painting in the Kioto Art School for more than fifteen years. He work is highly regarded by modern painters.”となっている。Baron Kagawaに該当する人物として香川敬三男爵がいるが年齢が違う。また香川芳園の生年月日は天保113月(1840)で、これも20歳も違う。塩川文鱗(1808-1877)は幕末、京都を代表する絵師だが、Giokuhoは四条派の長谷川玉峰のことと思われるが、1822年生まれで、香川芳園より若く、師匠としてはふさわしくなく、むしろ“輝”の名を持つ望月玉川(1794-1852)の方がふさわしい。他の文献では香川芳園の師は、最初は望月玉川、その後は岸岱に学んだとされている。香川芳園は、海外向けの美術品カタログに取り上げられているように外国人に人気のある画家で、海外の美術館にある作品には芳園輝“の署名があるが、これは海外向け作品に使用された署名、落款なのかもしれない。ただ日本では画題が陳腐で、また号の同じ西山芳園と混同されることも多く、日本の美術館に収蔵されている作品はない。不思議な作家である。

2020年7月17日金曜日

弘前のコロナ感染騒ぎ

旧弘前図書館

トレース水彩画もだいぶ慣れてきた



 ここ数日、青森県は新型コロナウイルス関係のニュースで持ちきりである。まず今月の9日に茨城県在住の20歳代の女性が青森市内で38度の熱が出て10日にはPCR検査で新型コロナウイルスに感染したことがわかった。この女性はいわゆる店舗を構えない派遣型の風俗店(デリヘル)に勤務しており、73日に東京、新宿のホストクラブで遊び、そこで感染した。問題はここからで、関東での仕事が少ないため、彼女は東京から青森市に出稼ぎにやってきて、74日から8日までの5日間に30名の接客をした。この接客者の多くは青森市の客であったが、中には弘前市、黒石市の客もいたようで、県や市では濃厚接触者を血眼になって探した。

 この女性の源氏名と店名は、感染発表に数時間後には早くもツイッターや掲示板で判明し、瞬く間に青森県中に広がった。保健所ではデリヘリ店から客の電話番号を入手したが、18名については連絡が取れない。この段階で県民からは誰がこのデリヘリを利用し、いつ感染するかが話題の中心となった。そしてついに、昨日、青森県警の警察官が感染したことがわかった。この20歳代の警察官は78日にこの女性と濃厚接触し、15日には発熱と味覚異常により、救急搬送されてPCR検査を受けた。結果は陽性。この警察官は11日から13日には休みで自宅にいたが、14日からは出張で十和田市に行き、同僚4人の警察官と居酒屋、その後、スナックで飲んだ。居酒屋、スナックの客、すべてが濃厚接触者となった。さらに十和田署そのものを消毒し、そこの職員は自宅待機となった。こうした大騒ぎを起こした責任から、この警察官の今後の処分は相当、厳しいものだと思われる。

 この騒ぎの翌日、7月17日に起こったのが、今回の弘前市の青森銀行従業員の感染疑いである。お昼頃に弘前市にある青森銀行松森支店の従業員が昨日から体調不良で新型コロナウイルスが疑われるというニュースが報じられた。すわデリヘリ嬢から感染者か、あるいは先の警察官の恋人かと、ツイッター上で大騒ぎになった。通常、銀行の行員の体調が多少悪くなったからという理由で、まだ感染が確定しない時点で、支店を臨時休業にすることはないだろうし、またマスコミに銀行名で正式に報告することはない。銀行側では行員の話から、かなりの確率で感染していると判断したのだろう。すぐにPCR検査をしたところ、今日の6時頃には陰性という結果となった。大騒ぎした割に何もなくて拍子抜けであるが、何もなくて嬉しい。これまで一人の感染者の出ていない弘前市では、その第一号は恐ろしいほどパッシングを受ける。この行員ももし感染していたなら、もちろん銀行はやめなくてはいけないし、そうした風評は家族がいれば、そのまま付いて回る。子供がいれば幼稚園や小学校でも常にそうした噂がつく。これは恐ろしい。

