2024年3月13日水曜日

最近思うこと 若い歯科医へ

 





先日、腕の痛みがあったので、近所の整形外科に行くと、来週から工事のために休診となり、4月から新しい先生による医院になりますが、患者さんはそのまま治療を継続できると言われた。年配の先生で、体調も一時悪かったこともあったので、後継者ができて良かったと思った。次の日、お尻のできものが出て痛くて座れなかったので、少し遠方にあるが、以前、お世話になった皮膚科を受診した。処置してもらって一気に楽になったが、ここも4月からこれまで副院長であった若い女医さんが院長になって、名称も変わるが、スタッフもそのままするので、心配入りませんとのアナウンスを受けた。二軒訪れた医院、両方が年配の先生が引退し、若い先生が後継者になった。家に帰って家内に話すと、家内がその日に行ったレディースクリニックも同じようの4月から先生が変わり、診療所名も変わるという。偶然とはいえ、どこも後継者がいて、患者さんにとっては何よりである。

 

それに引き換え、歯科医院でも昨年は3件閉院したが、2軒はすっかりなくなり更地に、もう一軒は診療所を改築して自宅になった。今年も何軒か閉院するが、どこも後継者はいない。また二軒は院長が病気のために長期の閉院状態だが、どうなるかわかっていない。診療所の受付の横の壁には15年ほど前に作られた歯科医院の場所を示す地図を貼ってある。閉院した歯科医院については、その都度、マジックで消しているが、すでに20軒以上がなくなっている。地区によっては、弘前市内でも歩いていける距離に歯科医院がないエリアが出てきている。

 

歯科医院の場合、患者さんは歯が痛くなる頻度はそれほどではないので、歯が痛くて久しぶりにいつも行く歯科医院に予約しようとするとすでに閉院していたという話はよく聞く。弘前歯科医師会も10年くらい前が診療所数ではピークで、その後は、新たに開業する歯科医院より閉院する歯科医院の方が多い状況が続いている。今のままのペースが続けば、後10年で、2010年頃の半分くらいになる。残念ながら、前述したように子供以外の先生が後を継いだケースはこれまで一軒もなく、子供を歯科医にしても親の後を継ぐのは半分くらいしかない。

 

さらにこれは私らの世代と若い世代の差であるが、今の若い先生は患者さんが来てもいきなり治療することはない。昔であれば、歯が痛くて歯科医院に行くと、レントゲンなどの検査をして、その日に神経を抜いたり、あるは抜歯したりしたが、今の先生は、当日には検査はするが、処置までしない場合が多い。もちろん理想的には、まず検査をして治療方針を立てて、それに沿って治療をしていくのが正しいが、患者が痛がっているのであれば、まずそこを治し、それから全体的な治療方針を立てるべきである。ただ今の若い先生は治療のスピードが遅いので、一回、間を空けて治療をしたいのだろう。先日、患者の大臼歯のレジン充填が破折していたので、新しくできた歯科医に紹介したが、初回はデンタルレントゲン写真一枚撮り1ヶ月後にレジン充填ということになったという。昔の先生であれば、2回の予約をするなら、一回で全て終わろうとしたし、その方が効率的である。40年前、鹿児島大学歯学部病院小児歯科では、小児の治療を4ブロックに分けて治療をしていた。ほとんどの歯が虫歯の子供いたとしよう。まずレントゲン検査をして、ざっと軟象をとり、ユージノールセメントでカリエスコントロールをする。次回からはCD Eにラバーダムを装着し、麻酔をして生活歯髄切断をして乳歯冠、あるいはレジン充填、次回は別の1/4ブロック、4回目に治療が終わると上顎乳切歯にサホライドを塗って終了となる。上下左右のDE全て、生切、乳歯冠ということも普通にある。もちろんここまでひどくなければ、1回、2回で終了する。障害児では、全麻下で、一気に10本以上の歯を治すこともある。多分、若い先生は、一本ずつ治すのであろう。

 

歯科医の能力の一つには治療の速さが求められる。昔、宮崎医科大学の歯科口腔外科にいたころ、そこの助教授(のちに教授、学長)は抜歯の名人でほとんどの埋伏歯を15分以内で抜いていた。腫れ、痛みも少ない。一方、若い先生は同じような症例で1時間以上かかりこともあり、腫れも大きい。矯正歯科においても、私自身の経験で、大学病院のいたときに比べて診療時間は1/4以下になったが、診療レベルは逆に高くなった。つまり臨床というのは遅くて下手から、早くてうまいになるのが普通なのである。患者数を見て治療スピードを上げるのも重要であり、元気な若い先生はもっとどしどし治療をしてほしいものである。


