2016年5月16日月曜日

子どもの歯科矯正治療を健康保険の適用に 2

トム・クルーズ

フェイ・ダナウェイ


 昨日は、第32回東北矯正歯科学会に出席してきた。鹿児島大学でお世話になった黒江先生の講演があるため、朝650分のバスに乗って盛岡に行った。朝一番、“超高齢社会の歯科医療を展望する”題して、国立長寿医療研究センターの角保徳先生の講演があった。齲蝕は20年前に比べて1/5に減少し、歯周疾患も減少傾向にあるという。代わって口腔ケアー、管理を主体とする高齢者型の歯科に移行していくであろうという内容であった。

 小児の齲蝕が減る、あるいはほとんどなくなる時代とは、国民の多くが歯科医院に行かない状況を意味する。ところが、高齢者になって認知症、寝たきりになると、歯の問題が一気に噴出する。歯がなく、総義歯の場合に比べて、歯があるためにかえって口腔内の清掃が難しくなり、歯周疾患や疼痛の原因となる。こうしたことから、通院を主体とした歯科医院での治療から、在宅での口腔内管理や嚥下指導が歯科の主たる活動となる。厚労省の歯科医療戦略は、従来の治療を主体としたものから、管理、ケアーを主体としたものに変化しており、今後とも齲蝕のない世代が老人となる数十年後はさらにこうした流れは顕著となろう。

 実際に、すでに齲蝕がない世代が老人化している北欧では、こうした流れとなっている。演者の角先生は、高齢者型の歯科状況においては、歯科医数は将来的には足りなくなるとしていたが、管理、ケアーと主体とした歯科医療で、果たして10万人の歯科医師が医師なみの収入を得ることができるであろうか。単純なモデルで考えれば、疾患が1/5になれば、それを治す医療従事者も1/5でよいはずである。歯周疾患が減少はそれほど急激でないとしても、歯科医師数はせいぜい半分で十分であろう。残り半分をこうした高齢者型の歯科に移行するには、いくら高齢者の数が増加といっても、管理者は何も歯科医師でなくても、介護士、看護師、衛生士である程度は代用できるため、必然的には医師と歯科医師の収入差はますます広がるであろうし、さらにいうなら、一般の会社員と収入が変わらなければ、高い授業料と期間をかけて歯科医になる者も居ないだろう。実際に多くの歯科大学で定員割れしているのは、その証拠である。

 このような高齢者を中心とした健康保険制度は、一方では健康保険の主たる負担者である若い世代からからすれば、費用の公平性を欠くという異論もでよう。もちろん自分たちの将来の安心という意味では、老後に安心して最高の医療を受けられるというのは大きなメリットではあろうが、直接的な恩恵がない状況もまた納得しにくい。歯科ではさらに、こうした問題は深刻で、齲蝕がなく、ほとんど歯科医院に行くことがない人たちからすれば、少なくとも歯科医療に関わる健康保険の負担分は無駄となる。12 歳児における齲蝕歯、処置歯が0.5本以下となった時代は、成人になるまでほとんど歯科医療費を使わないことになる。使わなければ、その分、負担を減らせということになる。欧米では齲蝕は自己責任という考えが主体となってきており、齲蝕があるのは生活環境に問題があり、普通はならないものだという見解がとられつつあり、国の健康保険から除外あるいは、負担率が上がる動きもある。

 不正咬合に対する矯正治療は、ヨーロッパでは健康保険、アメリカでは民間保険の適用となり、多くの子ども達が治療を受けている。翻って、日本では一部の先天疾患の子どもに対する治療を除き、保険がきかない。結果的には、資産のある子ども達は矯正治療を受け、きれいな歯並びであるが、貧困所帯では不正咬合が放置されることになる。良好な咬合は、単に審美的な面だけでなく、咀嚼や嚥下、呼吸にも関連する。こうしたことから重度の不正咬合については、健康保険の適用になるべきであろう。具体的には小児の反対咬合、上顎前突は成長期から治療することで、顎発育をコントロールできるため、早期治療の意義がある。また重度の叢生についても歯周疾患の観点からは治療対象となろう。


 小児期の齲蝕は減っている。少なくともその減った分の医療費については、矯正治療の健康保険適用分にまわしてほしい。そうすることにより、子どもの教育、生活に費用がかかる世代に対する医療費の軽減に繋がり、健康保険料の公平性、自分たちの負担が老人医療ばかりに使われという不満にも対処できよう。日本矯正歯科学会でも今年から本腰で矯正治療の保険適用に取り組むとのこと。大いに期待するし、応援したい。少なくとも、矯正治療を健康保険適用にした場合の、費用面(医療費)のシュミレーションは学会で行って、日本歯科医師会、自民党、厚労省などに提言してほしいものである。

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