 東京では感染の疑いがある人のことでこんなに大騒ぎはしないだろうが、昨日の警察官では東奥日報の一面を飾り、地元ニュースでもトップニュースであった。今回の銀行員の感染に関してもお昼のニュースのトップで、ツイッターやラインでも一斉に広まった。弘前市の人口は十七万人でそんなに小さい街ではなく、住んでみての感想としてはそれほど田舎とは思わないが、こうした事件があるとその噂の伝達速度は驚いてしまう。それこそあっという間に広がる感じである。おそらくこの銀行員も高校、中学、あるいは会社の同僚などの口コミからいずれ氏名もわかってしまうのだろう。そうした意味では田舎で住むのは怖いところがある。

2020年7月12日日曜日

倹約的な学校 六甲学院

昭和三年に建てられた三上ビル

水彩専用紙に描くと雲がうまく表現できたが、車の縮尺を間違えた(もっと大きく)

 “イギリス毒舌日記”というイギリス在住の主婦が書いているブログが面白い。その中で、学校の制服のことが書かれている。イギリスの公立学校は基本的に制服制度で、学校指定の名前に入った制服を着るようになっている。ただ貧困で制服を買えない人用に、学校では余った制服を寄付してもらいそれを活用しているようである。

 それで思い出したが、私が通っていた六甲学院でもそれと同じような制度があり、サイズが小さくなったり、卒業していらなくなった制服を学校に寄付する制度があった。もちろん新品の制服は六甲駅近くの指定のお店で買えるだが、ズボンなどはサイズが合わなくなり、ここのお下がりを何度かもらったことがある。校舎一階奥の玄関横に部屋があり、ここに寄贈された制服が置かれている。サイズが合えば記帳してもらう。さらにここには電気バリカンもあり、友人同士で散髪した。中学生の頃はずっと丸坊主で、あまり伸びると校長に注意されるので、節約のためにここで電気バリカンで切ってもらっていた。カットサイズは何段階選べるようになっていて、一枚がり、二枚がり、三枚がりとなっていて、坊主刈りにもオシャレがあって、皆三枚がりを希望する。ただ、三枚がりは均一な長さにするのはなかなか難しく、どうしても凸凹のある虎がりとなる。そのため、その修正していくとだんだん二枚がり、最終的にはほぼ本物の坊主並みの一枚がりとなる。こうなると夏はいいが、冬は寒く、嫌なものである。そこで散髪の才能のある水谷くんの登場となる。彼はどうしたことかバリカンがうまく、綺麗に剃ってくれる。そのため彼に刈ってもらおうと行列になる。

 この学校は、キリスト系のハイカラな雰囲気があるが、その中に軍隊、あるいは修道院調の倹約的な側面を持つ。母体となるイエズス会は別名戦う教会と呼ばれるように軍隊的な性格を有し、さらに創設者の武宮校長が陸軍の予備役少尉であったことも関係する。私が入学する頃(昭和43年)にようやく手提げカバンになったようで、それまでは黒い風呂敷に教科書などを入れていた。中学生だけでなく高校生も丸坊主で、革靴は禁止され、布靴であった。制服も傷まないように、学校に行くとすぐに運動服に着替えた。食堂はなく、父兄会が当番で学校に来て、パンと牛乳の購入を手伝った。昼食を注文するときは朝、パンの注文用紙に書いて提出して、昼休みにそれを購入する。バザーはかなり大規模で、これも父兄会が中心になり、体育館で開催した。そしてこの売り上げが部活費となり、学校からの補助はほとんどなかった。サッカー部でも、ゴールポストは学校の大工さんヒルケルさんに作ってもらったし、サッカーボールも高校二年、三年生の先輩が修理して使った。さらに学校の備品、机や椅子なども外注すると高いので、すべてヒルケルさんともう一人のドイツ人が作ったし、さらに壁や石垣の修理などはドイツ人の校長自らがしていた。学校の隣には神父のための修道院のような施設があり、ここでの食事や生活は質素そのものであり、学校生活にもそうした雰囲気が移ったようである。

 特に変わっていたのは美術の上沼先生で、この先生の靴というと、普通の布製の運動靴の後ろを切り取りサンダルにしたものであった。多分、古くなった運動靴をサンダルに改造したのだろう。いつもヨレヨレの白いワイシャツと灰色のズボンで全く変わらない。この先生は生徒が絵を書いていると、横から“ここはこうしてこの色を使って描けばより良くなる”と手伝ってくれ、そして“これでいい絵になった”と喜ぶ。私の場合、中学から高校まで絵の成績が90点以下のことはなく、最高は99点で、この時はほとんど上沼先生が描いた絵で、他の生徒も同じような点数であったろう。

