2020年8月2日日曜日

香川芳園 1

香川芳園  猿田彦?

弘前昇天教会 レンガの表現がキモ


 数年前からアメリカ、シンシナティー美術館のキュレーターの方と一緒に、ある画家のことを調べている。“芳園”という号を持つ画家で、シンシナティー美術館には芳園平吉輝“と”芳園輝“の署名のある二つの作品がある。この作品は江戸後期の西山芳園の作品ということになっていたが、どうも画風や署名、印章も違い、“芳園”という号の別の画家が描いたものと推察された。そこで“須藤かく”のことで面識のある私に調査を依頼された。もちろん私はただの歯科医で、美術史に関しては全く素人であるが、文献の調査は郷土史の研究と同じ手法なので、この調査に協力することにした。また誰かはわからないが、自分の作品が、他の作家の作品に間違えられたままでいることは、故人にとっても歯がゆいことと思われるので、何とか供養の為にも解明してみたい。

 “芳園”の海外の作品を調べると、大英博物館に多くあり、ネットでも見ることができる。それを調べると、明らかに西山芳園と画風の違う“芳園輝”の署名のある二点と“芳園平輝”の署名のある作品の計3点ある。いずれも円山・四条派の華麗な作品で、西山芳園の間の大きい作品とは全く違う。署名にも“芳園輝”とシンシナティー美術館同様に“輝”の字が入っている。また2点については“應濱田氏需”の文字が入り、濱田という人の依頼で描かれたことがわかる。さらにイギリスのヴィクトリア・アルバート博物館にも“芳園輝”、“應濱田氏”いう署名の入った鷹の絵があり、この絵のことを記載している「秘蔵日本美術大観」の解説で、東大名誉教授、河野元昭は、この絵は西山芳園とは落款、画風が違うという疑問を呈している。さらにアイルランドのチェスター・ビーティー・ライブラリーには、動物、人物を描いた絵巻があり、“芳園輝”、“應濱田氏需”の署名がある。つまりシンシナティー美術館、大英博物館、ビーティーライブラリーにある6点については、いずれもほぼ同じ時期の作品群と思われる。

 他に“芳園輝”の入った作品は、私が5年前にヤフーオークションで落札したものがあるが、印章は“淳子澣印”で、海外の美術館のものとは違い、別の作者か、贋作、あるいは同じ作家でも制作時期が違うのかもしれない。その後、中国のコレクターの方から連絡があり、その方がオークションで落札した作品は、大英博物館、シンシナティー美術館と同じ印章で、署名に“芳園”と書かれた作品であった。印が同じなら、同じ作家の可能性が高い。そうなると“芳園輝”の署名だけではなく、“芳園”の二文字の署名のものも広く調査する必要がある。明治時代の画家を調べると、ほとんど作品、経歴がわからない香川芳園という画家がいる。他には浮世絵画家の野村芳園の名も検索で出るが、これは野村芳國の間違いである。香川芳園の署名のある作品は、イタリアのオークションに出ているものと今回私が購入したものの二点である。印章は“平蟾麿”、署名は“京都府画学校出仕 香川芳園”とある。画風からほぼ同じ時期、香川芳園が京都府画学校に出仕したのが明治178月なので、それ以降の作品か。さらに菊池芳文へのインタビューで「十六歳位で言いましたか、それで二十歳の時まで、滋野芳園というに就いてやりました。處が其後、先生が西國へ転じられて、行衛がわからん事になりましたので。——」とあり、菊池芳文は文久二年(1862)生まれなので、彼の師匠、香川芳園は1878年から1882年まで、つまり明治11年から15年まで大阪にいて、その後、大阪より西に移ったようである。滋野芳園は雅号を蟾麿(ひきまろ)といい、香川芳園と同じ画号で、こんな変な雅号を持つ人はいないので、同一人物である。また神戸の小西辰二郎香翠という画家が“明治四年より画を香川芳園蟾麿に学び”、また小西常次郎芳秀は“明治九年より画を香川芳園蟾麿に学ぶ”との記載があり、この頃は神戸—大阪間といえどもそう簡単には往来できず。明治四年から九年頃は神戸に住んでいたのかもしれない。また大阪の画家、岡島喜三郎香園の略歴では、“明治十一年より滋野芳園に学び、同十四年八月より田能村小斎に随い、後また専ら芳園に学ぶ”とあり、十一年より十五、六年まで大阪で弟子をとっていたのだろう。菊池芳文のインタビューと一致する。さらに香川芳園の略歴では“天保十一年三月十七日生なり、画を望月玉及び川越前守岸岱に学び、近江、伊勢、尾張、紀伊、摂津などを遊歴し、明治十六年兵庫県の命により同県下川海漁労漁具及び産魚の真写二百枚を製す”とある。これを信じれば明治十六年頃からは兵庫県の名で水産関係の仕事をしていたことになる。調べると第二回水産博覧会に神戸市が提出した「兵庫県漁具図解」があり、ネット上で関西学院大学が公開しているが、作者はわからない。これらの資料から香川芳園の履歴を想像してみたい。

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