2011年3月7日月曜日

歯科助手



 「青歯会報」という青森県歯科医師会の発行している雑誌の最新号(459巻 2011年3月号)にアメリカの歯科助手ついての面白い話が載っていたので紹介する。著者は上十三支部の大島忍先生で、ご主人の関係で現在アメリカに在住して、どういう訳かアメリカで歯科医ではなく、歯科助手をしている。ライセンスの問題もあるが、著者も言っているように好奇心から、この仕事を選んだようだ。

 アメリカのカリフォルニア州では、歯科助手(Dental Assistant)はカレッジ(短大)、民間施設のコースなどで、40時間の歯科学全般の講義と500時間の実践トレーニングからなる半年から1年のプログラムを受け、合格するとDAの終了証書がもらえ、歯科医院での治療の準備や歯科医師の治療補助ができる。ここまではほぼ日本の歯科助手と同じで、日本でも歯科医師会主催の助手コース、これは乙種の場合は72時間、甲種の場合は約400時間の講義と実習を受ける必要があるが、両者とも医師法により業務はかなり限定され、基本的には患者の口に直接タッチすることはできない。器材の片付け、セメント、印象剤の練和、レントゲンの現像などができ、バキュームなごの診療補助は微妙であるが、これ以上のことはできない。

 ここからがアメリカ的なところで、このDAの上にRDA(Registered Dental Assistant)という制度がある。州公認の歯科助手のことで、1.X線撮影の講義(32時間)、2. 歯面清掃の講義と実技(16時間)、3. 感染予防の講義(8時間)、4.カリフォルニア歯科規定講義(2時間)、5. 心肺機能蘇生術コース、6. シーラント処置(16歯)と実技 の講義と実習を終了し、州の試験に合格して初めてRDAとなる。当然、時給面でもDAよりは高くなる。RDAになれば、日本の歯科衛生士に近い仕事ができ、口腔内診査、テンポラリークラウンの製作、合着、縁上歯肉の過剰セメントの除去、スタディモデルの印象、咬合採得などが歯科医師監視したで法的にも許されている。日本では歯科助手がこういった仕事をそれば違法となる。さらにRDAの上には外科、矯正、歯科修復専門の上級コースがあり、これはRDA EF(RDA Extended Function)と呼ばれ、州のテストに合格すればさらに業務範囲が増え、サラリーも増加する。

 RDAやRDA EFの試験は難しく、基礎から臨床に及ぶ広い範囲から出題されるペーパー試験とタイポドント模型を使った実技テストからなる。

 一方、アメリカの歯科衛生士は、確か4年生大学で歯科衛生士のプログラムを受けるが、大変人気が高く、難しい。歯科衛生士も学校卒業した時点ではDH(Dental Hygienist)だが、州の試験に通ってRDHとなり、さらに専門のコースに進むとRDH EFとなる。衛生士は週給も高く、30-40ドルくらいあり、結婚、出産、子育てなどライフスパンに合わせて勤務形態を変えることも可能で、白人占有率の非常に高い職業の一つである。多くのアメリカの歯科医院では、衛生士を雇わないで、歯科助手だけのところも多く、また歯科衛生士を雇っているところは、衛生士用の部屋を用意し、そこペリオの治療などを単独でさせている。局所麻酔や縁下歯石の除去や当然レントゲン撮影も可能である。

 アメリカはおかしな国であるが、プラグマティズムの国で、こういった勉強すれば、それの伴った資格を取ることができ、さらには業務も法律で拡大することができ、サラリーも増える。そのため、一旦就職しても、より高い資格と給料を得ようとキャリアアップが可能となる。翻って日本ではどうかというと、日本の歯科衛生士は現在3年の教育期間が義務づけられているが、その業務範囲は2年だった時と全く変わっていない。歯石除去にしても歯石は縁上と縁下で分かれているわけではなく、連続してついているのであるから、それを縁下はできないというのはおかしい。確かにアメリカのように局所麻酔を歯科衛生士がするというのは問題だが、歯周疾患、う蝕予防、あるいはレントゲン撮影についてはもっと業務範囲を拡大しても3年間の授業と実習があるなら、試験に合格すれば許してもよいと思う。

 一方、歯科助手の制度については、現在、歯科医師会などの講習会でその資格を取ることができるが、受講者は原則的には歯科医院の勤務している人に限られていること、きちんとした教育カリキュラムを組むのが難しいこと、第三者機関による試験を行っていないこと、民間の資格であることなどから、医療従事者として、医療システムに入ることができない存在であり、これを充実するには歯科医師会以外の民間の学校で1年間のきちんとした教育を受け、それを歯科医師会で厳正な試験をして県単位の資格を与える必要があろう。乙種歯科助手の講習時間は72時間とされているが、准看護士の1500時間のカリキュラムに比べて余りに少ない。逆に甲種歯科助手の講習時間は400時間と長いが、甲種、乙種の業務範囲、仕事は全く同じである。歯科も医療であるなら、受付、事務員以外の診療にタッチする従業員は何らかの資格をもつ構成になるのが望ましい。医科では看護士会の働きで、准看護の制度は次第に廃止され、看護士を中心として体制になっているが、歯科医院では依然としてある意味無資格の歯科助手という存在があり、医科に準じるなら歯科衛生士だけにするのか、人が足りないなら歯科助手をきちんとした資格とする必要があろう。そろそろ歯科助手に関しては抜本的な改革が求められる。

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