 お金持ちの生徒も多かったが、こうした質素を旨とする学校生活にためか、あまりそうしたことがわからない状況であった。同じクラスにボンカレーの創業者の息子がいたが、彼は弁当箱につめた白飯とボンカレーだけを学校に持ってきて、それを暖房用のスティームに入れて昼休みに食べていた。うまそうであったので、すぐに買って真似した。

2020年7月9日木曜日

矯正歯科における医療広告ガイドライン



 日本矯正歯科学会では、HP上の医療機関の広告に関して、かなり厳しいガイドラインを設けて、その周知徹底を図っている。具体的にいうと、矯正歯科専門医の取得に際しては、症例審査、試験などと一緒に、医療機関のHPも日本矯正歯科学会の倫理規程委員会が審査して、その修正を求めることになった。

 私のところのHPもチェックされ、修正した上、何とか認められた。まず“最新”、“県内唯一”、“最先端”などの表現はできず、同様に“症例数○○例の経験”も一年ごとの集計したものを複数年にわたって示す必要がある。また“比較的痛みが少ない”、“治療期間が短い”、“抜歯をしない”、“不定主訴が治る”などの言葉は誇大広告に該当するので掲載できない。体験談や口コミ情報なども禁止され、治療前後の写真などについても限定解除条件を満たさないと掲載できない。ここでの限定解除条件とは、治療内容、費用などの関する事項や、治療上のリスク、副作用などの詳細な説明を行った場合のみ、治療前後の写真が掲載できる。もちろん、内容も含めて患者からの同意書が必要となる。また矯正装置の商品名をそのまま載せることはできず、インビザラインのような未承認品については、かなり詳細な説明が必要となる。費用については、無料相談や検査などの費用を強調するものは品位を損ねるものとして禁止されるが、一方、大まかな矯正治療費については必ず記載しなくてはいけない。

 私のところのH Pでは、まず掲載不可能な語句は全て削除し、治療前後の写真もやめた。ただ料金の項目で“兄弟割引10%OFF”と小さな字で書いていたが、これについては品位を損ねるものとして削除を求められた。すぐに削除して、一応HPの審査は通った。他の矯正専門医のHPを見ても、皆さんなかなか苦労しているようで、やはり治療前後の口腔内写真は臨床レベルを示すために必要と感じているようで、限定解除条件に合わせてHPを修正しているところが多い。HPをみる人は、矯正治療でどれだけ良くなるか、矯正治療前後の写真は見たいものである。ただ限定解除条件の書き方が定型化して、これもどうも▲?であり、またあまり詳しい説明が必要となると、患者にHP上の掲載許可を求めるのが難しくなる。自分の写真がHPに載るのは誰も嫌なもので、そうしたお願いをするのに謝礼や治療費のディスカウントが行われるとすると、それも問題である。またこうしたHP上のガイドラインは、バイトなどに行っている一般歯科医のHPにも適用され、矯正歯科医が月1回バイトに行っている歯科医院のHPも修正を求められる。こうしたこともあり、当院のHPには治療前後の写真はやめ、不正咬合の種類を示すに止まる。

 こうして日本矯正歯科学会の医療広告ガイドラインに沿って、HPを修正すると、広告としては非常に魅力の少ないものとなり、逆に無視した歯科医院のHPの方に患者の注目が集まることになり、不公平かなあと思ってしまう。何も医療広告ガイドラインは、矯正歯科のみに適用されるものでなく、すべての歯科医院に関わるものであり、こうしたガイドラインに当てはまらないものは医療法の規定違反となると言える。もちろん患者に被害が出るような悪質で誇大な広告は厚労省の指導が入るが、例えば治療前後の写真を入れているHPはたくさんあり、こうした歯科医院は、そもそも医療広告ガイドラインそのものを知らない場合やこれくらいは大丈夫と思っている場合が多い。結局はルールのない広告は業界自体の品位を下げることになり、その自浄は業界が責任を持たないといけない。

 最近では、当院の新患の7割くらいはインターネットを介してものであり、いかに患者はこうしたツールで病院を選択するのかがわかる。レストランの場合は、食べログなどで調べ、実際に食べてみればいいだけだが、矯正歯科の場合は、結果が出るのは少なくとも二年先であり、なおかつ一旦治療を開始すると、基本的には他にはいけなくなる。それゆえインターネットだけで病院を決めるのは、かなリスクがあり、できれば実際に治療をしている友人、知人に聞くのが一番いいと思う。よく見ると矯正装置をつけている人は案外、周りにいるもので、そうした人を見つけて今行っている矯正歯科医院のことを聞いてみれば良い。