2024年3月11日月曜日

まわりみち文庫でのトークイベント

 



昨日、弘前市のかくみ小路、まわりみち文庫でトークイベントをした。狭い店なので、8名のこじんまりしたものであったが、なんだか参加者との距離が近いせいか、飲み屋で話しているような感覚である。いろんなところで話してきたが、距離が近いので、持ってきた本を回し見ることもできるし、プロジェクターなしで、コンピューの画面を直接見てもらうこともできて、面白い経験であった。

 

こうした本屋でのトークは、一般的にはサイン会などと併設して開催するため、参加者は著者のファン、あるいは本を読んだことがある人が多い。私の場合は、年配のファンが多いので、年配の方ばかり来ると思っていたが、実際は、サクラで呼んだ知人と、もう一人の女の方を除く5名は30から40歳代くらいの若い男の方で驚いた。これまで本についての講演は、三師会、歯科医師会、ロータリークラブ、弘前市、弘前ボランティア協会、養生会、紀伊国屋書店弘前店などで行ってきたが、どの講演会も聴衆の平均年齢は60歳以上、若い人はほとんど見かけない。これは大変嬉しいことであった。

 

私の本来の仕事は歯科医で、それで生活しているが、こうしたブログをして、数冊の本を出版することで、想像もできない人と会ったり、面白い経験を味わえた。こうしたことをこのトークイベントでしゃべった。開業する時に、私の実家である尼崎市で開業、あるいは大学のある鹿児島市で開業、そして家内の実家がある弘前市で開業という3つの選択肢があった。多分どこで開業しても矯正歯科専門歯科医院としては何とかなったとは思う。ただ付き合う人は、歯科医の人に限られ、それ以外の人と付き合うことはまずなかったと思う。数年前まで弘前ロータリークラブに入っていたがせいぜい歯科医以外の人と知り合うとなるとこうしたクラブか高校の同級生くらいであろう。

 

多分、弘前に来て、この街とそこに住む人々に興味をもったことが、ブログを続けていることや郷土史を中心とした本を出版する理由となった。尼崎市、あるいは鹿児島市に住んだならこんなことは絶対になかったと思う。自分自身としては、津軽、あるいは弘前というのはまったく別世界で、冬の雪ひとつとっても今まで経験したことのない場所であった。調べると、景色や風景だけでなく、文化そのものが他の地域とは大きな違いがあり、さらに独特な個性的な人物を輩出しているのがわかった。そうした人物の履歴を追ううち、津軽の素晴らしさに気づくようになった。おそらく元々、ここで暮らす人々は、それが当たり前すぎて、それほどすごいとは思わないだろう。こうしたブログで知り合った、九州、久留米のお医者さんのおばさんは、縁があって、明治時代に弘前から九州、久留米に嫁いだ。死ぬまで故郷に帰ることはなかったが、いつも孫に津軽の良さと思い出を話し聞かせた。子供心に久留米にいて津軽への強い憧れがあったという。

 

千葉商店、すずめのお宿、イトーヨーカドーもなくなり、弘前市もなんだかどんどん衰退してしまうのかと寂しい気がするが、それでも若い人の力を借りて今の弘前を後世に残して欲しい。一旦なくなってしまうと、もはや二度を復活することはなく、なくなるのはあっという間だし、簡単である。行政、商工会議所、あるいは若者グループを巻き込んで、地域の活性化に励んでほしい。

 

こんな小さな街ではあるが、世界的な現代美術家の奈良美智さんはいるし、シソンヌのじろうさんや王林さんもテレビで活躍しているし、この4月からのNHK7時のニュースには副島萌生もメインキャスターとして登場する。大したものである。


2024年3月7日木曜日

矯正歯科での訴訟

 

 




