2020年10月11日日曜日

第9回国際矯正歯科会議国際大会 マウスピース型矯正装置による治療

 


 今年の第79回日本矯正歯科学会は、第9回国際矯正歯科学会と第12回アジア太平洋矯正歯科会議との併催である。数年前から準備をしていたが、今回のコロナ騒動で、全てオンラインでの開催となった。初めてのオンライン開催、どんなものか期待半分で、講演を聞いているが、特に問題もなく、逆に退屈なところは早回しにでき便利である。一方、学会のポイントがつく特別講演は、早回しができないような仕組みがあり、画面右上に視聴時間が出ている。要は最後まで視聴しないとポイントはもらえませんよという工夫である。色々と考えるものである。

 

 ざっと見てみたが、個人的に興味があったのはインビザラインなどのマウスピース型カスタムメイド矯正歯科装置で、今回はマウスピース型矯正装置の限界、欠点、それへの対処法がメインであった。今では世界中で多くの患者さんにマウスピース型矯正装置が使われている。この装置自体は開発、販売され20年ほどたち、当初は簡単な、例えば少しのでこぼこなどに使われていて、その範囲で使う分には治療期間がかかる、途中でやめてしまうなどの欠点があるものの、大きな問題はなかった。ところが利用者が増えるにつれ、問題点が色々と出てきた。とりわけ小臼歯などの抜歯症例で、問題が頻発し、訴訟されることも増えてきた。そのため、数年前からは主として抜歯症例で歯のコントロールを良くするために、アタッチメントと呼ばれる個々の歯に白いプラスティックの装置をつけることとなった。最初は簡単な四角、三角の形状であったが、最近は本当に多くにアタッチメントが出てきている。さらに上下の歯列にゴムをかけるようにしたり、一部、ワイヤーをつけたりするようになった。

今回の講演では、さらに矯正用アンカースクリューを併用する症例も発表され、これでは通常のブラケットをつけた治療法とほとんど変わらないと思ったし、これだけ手間をかけるなら、むしろリンガルブラケットによる治療の方がよほどましと思われた。

 

マウスピース型矯正装置の問題点は、

1.     歯肉の退縮

これは某女性ブロガーが私の知っている矯正歯科医のところでインビザラインで矯正治療をしており、下の右の糸切り歯の歯茎が下がり、歯根が露出している。優れた矯正歯科医で、それに対する対処法も問題ないが、おそらくインビザラインによる歯肉退縮と歯根露出は想定外であったろう。通常のブラケットを使った矯正治療では、まずこうしたことは起こらないし、起こる場合はその前兆が早くに出る。ワイヤーと違った力、方向がかかるせいであろう。

2.     奥歯が咬まない

これもマウスピース型矯正装置でよく起こる現象で、基本的には歯体移動ができない治療法のために抜歯空隙に臨在歯が倒れこむ現象が起こり、そこのアンカーロスと臼歯部の開咬が起こる。もともとマウスピース型矯正装置は装置自体厚みがあるために、咬合力がうまく働かないし、また移動させる力も効率的でなく、臼歯をゆっくりと歯体移動させるとなると、かなりの期間を要する。

3.     トルクコントロール、前歯の圧下が難しい

マウスピース型矯正装置では力の作用点、作用機序がワイヤー矯正とは違い、トルクコントロールでは効率が悪く、また前歯の圧下も難しい。これはワイヤー矯正でもこれらの歯の移動は難しいもので、マウスピース型矯正装置ではもっと難しいと言うことであろう。

 

 私のところでは、マウスピース型矯正装置はしていないし、こうしたデミリットを聞くとますますできない。マウスピース矯正を希望する患者のほとんどは成人であり、私にところの成人の患者を見ても90%近くは抜歯ケースであり、マウスピース矯正では難度が高い症例となる。問題は治らなかった場合のことであり、マウスピース型矯正治療を希望する人は目立たないということが一番気にしており、うまくいかない場合、外側にブラケットをつける一般的な治療法を決して望まないであろう。つまりマウスピース型矯正治療でうまくいかない場合、舌側矯正治療しか選択肢がない。臼歯関係など悪くなってからの治療方法の変更なので、よほど難しくなる。私のところでは舌側矯正もしていないので自動的にマウスピース矯正はないことになるし、仮にする場合もマウスピース矯正プラス舌側矯正の費用となり、莫大な料金となる。

 

 実際、今回の発表者のケース、もちろん自分ではベストと思う症例を出しているが、大臼歯部の咬合が甘く、?がつく。これは治療法の限界なのかもしれない。結論としてマウスピース矯正は、従来のワイヤーを使った矯正治療に比べて問題点も多く、仕上げも悪い。さらにそれを改善するには、マウスピース単独での治療では難しく、ワイヤーを併用した種々の治療法が必要となる。こうしたケースの割合がかなり少なければいいのだが、もし患者から奥歯の噛み合わせが悪いと指摘された時のことは十分に考えておかないと、のちに大きなトラブルとなる。こうしたことを考えれば、やはりマウスピース矯正の適用はかなり限られており、1、2、3のトラブルに対する対処法については、患者もあらかじめ先生に聞いておいた方が良いと思う。マウスピース治療をしている多くの一般歯科では対処法はないし、そうした技術もない。せいぜいこれ以上は治療できませんと言われるだけである。私の知人の多くの矯正歯科医はマウスピース矯正に関しては懐疑的で、使う場合もかなり症例を選択している。

とりわけインビザライン などは国内の未承認医薬品であるために、重大な副作用はないものの、上記の欠点は、学会でも報告されているものなので、十分に患者にも話しておかないと、後々、大きなトラブルとなるので気をつけたい。


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