2020年7月5日日曜日

矯正治療をする先生へのアドバイス 2

こうした単純な治療前後の写真のHP上の掲載は、医療広告ガイドラインで禁止されている。また将来的には日本矯正歯科学会の認定医の資格違反となる可能性があり、バイトにいく矯正医、雇う歯科医院双方が、医療広告ガイドラインを遵守しないといけない。単純な治療前後の写真はダメだが、一方、治療費の記載は必要となる。注意が必要である。



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5.     矯正歯科医のバイトは雇わない
 自分では矯正治療はしないが、矯正歯科医を雇って治療をさせているケースがある。自分でも経験があるが、1週間に一回くらいであればまだいいが、1ヶ月に一回くらいの治療であれば、その間にブラケットを取れた、装置が壊れたなどのトラブルがあり、なかなか治療が進まないし、それに伴い患者からのクレームが多くなる。費用もバイトの先生のところ料金なので、安くはない。また土日が自分の矯正歯科医院の患者が多いので、バイトには行けず、バイトに行くのは平日となる。月1回の矯正治療日で、一人の矯正歯科医が見られる最大患者数は40人くらいなので、年間の受け入れ患者数は20人くらい(マルチブラケット10名、その他10名)となる。マルチブラケット患者が月に一度の来院で、年間10名が2年間で20名、早期治療では5年間、2、3ヶ月に一度は来院するので、月に20名くらい来ることになる。ただし、実際に月一度の矯正治療日に40名も患者が来る医院はほとんどなく、せいぜい1020名くらいであろう。その場合の年間の新患数は5-10名くらいで、矯正歯科医へのサラリーを払えば儲けは少ない。それなのに、一度始めれば、矯正医も一般歯科医も、一人でも患者がいる限り、途中で止めることはかなり難しい。かって地方では矯正専門医がおらず、東京などから来るバイトの矯正歯科医が珍重されたが、弘前市でいえば、私のところより費用が高くて、月に一度しか見られないのであれば、バイトの先生がよほどの名医でなければ行かないであろうし、そうした名医は自院の治療が忙しく、バイトに行く暇はない。

6.     成人患者は避ける
 成人患者は、要求が高いし、治療にはほぼ100%、マルチブラケット装置が必要となる。また多くは抜歯ケースで、場合によっては外科的矯正を併用することもあり、難度は高い。一部の歯科医院では、わずかなでこぼこなど簡単な症例に矯正治療を勧めることがあるが、そうしたわずかな問題を気にする患者は、神経質で難しい場合も多く、必ずトラブルとなる。下の歯のでこぼこだけの患者の場合は、よほどでなければ治療しない。また子供の場合は、装置を使ってくれなかったり、使用時間が少なかったりするため、治療結果をそのせいにすることもできようが、成人ではそうしたことができず、術者の技量に起因することになる。補綴を前提とした部分矯正くらいにしておいた方が良い。

7.     契約書を作る
これは矯正歯科専門医でもそうだが、検査をしたらその結果を文面にして費用も含めて必ず患者に説明する。ただし患者はいつでも契約を破棄することはでき、基本的には矯正治療の進行度合に準じて治療費を返金する。昨年も神奈川歯科大学が消費者機構日本の指摘により“いったん納入された料金は理由の如何を問わずお返しできません”の文言を消費者契約法により削除することになった。将来的に矯正歯科も特定商取引の適用となる可能性もあり、かなり複雑な契約書を書かないと、治療そのものの支払い義務がなくなる。つまり契約書がないと患者は治療を受けても治療費を払わなくても、いいことになる。