あと二年ほどで医院を閉鎖する予定であるが、開業して29年、悔しいが一度だけ、患者から訴訟を示唆され、示談にしたことがある。内容は守秘義務があるために、詳しくは書けないが、通常の不正咬合の成人患者で、特に問題なく治療が経過し、あるときに顎が痛くなったという電話があったので、近所の歯科医院に行くように言った。これが問題であった。そこの歯科医院では、独特な咬合理論があり、この治療法では顎関節症は治らない、私のところでの矯正治療をしなさいと勧められた。患者はこの先生の言を信頼し、そこでの矯正治療費分(私のところの2倍)を返金するよう、内容証明書付きの手紙が来た。従わない場合は、訴訟を示唆された。顎関節症と咬合との関連は、現在の理論では否定あるいは、少なくとも関連はないとされているので、裁判にすれば、勝訴すると思われたが、そうしたことで時間を割くのは無駄なので、そのまま示談で処理した。この時に医療訴訟についてかなり勉強したので、悔しい思いがしたが、高い勉強代と思っている。不思議なことにこの先生は能天気にいまだに年賀状で家族写真を私のところに送ってきたり、県歯科医師会の医事紛争裁定委員会の委員をしている。

 

まず医療訴訟については、患者側が勝つ可能性は相当低く、なおかつ弁護士料などを考慮すると、100万円以下の訴訟は全く無意味な行為となる。少なくとも数百万円以上の賠償金が期待できる案件でないと医療訴訟は、負ける可能性が高い上に、さらに多くの出費を余儀なくされる。具体的に言えば、弁護士料が少なくとも百万円、裁判が長引けば、さらにかかる。そして医療過誤を説明する証人、この場合は医師への謝礼は、交通費を含めると10万円から数十万円かかる。さらに一人では足りず、複数の医師、できればその道の権威、大学の教授を呼ぶとなると、大変な費用が必要となる。アメリカの裁判では、こうした弁護士料なども含めた賠償金が支払われるために、訴訟を起こす側に金銭的な負担は少ないが、日本では、原則的には訴訟を起こす患者自身が持つ場合が多い(医療訴訟では請求額の1割)。さらに訴訟には多くの期日を要するために、口では訴訟してやると言っても、実際に訴訟まで行くことはほとんどないのが実情である。

 

私の弁護士によれば、医科や他の職業でもそうであるが、内容証明書で送られてくる手紙の多くは、知人などに入れ知恵されて書かれたものが多いそうだ。いざ訴訟ということで弁護士に相談に行き、費用などの詳しい説明を受けると断念する場合が多い。仮に勝訴しても、その賠償金に比べてかかる経費があまりに多いからだ。例えば、インビザラインで治療した結果に満足せず医院を訴えたとしよう。患者が治療費100万円と精神的な慰謝料100万円の計200万円の賠償を求めて、実際に勝訴して半分の100万円の賠償金が入っても、弁護士料やその他経費で赤字となる。もちろん訴えられた側も弁護士を雇うため、着手金と成功報酬などで大きな支払いが必要となる。いずれも弁護士だけが儲かることになる。また医師、歯科医師の場合、ほとんどの先生は賠償保険に入っている。私の場合も、一応保険会社に連絡したが、実際に過失があり、裁判になった場合に支払うもので、そうでない場合は保険が適用されないということであった

 

日本がアメリカのような訴訟大国になってほしいわけではないが、100万円以下の損害賠償ができないのは患者側からすれば困ったことである。クレームと訴訟の間、できれば歯科医師会、医師会のクレーム担当委員会と第三者、できれば利害関係のない弁護士が、患者と歯科医、医師双方から意見を聞き、仲裁できるようなシステムはないだろうか。以前、学会で兵庫県歯科医師会の苦情相談委員会の講演があった。ここでは歯科用セファログラムの検査をしないで矯正治療をした場合は、訴訟されるとまず負ける旨を先生に説明し、示談するように勧め、逆に患者の誤解による場合は納得するように説明する。青森県歯科医師会や日本臨床矯正歯科医会でも患者からのクレームをまとめて通知しているが、それを見ていると、患者の誤解や歯科医の説明不足も多いが、中には明らかに歯科医側に問題がある場合がある。例えば、治療に不満があり、中断を希望しても一括払いの治療費が全く返らない。これは法律的にも治療経過に準じて返金する必要があり、そうしたことを歯科医が知らない。また転住のために転医を希望しても紹介してくれないのも医療法に触れるし、セカンドオピニオンのためにそれまでの資料と紹介状を求めても拒否するのは、患者の権利、リスボン宣言に触れる。もちろん裁判になると負ける可能性が高いが、そこまでしなくても歯科医師会や医師会で調節できる案件である。団体の信頼を高めるためには、公平な立場から先生への忠告も必要となろう。


