2009年8月4日火曜日

矯正治療の難しさ



 矯正治療は、本当に難しいと感じます。通常、歯を動かし、完成するまで最低でも1年半、その後も2、3年はみるので、少なくとも4、5年はかかることになります。当院でも1995年に開業しましたが、その当時の患者さんも多数いて、すでに14年たっていることになりますし、今後もさらに経過を見て行く必要があるでしょう。

 米作りは年に一回しか収穫できないので、20年のベテラン農家でも、20回しか米作りを経験していないとも言えます。気候や品種などによっても栽培方法は違いますし、土地の耕し方や肥料の種類や与え方なども毎年違うのかもしれません。

 矯正治療も不正咬合の種類や顎骨形態の差や発育状況によっても治療法は違ってきますし、さらに患者さんの年齢、性別や性格なども関係してきます。歯を動かすのは原理的には力をかければ動きますし、実際学術雑誌では数式を用いて歯の移動を計算する論文も多くあります。ただ現実的には、計算通りに歯が動くことはありません。同じ力、同じ方向に歯を動かそうとしても個人によって、その反応は違ってきますし、同じ個人でもそれまで動いていたのが急に動かなくこともあります。大臼歯という大きな奥歯と前歯を引っぱり合えば、普通に考えれば、根が小さな前歯が動くはずです。ところが前歯が全く動かず、奥歯だけが動くこともあります。相撲取りと子どもがロープを引っぱりあい、子どもが動かず、相撲取りのみが動くようなものです。数式ではあり得ないことです。

 かみ合わせというのは、長年その状態であったのですから、口の機能面からすれば今の状態が最も安定した状態です。それを矯正治療するということは一旦安定性を崩すことになります。その抵抗の仕方が個人によって変わってきますし、また矯正治療後の安定性も違ってきます。ある患者では、矯正治療をしてワイヤーを入れると、それこそあたかもそこに歯が動きたかっているかのように、どんどん並んでいきます。当然治療期間も早い。一方、ある患者さんでは、色々な方法を試してもいっこうに歯が意図したところに動いていきません。治療期間もかかりますし、どうしても治療後の後戻りも多い。特に悩まされるのは、かみ合わせが深い場合と舌機能の問題がある症例です。

 かみ合わせが深い患者さんの場合、咬む力が強いため、なかなかかみ合わせが浅くすることができませんし、舌機能に問題がある患者さんではゴムなどを使って咬ませても、また開いてきます。

 時折、昔矯正治療が終了した患者さんが何年もたって来ることがあります。口をみるまでいつもびくびくしている状況で、どれだけ後戻りしているか本当に怖いというのが実感です。多くの患者さんでは前歯がでこぼこしてきたと来られる訳ですが、ほとんどの場合、なんだこれだけしか戻っていないのかと逆にほっとします。簡単な再治療で治るためです。それでも治療後、10年、20年、30年たったらどうなるのか、未だ心配です。一度、鹿児島大学で治療した時の患者さんと15年ぶりに会ったときも,まず最初に見るのは口元です。きれいな笑顔を見ると本当にうれしく感じます。

 矯正治療を学んで25年以上たちますが、それでも本当に難しい仕事だと思います。

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