8.     患者を脅かさない
 これは最もしてはいけないことであるが、ごくごく一部、悪徳医と言ってもよいが、こうした先生は患者に矯正治療を勧めるために、脅すことがある。“不正咬合のそのままにしておくと、顎関節症になる”、“虫歯や歯周疾患になる”あるいはひどいのになると“肩こり、腰痛や、体調の悪さは歯並びからくる”などと言って、患者を脅して治療を勧める。いずれもエビデンスはなく、不正咬合と顎関節症の関係は否定されており、矯正治療で治ることはないし、歯並びが悪いとう蝕、歯周疾患が多いという研究もない、ましてや体調の悪さは歯並び以外の原因がはるかに大きい。医師は患者の不安を解消させるところであり、逆に不安を増長させるような行為は決してすべきでない。もっというなら、こうした考え、“体調の悪いのは歯並びのせいである”と信じている患者には絶対に矯正治療をしてはいけない。かなり難しい患者が多いし、矯正治療によりこうした主訴を治すことはできないからである。

以上、まとめると一般歯科医では、小児の矯正治療のみを、極めて安い装置代、できれば先生が作る、で、十分に治療の限界を説明して行うべきである。そして治療がうまく行かないときは、躊躇なく、矯正専門医にこれまでの資料、経過、費用などを含めて紹介すべきである。



矯正治療をする先生へのアドバイス 1

風景画の方が描きやすいが、普通の画用紙では修正がきかない


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一般歯科でも矯正治療をするところが増えてきた。十分に注意しないと患者とのトラブルとなるので、矯正歯科専門医としてアドバイスしたい。

1.     矯正治療費は安くする
 矯正装置の原価は高くない。私の場合は、リンガルアーチ、急速拡大装置、保定装置、FKOなどの矯正装置は自分で作っており、技工代はかからない。慣れれば診療終了後の30分くらいで作れ、年間300個くらいは製作していると思う。一般歯科で、こんなに多く矯正装置を作ることはないので、作る時間はないとはいえまい。できれば自分で作ればよい。材料費が安いのにどうして矯正治療費が高いかと言うと、これは技術料が大きなウェイトを占めているからである。技術料というのは、矯正の治療経験、治療結果への保証、後戻りした場合の無料の治療(調整料のみ)などを含むため、高い費用となる。以前、鹿児島大学で勤務していた時、下の前歯に金属製のブラケットをつけた患者が、なかなか治らないということで大学病院に来た。治療自体はひどいものであったが、治療費はなんとブラケット1個が100円、これまで総額でも数千円しかかかっていない。流石にこの時は安いねというと、患者も安くて先生には文句も言えないと言っていた。
 患者とのトラブルの多くは治療内容であるが、治療費も大きな要素となり、高くて内容がまずいと文句を言う。それゆえ一般歯科医は、技工も自分でしてできるだけ安い費用で治療することが、患者とのトラブルを減らす最大の秘訣である。また矯正治療費は総額制と装置ごとの費用に分けられるが、一般歯科医は装置ごとの費用方式をとり、それも安い方が良い。口蓋裂患者の保険点数は、装置ごとの費用の一つの目安となる。

2.     治療は先生がする
 歯科医院の中では、矯正治療を先生がしないで、歯科衛生士や助手にさせるところがある。こうした先生言わせると、忙しくて矯正治療をする時間がないという。だったら矯正治療をせずに、専門医に紹介すれば良さそうだが、そういうと“うちのでの治療を希望している”というが、患者からすれば、そうした強い思いはない。少なくとも自費での治療をするのであれば、装置の装着や調整くらいは先生がすべきであり、予約時間もきちんととって治療すべきである。また患者には治療のたびに経過をきちんと説明し、経過が思わしくなければ、そのことを正直に話し、場合によっては治療費の返却をして専門医に紹介するくらいの誠実さが必要である。

3.     治療を勧めない
 基本的には不正咬合は鏡で自分の口を見ればわかるものであり、人から指摘される、あるいは何かの検査をして初めてわかるものではない。う蝕治療に行っただけなので、矯正治療を勧められることがある。うちの家内の咬合は側方歯の開咬とでこぼこ、正中のずれなどがある複雑な症例であるが、開業当初、う蝕治療のために近医を受診すると、いきなり矯正治療を勧められた。それも歯科大学卒業して2、3年目の若い先生にである。もちろん家内の主人が矯正専門医であることは知らない。まず100%満足な治療はできないだろう。また、長女はもともと反対咬合でそれは小学生の頃に治したが、高校生頃から下の前歯のでこぼこが出てきた。進学で県外に行ってため、こちらで治療できないこと、下の歯のでこぼこの治療は治すのは簡単だが、そのまま維持(保定)するのは難しいため、気にするなと言っていた。ところが京都、東京、横浜と検診で歯科医院にいくたびに、そこの歯科医から矯正治療を勧められる。その度に、父親が矯正歯科専門医であることを言うと、勧誘はなくなる。患者から矯正治療の相談を受けて、治療法、費用や期間の説明を行うべきで、決してこちらから勧めるものではない。よくクインエッセンスなどの雑誌で、全顎の治療の症例報告があり、下顎の叢生があれば矯正治療をして整列していて、患者が希望したとあるが、おそらく先生が勧めたのであり、中年以上の患者に下顎の叢生を治す機能的な利点はない。矯正専門医の私に見た目以外の下顎の叢生を治す、エビデンスに沿った意義を教えて欲しい。もちろん非常に安い費用であれば、全く問題ないのだが、こうした治療に高額な費用を取るのが問題であり、これは金儲け主義と言われても仕方ない。