2024年3月6日水曜日

車を持っていない、乗らない弘前人の戯言

 
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ゼロミッション都市 オスロ



Car free movement とは市内中心部への車の乗り入れ禁止を行う運動で、すでにヨーロッパを中心に、例えばバルセロナ、オスロ、ミュンヘン市内中心部への車乗り入れ禁止になっている。バルセロナは人口、168万人の大都市であるが、町の構造が碁盤の目のようになっており、そのうち9つの島のような区画が車両侵入禁止になっている。3×3の9つの区画が一つの単位で、一辺が400m近くになる。この区域には登録した車以外の侵入は禁止となり、徒歩と自転車、そしてバス、路面電車が交通となる。同様にオスロやミュンヘンも同じような仕組みで、昔、日本であったような歩行者天国のようなものではなく、ある一定の区域全てが車両通行禁止となる。全て地球温暖化への環境対策であり、やりすぎな気もないが、それでも脱クルマ社会への流れとなっている。2022年度からはパリでも市中心部の4つの区で車の乗り入れは原則的に禁止となり、車の通らなくなった道には植物やストリートファニチャーを置くようになった。さらにイタリアのミラノでも35kmの自動車道を歩行者と自転車専用のする計画があり、こうした流れはもはや世界的に潮流となっている。

 

ただ日本では、こうしたCar Free movementの動きはほとんどない。京都市のような道が狭くて、観光客でごった返しているような地域では、この運動は向いていると思うが、いまだに狭い道に車を通り、歩行者が歩けない場所もある。住民やそこで商売をしている人からすれば、家の前を車が通らないとすれば、荷物の運搬や通勤、通学に不便であると思うだろう。車のなかった時代、たぶん1960年より以前の時代には後戻りできないと思うのだろうが、逆に言えば、それ以前は車がなくても何とか生活できた。車があるのが当たり前の社会になったが、まず車が町からなくなれば、交通事故はなくなる、排気ガスを吸わなくなる、タイヤや道路の粉塵による塵肺や肺がんを減らせる、もちろん地球温暖化の環境対策となる。私自身、車を持っていないが、特に生活上困ったことはなく、大概は徒歩、ごく稀にバスとタクシーで事が足りる。

 

車の通行を禁止にすれば、救急車や消防車などの緊急車両、郵便、宅配、工事車などはどうなるのか、これは許可制にすれば問題ない。冬、雪が降った時の除雪はどうするか、これも普通にすれば良いが、車一台が通る分のみ除雪すればいいのかもしれない。おそらく車の侵入禁止によるデメリットも、工夫すればなんとか解決できるのだろう。私が住む、青森県では、一家に一台ではなく、一人に一台の状況で、どこに行くのも、それこそ100m離れたコンビニに行くのも車を使うのが当たり前である。普通に考えると、車体本体価格、保険、ガソリン代などを考慮すると、月々の負担も相当であり、家計を圧迫しているのは確実であるが、こうした点を指摘すると、車がないと生きていけない、買い物に行くのにどうする、子供の通学はどうするという。もちろん車のない私は生きているし、買い物は自転車か歩いていけば良いし、子供は徒歩か自転車、バスで通学できる。あれば便利というくらいのものである。

 

こうした流れが、ヨーロッパを中心に広まり、今や都市中心部には車が入れないというところが多く、逆に自転車道の拡大が急速に広まっている。また公共交通手段として、電車、路面電車が注目され、廃止となった路面電車が復活するというところも多い。実際、走っている車を見ると、ほぼ90%が車に一人でしか乗っていない。大型のランドクルーザやアルファードに乗る人は、歩行者からすれば迷惑この上ない。一人で乗るならせめて軽自動車で十分である。もちろんこうした大型車が必要なケースもあるだろうが、ほとんどは単に好きという理由で購入している。世界的にはEVカーへの転換を図っているが、そもそも個人ごとに車が必要か、あるいは大型車が必要かという問題があり、業務用以外の自家用車については増税でもよい。タバコ、セブンスターの価格は1970年頃、100円くらいであった。それが今では560円と6倍ちかく値上がりしている。一方、自動車税は1976年の軽自動車の自家用が5200円、令和3年が6900円とほとんど変化はない。タバコは肺がんの原因として懲罰的な扱いで値上げされてきたが、クルマについてはそうした動きはない。

