2020年7月5日日曜日

矯正治療をする先生へのアドバイス 1

風景画の方が描きやすいが、普通の画用紙では修正がきかない


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一般歯科でも矯正治療をするところが増えてきた。十分に注意しないと患者とのトラブルとなるので、矯正歯科専門医としてアドバイスしたい。

1.     矯正治療費は安くする
 矯正装置の原価は高くない。私の場合は、リンガルアーチ、急速拡大装置、保定装置、FKOなどの矯正装置は自分で作っており、技工代はかからない。慣れれば診療終了後の30分くらいで作れ、年間300個くらいは製作していると思う。一般歯科で、こんなに多く矯正装置を作ることはないので、作る時間はないとはいえまい。できれば自分で作ればよい。材料費が安いのにどうして矯正治療費が高いかと言うと、これは技術料が大きなウェイトを占めているからである。技術料というのは、矯正の治療経験、治療結果への保証、後戻りした場合の無料の治療(調整料のみ)などを含むため、高い費用となる。以前、鹿児島大学で勤務していた時、下の前歯に金属製のブラケットをつけた患者が、なかなか治らないということで大学病院に来た。治療自体はひどいものであったが、治療費はなんとブラケット1個が100円、これまで総額でも数千円しかかかっていない。流石にこの時は安いねというと、患者も安くて先生には文句も言えないと言っていた。
 患者とのトラブルの多くは治療内容であるが、治療費も大きな要素となり、高くて内容がまずいと文句を言う。それゆえ一般歯科医は、技工も自分でしてできるだけ安い費用で治療することが、患者とのトラブルを減らす最大の秘訣である。また矯正治療費は総額制と装置ごとの費用に分けられるが、一般歯科医は装置ごとの費用方式をとり、それも安い方が良い。口蓋裂患者の保険点数は、装置ごとの費用の一つの目安となる。

2.     治療は先生がする
 歯科医院の中では、矯正治療を先生がしないで、歯科衛生士や助手にさせるところがある。こうした先生言わせると、忙しくて矯正治療をする時間がないという。だったら矯正治療をせずに、専門医に紹介すれば良さそうだが、そういうと“うちのでの治療を希望している”というが、患者からすれば、そうした強い思いはない。少なくとも自費での治療をするのであれば、装置の装着や調整くらいは先生がすべきであり、予約時間もきちんととって治療すべきである。また患者には治療のたびに経過をきちんと説明し、経過が思わしくなければ、そのことを正直に話し、場合によっては治療費の返却をして専門医に紹介するくらいの誠実さが必要である。

3.     治療を勧めない
 基本的には不正咬合は鏡で自分の口を見ればわかるものであり、人から指摘される、あるいは何かの検査をして初めてわかるものではない。う蝕治療に行っただけなので、矯正治療を勧められることがある。うちの家内の咬合は側方歯の開咬とでこぼこ、正中のずれなどがある複雑な症例であるが、開業当初、う蝕治療のために近医を受診すると、いきなり矯正治療を勧められた。それも歯科大学卒業して2、3年目の若い先生にである。もちろん家内の主人が矯正専門医であることは知らない。まず100%満足な治療はできないだろう。また、長女はもともと反対咬合でそれは小学生の頃に治したが、高校生頃から下の前歯のでこぼこが出てきた。進学で県外に行ってため、こちらで治療できないこと、下の歯のでこぼこの治療は治すのは簡単だが、そのまま維持(保定)するのは難しいため、気にするなと言っていた。ところが京都、東京、横浜と検診で歯科医院にいくたびに、そこの歯科医から矯正治療を勧められる。その度に、父親が矯正歯科専門医であることを言うと、勧誘はなくなる。患者から矯正治療の相談を受けて、治療法、費用や期間の説明を行うべきで、決してこちらから勧めるものではない。よくクインエッセンスなどの雑誌で、全顎の治療の症例報告があり、下顎の叢生があれば矯正治療をして整列していて、患者が希望したとあるが、おそらく先生が勧めたのであり、中年以上の患者に下顎の叢生を治す機能的な利点はない。矯正専門医の私に見た目以外の下顎の叢生を治す、エビデンスに沿った意義を教えて欲しい。もちろん非常に安い費用であれば、全く問題ないのだが、こうした治療に高額な費用を取るのが問題であり、これは金儲け主義と言われても仕方ない。

4.     治療の限界を最初に知らせる
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 一般歯科医の場合、マルチブラケット法に精通していないため、本格的な治療はできない場合が多いし、難しい症例を無理して引き受けるより、矯正専門医に紹介した方がよほど精神衛生上望ましい。リンガルアーチ、床矯正治療、機能的矯正装置しかしないのであれば、うまくいかない可能性を十分に説明すべきであり、うまくいかない場合は矯正専門医に紹介するが、その場合は治療費が無駄になることも伝える。この説明を最初にきちんとしないと、患者から治らない、何とかしてくれと抗議され、これ以上の治療はできないと答えることになる。もちろん患者はかなり怒る。患者のためにと思って矯正治療を行なった結果、患者との信頼関係が崩れ、それは悪いウワサとなり一般歯科の治療にも波及する。

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