4.     治療の限界を最初に知らせる
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 一般歯科医の場合、マルチブラケット法に精通していないため、本格的な治療はできない場合が多いし、難しい症例を無理して引き受けるより、矯正専門医に紹介した方がよほど精神衛生上望ましい。リンガルアーチ、床矯正治療、機能的矯正装置しかしないのであれば、うまくいかない可能性を十分に説明すべきであり、うまくいかない場合は矯正専門医に紹介するが、その場合は治療費が無駄になることも伝える。この説明を最初にきちんとしないと、患者から治らない、何とかしてくれと抗議され、これ以上の治療はできないと答えることになる。もちろん患者はかなり怒る。患者のためにと思って矯正治療を行なった結果、患者との信頼関係が崩れ、それは悪いウワサとなり一般歯科の治療にも波及する。

2020年7月2日木曜日

誰でもできる水彩画 2

奈良光枝(昭和23年)

トレース画 この段階で全然似ていない

彩色するとさらに変になる


 トレース図を用いた人物画に挑戦した。最初は家内の写真を使って描こうと思ったが、こうしたブログで発表すると後で怒られるので、違う人物を使うことにする。輪郭のはっきりした欧米人の方が向いているように思ったが、日本人でいいモデルはいないかと思い、ふと思い出したのが、“青い山脈”などで有名な弘前市出身の歌手、奈良光世さんが、ほりが深くていいなあと思った。早速、ネットで写真を検索したが、あまりいい写真がなく、戦後すぐに地元、弘前に帰省した時の写真があったのでこれを利用した。素材自体はかなり小さな写真なので、A4に拡大したが、細部が全くわからない。髪は後ろにリボンで束ねているようだが、はっきりしない、また着物の柄も、さらに白黒写真なので着物の色もはっきりしない。おそらく白地に薄い紫の柄の入ったものだと思うが。

 まず前回の方法に沿って、A4普通紙にトレースしたが、この段階で、写真と全くイメージが違う。また着物の折れ具合がわからないし、髪型が黒くなってしまったので、ロングヘアーかショートヘアーかもわからない。このあたりは全く想像で、イメージとしてはショートヘアーが似合いそうなので、思い切って髪型も変えた。

 着色をしてみたが、影がうまく表現できず、ペン画で人物を描くにはかなり難しい。完成した絵は全くモデルとは似ておらず、タレントの高嶋ちさ子を美人にしたようなものとなった。黒のペンで輪郭を描いたが、女性のモデルの場合は、赤や茶色、青色など、もう少し優しい色の方がいいかもしれない。ただこうした技法のいい点が、簡単に、1時間くらいで描けるので、忙しくても何とか完成でき、私のようなせっかちな人にはいいのかもしれない。

 そういえば、線画といえば、日本の浮世絵が代表となるが、美人画は、瓜実顔、細い眉と目、そしておちょぼ口となっている。これは線画で顔を描こうとするとこうした表現しかできない。人間の顔は造形としてはかなり繊細な対象で、本物に似せようとするのは限りなく難しい。まして一本の線で表現することは不可能であり、重ね塗りができない浮世絵、あるいは日本画では、油絵のような立体的な表現ができなかった。ルネサンスの人物画はモデルとかなり似ているものであったが、浮世絵はあくまでその特徴を線で捉えた、ある意味、抽象画と考えても良い。ゴッホなどの印象派の画家が日本の浮世絵に憧れたのは、こうした抽象性、平面化であり、ペン画でもそうであるが、線画による人物表現は模写という点ではもともと難しいのだろう。おそらく線描画による江戸時代の最高の人物画家は士族出身の渡辺崋山と椿椿山で、両者ともかなり西洋的な手法を取り入れ、立体的な人物像を描いている。やはり陰影を用いた西洋的手法でないと具象的な人物像は無理なのだろう。下は椿智山が描いた渡辺崋山像。