弘前市で言えば、個人的には土手町は恒久的な自動車侵入禁止地区にして、現在の道路を融雪にして歩行者と自転車の道にしてほしい。どっちみち、ここを通る自動車のほとんどは単に通行するだけで、ここを通行禁止にしても買い物客数には変化はないはずである。むしろ、道路の真ん中に小川を流し、周囲に花や木を植え、ベンチを拵え、屋外のカファテラスを設ける方がよほど集客につながるように思えるのだが。弘前駅から上土手町に行くエキドテプロムナードがあるが、あれを土手町全てに拡張するようなイメージである。エキドテプロムーナードは全然、人がいないではないかという人もいるが、どっちみち通行人は少ないのでそれほど変化はないと思える。弘前れんが倉庫美術館を設計した世界的建築の田根剛さんが担当すれば、歴史に残るプロムナードができるかもしれない。

2024年3月2日土曜日

弘南鉄道を潰すな

 



全国の路面電車の収支について考えてみた。以前、住んでいた鹿児島市にも路面電車があり鹿児島市郊外の谷山と市内を結ぶ路面電車があるが、市バスと合わせた令和4年度の赤字は2億800万円となる。同じく函館の路面電車でも毎年、2から3億円の補填をしている。また札幌市電では令和5年で2億5千万円の赤字、最新の電車を導入している富山市電でさえ令和5年では34千万円の赤字、熊本市電では令和4年で5800万円の赤字であったが、昨年は黒字になった。長崎の市電も2020年度で言えば38000万円の赤字など、多くの路線で経営的には厳しい状況が続いている。

人口の多い東京都でも、バス運行に限って言えば、令和3年度は565千万円、令和4年度は178千万円の赤字であるが、東京メトロは令和5年度で88億円の黒字となっており、同様に大阪シティーバスも赤字であるは、地下鉄が黒字で、バスの赤字を地下鉄がカバーしている構図である。同様に名古屋でも市バスは63億円の補助金を受けながら9億円の赤字、地下鉄は大阪や東京都違い、76億円の補助があるが、34億円の赤字となっている。

まあこうして各地の公共交通機関の収支を出してみたが、ほとんどは赤字で、黒字のところをみても、多くの補助金が出ている。通常の会社経営という点からすれば、全国の公共機関のほとんどは倒産ということになり、それを防ぐとすれば、収益性の高い路線のみを残し、収益の低い路線は廃止するということになる。そうなると同じ市内に住んでいるのに全く公共交通手段がないところが出てくる。公共機関という位置付けからすれば、こういうことが起こってはいけない。

最近、弘南鉄道の大鰐線の廃止を求める弘前市会議員の発言が相次いでいる。木村隆洋議員は「大鰐線は財政支援せずに、弘南線に集中すべきだ」、竹内博之議員は「公共交通機関の責務を果たせるだけの体力や組織力があるのか。2路線両方は無理で、選択と集中が必要ではないか」と発言している。大鰐線は弘前中央弘前駅から大鰐までの路線で、並行してJRの奥羽線が走っているので、大鰐までというなら必要ないのかもしれない。現在、大鰐線は1時間毎の運転であるが、JRも1日に12本の運転である。ただ大鰐線が廃止されると、沿線の津軽大沢や石川などの住民はバス路線の活用ということになる。沿線の地域の公共交通はバスに代替りとなるが、バス会社の母体は、同じ弘南鉄道で、ここも乗客数の減少で、経営的に厳しく、例えば、大沢までのバス運行も実際は廃止したいところであろう。この地域に1時間に1本のバス運行をさせる余裕はこの会社にはない。イトーヨーカドーのような全国的な会社であれば、とっくに弘南鉄道(大鰐、黒石線)や弘前バスは廃止にするか、黒字路線のみを残すであろう。地元企業なだけに撤退できないだけであり、本音を言えば、弘前市に引きとって欲しいと思っているだろう。

 

