最近のサッカー日本代表はひと昔に比べて圧倒的に強くなっており、ひょっとしたらW杯の目標、ベスト8に入るのも可能と思わせるほどである。選手のほとんどが海外の、それも有名クラブに所属して活躍している。三笘、久保のような海外のビッグクラブからも注目されるような選手が複数いて本当に楽しみである。ひとえにサッカー人口の増加と裾野の広がりのよるものだろう。
ところがスポーツ人口そのものは、少子化に伴い減少しており、サッカー以外のスポーツ、例えば野球では、もはや各小学校、中学校にあった野球部が9名集めることができず、何校か集まって合同チームを作るという有様である。一方、サッカーについては、小学生から地域のスポーツ団でサッカーを始め、優秀な子はJリーグの下部組織の入団を狙う。これに入れない場合は、地域でサッカーが強い中学校に越境入学する。さらに高校生になると、県下でも強豪校に入ろうと頑張る。ただ青森県の場合は青森山田高校が圧倒的に強いために、青森の子供達はほとんど全国大会に出場する機会は少ない。
そしてJリーグの選手の半分は下部組織出身者で、残りが全国高校大会で注目される選手からスカウトされる。最近では大学出身の選手も多くはなっているが、それでもまずJリーグの下部組織や大学からスカウトがなければ、プロは無理ということになる。ただ野球と違い、Jリーグは1、2、3の3つのリーグがあり、J1が192名、J2が335名、J3が334名の58チーム、計1833名が一応、プロである。野球の2倍の選手数であるが、J3くらいになると収入は300万円程度である。さらにJ3の下のなるとJFL(日本フットボールリーグ)は16チームで320人くらい、さらに地域リーグ、都道府県リーグがある。地域リーグは北海道、東北など9ブロックで、さらに都道府県リーグがあり、全部で130チームが参加している。1チームが20名の選手がいるとしても2600名、これらのチームは競争して、上位リーグに昇進する可能性がある。以上が本格的にサッカーをしている選手でおよそ5000人となる。他のスポーツに比べて桁違いに多い人数である。
私がサッカーをしていたのは50年以上前だが、その頃はプロサッカーがなく、あくまでアマチュアの競技であった。アマチュア競技の極みが実業団で、普通は高校卒業で部活動は終了となる。私がいた頃は六甲高校も兵庫県ではサッカー強豪校で、高校総体の兵庫県代表、近畿大会も優勝した。それでも練習は週に3回、学校の方針でスポーツより勉強を優先させた。近畿大会の優勝メンバー、私の学年7名の卒業後の進路を見ても、東京大学が1名、京都大学が1名、大阪大学が1名、神戸大学が2名、早稲田大政経が1名、東北大が1名であった。またゴールキーパー仲間の一級上の先輩は神戸大学医学部、一級下の後輩は京都大学工学部建築学科と偏差値の高い大学に現役で合格している。早稲田大政経学部に進学した同級生は、元、日本代表監督、岡田武史さんと同じサッカー同好会で親しかったという。岡田さんは大阪選抜、ユース代表となり、アジアユースにも出場したが、早稲田大に一浪して一般入試で合格した。もう本格的にサッカーはしない、同好会くらいで楽しむと言っていたという。友人も同様だったが、結局、岡田さんはユース代表にも選ばれたため、日本サッカー協会から本部のサッカー部に行けと命じられ、今に至る。さすがにユース代表くらいになるとサッカーから逃げられないが、県の選抜くらいであれば、高校でサッカーは卒業となる。東北大学歯学部のサッカー同好会でも、国体県代表が5名いた。サッカーでは食っていけないとリアルな考えによる。
今年の近畿大会に優勝した京都橘高校サッカー部のメンバーの進学先を調べると、J1の選手になる生徒はいないが、ほとんどは大学に入ってもサッカーをやるようで、京都橘大学、京都産業大学などの大学サッカーで進学している。そして彼らは大学卒業後も地域リーグと、サッカー生活は続く。なまじサッカーの裾野が広くて下部リーグもあるため、諦められず、ずるずるとサッカーに引きずられことになる。本人、家族、コーチのこうしたサッカーの蟻地獄生活をよく知るべきで、残酷な言い方であるが、サッカー日本代表のU-12、U-15、U-18など年齢別のカテゴリーに選ばれなかった時点で、J1のプロサッカー選手は諦めるべきであろう。さらに京都橘高校のような強豪高校の部員でもプロになる選手は少なく、それでもレギュラー選手のほとんどは中学校時代にはJ1チームの下部チームに属している。つまり強豪高校のレギュラーにもなれない、あるいはその前の段階、J1下部組織の試験に落ちた時点で、すでにプロのサッカー選手は無理である。
結論を言うと、サッカーが好きでやる分には全く問題ないが、サッカーをやるのはせいぜい中学生までで、子供にはこの段階で目が出ないのであればサッカーで食っていくのは難しく、もし高校生になってもサッカーを続けるなら文武両道で勉強も頑張るように説得すべきであろう。東大に入学するよりサッカーのプロになる方がよほど難しいが、普通の成績の中学生が“東大に入りたい”といえば親は笑うが、“プロのサッカー選手になりたい”といえば、親は本気になり遠く離れた強豪高校に入れたりする。親も子も現実を知るべきであろう。他のスポーツはそう考えるのだが。東大、京大、早稲田などの難関大学の入学者数はほぼ10万人、対してサッカーJ1,2,3に毎年入る選手は150名、1:600の比率で、どちらが簡単かははっきりしている。