2020年7月1日水曜日

誰でもできる水彩画


元の写真

A4普通紙にトレースし、それを画用紙に再度トレース
トレースしたもの


透明水彩絵具


色をつけすぎ


 昔から絵は、無心で描けるので好きだったが、いざやろうとするとなかなか才能がなく、うまく描けない。一つにデッサンが苦手で、風景画や静物画を描いても、どうも空間バランス的に変で、それを着色してもおかしい。

 絵画では、まず対象をよく見て、それを平面のキャンパスに写し取ることから始まる。もちろん抽象画などはその限りではないが、ある意味、カメラ的な技術がまず必要となる。例えば、風景画を描く場合でも、目で風景を見て、写真のようにその図をキャンパスに写し込む。まずこれが難しい。

 うちの母は、ここ40年ほど絵を描いていて、アマチュアでも、生徒に教えるくらいなのでまあセミプロといっても良い。そのスタイルを見ていると、まず気に入った景色が対象であれば、写真を撮り、それも参考に描いている。もちろん写真そのものではなく、デフォルメしたり、省略するため、元の写真と完成した絵は全く異なる。写真集などを参考にすることも多い。実際に風景を見てキャンパスを立てて写生するのが本筋なのかもしれないが、今のようなデジタル写真が発達した時代ではこうした写真を使用する画家も多いのではないかと思う。

 先日来、絵本画家、田畑精一さんの原画を集めている。買った原画の多くはマジックペンのみで描かれたイラスト風のもので、額に入れて飾ると、かっこいい。その絵を見ていて、ふと気づいたことは、写真を拡大して、それをトレースすれば同じようなペン画が描けるのではと思った。早速、以前、撮っていた弘前市内の建物をA4にカラーコピーし、それをトレース台に乗せ、A4の普通紙に水性インクでトレースしてみた。ものの10分くらいで簡単に描ける。細かいところは省略し、大まかにトレースする。普通紙では、着色に向かないので、今度はそのトレース図を画用紙に再度トレースする。画用紙の厚さでもインクで描かれていれば、十分にトレースでき、これも10分くらいで終わる。ここではpigmaという太さの違うドローイングペンを使い太さを変えてトレースした。元のカラーコピーなどをみながら細かいところも書き込んでいく。これでペン画は完成である。コピーから始めても1時間はかからない。

 これでもいいのだが、少し彩色しようと、以前買ったペリカンの固形透明水彩で彩色してみた。透明性も高く、塗っていくと、これも面白い。結果的に、塗りすぎて、失敗作となった。もう少し、無地の部分を多くした方が良かったと思う。また画用紙にペン画を書き、もう一度トライしてみたい。

 こうした写真をトレースして絵を描くというのは、本格的に絵を描く人からすれば邪道であり、軽蔑すべき行為なのかもしれないが、私自身、最も簡単で、絵が下手な人でも誰でも描けるいい方法だと思う。建物や風景でも複雑な構成である方が良い。プロの絵描きでも、構図はかなり神経を使う行程であり、遠近法の適用をきちんとする人は、定規を使って建物や人物の配置を決めていく。写真を使えば、そうした手間は必要ないし、広角レンズや望遠レンズ、あるいは画像ソフトを使えば、デフォルメも可能である。もちろん、デジタル写真をコンピュータ上の画像ソフトで加工して、絵画風にするソフトは多くあるが、これでは人の個性がほとんど出ず、写真をトレースする方がより人間味が出る。人物画でも顔、首、体のバランス、あるいは衣服の感じを出すのは難しいが、トレースして体型、顔、さらに目、鼻、口の位置をトレースで来れば容易と思い、やってみたが、あまり向かず、建物や風景に限定する方法であるようである。


PS:こうした写真から描く絵を、トレース水彩画と呼ぶようです。未読ですが、本も出ていて、プロの画家やイラストレーターなどもやっている方法のようです。カーボン紙を使う方法もありますが、ライトボックス(アマゾンで2000-3000円くらいで売っている)を使う方法がうまく行くと思います。