弘前市及び周辺市町村による活性化支援協議会は、路線存続のためにこの5年間で51千万円の財政支援をしてきた。額として年間1億円になる。それでも弘南鉄道はこの金額では足りず、さらなる支援を求めているが、市議会では、これ以上の支援はできないということである。もし弘南鉄道、弘南バスが民間の会社ではなく、市営であったなら、こんなに簡単に廃止という意見が出るだろうか。青森市バスの経営状況をみても平成24年度は2億円程度の赤字であるが、青森市議会から市バスを廃止しろ、赤字路線を廃止しろと言った乱暴な声はない。公共交通機関であるからである。一番、廃止して欲しいのは実を言えば弘南鉄道、弘南バスであり、民間の会社としては、赤字路線を廃止したいのは山々であり、赤字でもやっているのは、市町村から公共交通と言われ、それに協力しているからである。私だったら開き直って、市議会の誰それが廃止を求めているようなので、それに従って廃止しますと言いかねない。

 

弘前バス、弘南電鉄の事業が公共交通機関であるなら、本来、市がやるべき事業であり、民間に責任を押し付けるなら、弘前市も相当な覚悟と協力は必要であろう。やめるのは信じられないくらい簡単で、元々会社自体がそれほど乗り気でないので、市長が廃止といえば、すぐにでも廃止になるだろう。潰すのは簡単であるが、一度潰せば、もう二度と復活することはできない。仮にヨーロッパのように市内への車両通行禁止となると、バスと電車が主要な通行手段となる。地球温暖化対策の一つの方法として、これは一つの方法であり、車を乗らない私からすれば、弘前の旧市内を原則として車禁止として、バスと電車、徒歩、自転車のみとすれば、これは日本でも最初の試みとして、逆に脚光を浴びるかもしれないと思う。本当に潰すのは簡単なだけに、何とかして弘南鉄道は存続してほしい。個人的な意見としては、大鰐線に旧式 2両編成の車両は必要なく、宇都宮ライトレールのような新世代路面電車「LRT」のような車両を弘前市の補助金で買ってほしいくらいである。実際に熊本市電では、昨年度の予算で、3億円の予算で新型車両を購入することが決まり、さらに路線延長のために135億円の予算をとっている。近年、路面電車は観光の目玉となり、世界的に復権傾向となっている。大鰐線で言えば、14の駅のうち、弘前市内にある駅は11駅で、ほぼ市内を運行する路面電車と同じものと考えてよい。



2024年3月1日金曜日

インビザラインが危ない

 



インビザラインの母体、アライン・テクノロジー社の株価を注目している。昨年の11月に2018年以来最安値の185ドルになったので、一気に下降するのかと思ったが、少し持ち直し、今は313ドルになっている。それでも2021年の高値、737ドルに比べると半値以下である。そろそろ頭打ちしてきたようだ。

 

インビザラインについては、あまり好きにならず、このブログでも批判してきた。そもそも最初の咬合状態から最終の状態までを最初に決めて、アライナーを作製するのは不可能と思った。そのうち、歯につけるアタッチメントや頻回なクリンチェックをするようになったが、それでもワイヤー矯正のような応用や仕上がりは無理と思っていた。ところが尾島先生のYouTubeを見ていると、ここ二年ほど、アライナー矯正も格段に進歩し、まず最初に口腔内スキャナー、デジタル印象で咬合を見て、それをソフトで最終形態になるまで、歯を少しずつ動かしシミュレーションを作る。ここまでは従来のインビザラインと同じである。このあと3Dプリンターで形状記憶の性状をもつ材質で、アライナーを作る。せいぜい4、5回先を予測して作成していくため、症例の経過にそって治療法を変えられる。

 

ワイヤー矯正においてもそうであるが、同じようなフォースシステムを使っても歯の動きが個人によって全く違っていて、患者個人によって治療法は変わるし、ストレートワイヤーテクニックといってもワイヤーベンディングがほとんどの場合に必要である。実際にアライナー矯正においても最初の計画通りに歯が動く確率は50%程度と言われ、何らかの治療方針の変更は必ず必要といえよう。そうであれば、数回ごとに印象をとって、その都度、治療方針をたて、新たなアライナーを作製するのは理にかなっている。

 

さらにいうとアライナー作製の技工料は、今はいくらになったか知らないが、一症例で30万円ほど、ケースが多くなり割引が高くなってもこの半分、15万円くらいかかる。ワイヤー矯正においてはブラケットやワイヤーの材料費は全て込みで10万円かかることはない。通常は5万円以下である。年間百症例のインビザラインを注文すると技工代だけで、年間2000万円かかることになる。これをインハウス、自分の医院で設計し、作製すれば、材料費のみとなり、ワイヤー矯正と同様の材料費となる。

 

調べてみると、まず口腔内スキャナーは300万円程度、画像ソフトの値段はわからないかったが、3Dプリンターは200-300万円くらいで、材料費は12万円程度で、おそらく1000万円もあれば、設備は整えられ、診療室でほぼすべての作業ができる。経営者感覚でみると、毎年100症例のインビザラインケースがあるところでは、ほぼ一年で設備費は回収できる。通常、設備投資、特にこうしたデジタル機材は陳腐化が早いので、5年程度で設備費の回収が必要であるが、おそらく年間20症例以上であれば十分に回収可能である。

 

自分のところでアライナーを作るということは、コストの問題だけでなく、治療精度も高まるし、治療方針修正による発注ロスも減り、ますます個別化が必要な矯正治療分野では、デメリットよりメリットの方がはるかに高い。実際、アライナ社が持つ特許との兼ね合いは不明であるが、今後、世界中のインビザラインユーザー、それも大口の歯科医からの注文がなくなると、アライナー社自体も存続が厳しくなる。年間20症例以下の小口の歯科医院からの注文だけとなる。さらに技工所と連携すると、製作のみを依頼することができ、わざわざ海外の会社に注文する必要もなくなる。

 

私があと10年若かったら、是非とも取り入れたい方法で、おそらくは従来のワイヤー矯正とのコンビネーションも可能であり、抜歯症例、アンカレッジ、埋伏歯の牽引、骨性癒着歯、トルクが必要なケースなど、細かい治療法をアライナー矯正でもできると思われるし、無理なら一部ワイヤー矯正を付加し、それに沿ったアライナー設計をして自院で作れば良い。被ばく線量については気にはなるが、CT画像を組み込めば、より精度の高い治療が可能であろう。もちろん、ソフトを使ってシミレーションをする場合は、ワイヤー矯正についての豊富な経験が必要であり、簡単であるということで参入した一般歯科医は、この時点で排除される。おそらくインビザラインの技工料金は下がる可能性は少なく、矯正治療料金も百万円程度はするであろうが、インハウスによる治療では技工料が下がるために、安い治療費にもできるし、何よりも患者の求める結果により近づける。インビザラインと一緒に一般歯科医での矯正治療も自然と淘汰されていくだろうし、私はそれを望んでいる。

 


2024年2月22日木曜日

2024年度診療報酬改定 矯正相談料

 



2024年度の歯科診療報酬改定について厚労省から発表があった。この中で、初めて「矯正相談料」が新設された。矯正相談料1は主として矯正専門医院、矯正相談料2は主として一般歯科医院で、年度で一回のみ420点が算定できる。学校歯科健診で歯科矯正の適用となる咬合異常(先天歯、口蓋裂、先天性疾患に伴う不正咬合)や顎変形症が疑われる患者に対して保険適用の適否について文書で提供した場合に算定できる。

 

具体的に言えば、4月に学校歯科健診で、不正咬合が指摘され、それを近所の歯科医院に相談に行ったとしよう。従来では、不正咬合では診断名とならないので、この場合は自費治療となった。学校で指摘されたのに、歯科医院に行くと保険が効かないと言われれば、納得しない親も多いだろう。それが歯科医院に行くと、噛み合わせが逆で、将来的に手術が必要となる、あるいはこの症例は手術が必要ない、もう少し様子を見なくてはいけない、専門医に紹介した方が良い、など色々な判断が下され、これを文書にして患者の親に渡せば、おそらく初診料233点と矯正相談料2420点、計655点、さらにパントモ、セファロなどを撮れば、その費用も加算できることになる。これを矯正専門医に紹介した場合は、その矯正歯科医は、今度は矯正相談料1を算定できると思われる。一般歯科医を通さずに直接、矯正歯科医院に来た時も、矯正相談料1となる。

 

反対咬合については、機能的反対咬合と言って、前歯の早期接触により下顎が前に動かしてかみ合わせが逆になることもあるが、通常は多少とも下顎の前方への過成長がある場合が多い。この場合は、将来的に外科的矯正になる可能性があるために、矯正相談料は算定できる。上顎前突についても反対咬合ほどではないが、外科矯正の可能性もあるし、交叉咬合もそうである。ただ歯のデコボコ、叢生については将来的に外科的矯正あるいは保険の適用となるとは考えられない。このあたりをどうするかは、もう少しはっきりしてくるだろう。ただ学校歯科検診では、歯並びの診断は、異常なし:0、要観察:1、要精検:2の3つの段階があり、学校から通知されるのが、このうち2であるなら、反対咬合、上顎前突だけでなく、叢生や開咬もこれにはいるため、実際はひどい叢生であっても、要精検、歯並びの問題があるとして、学校から歯科医院で行くようにと言われる。要精検であれば、咬合の種類は問われない可能性が高い。

 

一方、一部の矯正歯科医院では、マイナンバーカードの準備やレセコンの導入に躊躇して、保険診療をしていないところがある。この場合、顎変形症については、保険を使わないで、術前、術後矯正をする場合は、手術、入院も自費となるため、外科的矯正は事実上できないことを意味する。実際に保険治療はしていないが、保険医療機関である場合、学校検診で不正咬合の通知を受けて受診したときは、必ずこの矯正相談料1を取らなくてはいけない。保険項目を自費で取るのは、制度上許されていないからである。まず保険医療機関の返上が必要となる。私のところでは、相談料はこれまで3000円であったが、矯正相談料を適用できるなら、420点+233点?が取れるため収入増となるし、患者にとっても3割負担で安くなる。

 

おそらく厚労省に狙いは、まず矯正相談料という項目を新設し、実際にどのくらいの件数が出るかを知りたいのであろう。人数がそれほど多くなければ、将来的には治療自体も保険適用になるし、数が多すぎて莫大な費用がかかるとなると、これまで通りに治療は自費ということになろう。矯正治療の保険の点数は、10年単位の治療期間でみると、トータルで7万点くらい70万円くらいになるため、該当者の数が多いと、財政の負担が大きい。ただ従来の学校検診の指針はかなりばらつきがあり、ある先生は少しでも不正咬合があれば、2の要精検にする一方、別の先生はかなりひどい症例だけ2の評価をするために、学校により2に該当する人数がかなり違う。厚労省と文科省とすり合わせ、かなりひどい症例のみ2にするような指導も必要かもしれない。

 

健康保険は公平性が全く守られておらず、若い人は保険料が払っているが、あまり恩恵がないのに対して、年寄りは保険料をあまり払っていないのに、医療的な恩恵は大きい。特に近年は子供の虫歯はほとんどなくなっているので、親からすれば、医療保険料を払っているのに、子供が歯科治療の恩恵を受けることはない。これは損であると考えても無理はない。せめて前歯で物を噛みきれない、反対咬合、上顎前突、開咬などひどい不正咬合については、是非とも保険適用になってほしい。ただ学校検診の指標で言えば、要観察1と要精検2の差が難しく、本来なら軽度―中等度の不正咬合は自費で治療を、重度の不正咬合は保険でという流れが望ましいが、実際に両者の区別は難しく、欧米の倣い、保険適用については、厳密なグレードによる点数付けが必要と思われる。個別指導でチェックしてグレードの低い、重症でない症例を保険で治療した場合は、返金などのペナルティーがあっても良いし、あるいはこの矯正相談1、2の文書提出に際して、グレードによる点数化をさせれば良い。例えば、学校歯科検診で、歯科医院を受診した場合、オーバジェット、オーバーバイトや叢生量、骨格異常などの診査項目に沿って点数付けを行い、その点数がある基準以上であれば、重度の不正咬合と認定し、保険適用となるようなシステム。現実的にはこうした流れか。

 

制度上は、重度の不正咬合の矯正治療を保険にすることは可能であるが、一方、受け入れ医療機関が足りない可能性もある。重度の不正咬合の治療には、高度なテクニックが必要であり、手術を併用することもある。そのためトレーニングを受けた矯正歯科医による治療が望ましい。その場合、日本専門医機構認定の矯正歯科専門医の資格を持つ先生がいる医院での治療が望ましいが、残念ながら青森県では該当医がおらず、不正咬合の患者が保険治療での治療を希望しようとしても、いく歯科医院がないということも起こり得る。これもまた不公平である。