2023年5月17日水曜日

古いものが高い


 



23世紀にはこんなことになるようには思えないが


昔と違ってヤフーオークションも、あまりお宝はなくなり、こんなに安く売っているといった掘り出し物はほとんどない。特に陶器や家具、衣服などはどれも高い。これはおそらくメルカリの影響が大きく、ヤフーオークションの出展者はメリカリにも出店することが多く、メルカリでは過去に落札された値段を元にヤフーオークションの売値をつけるため、あまり安値で売ることはなくなった。ただ美術品などは、メルカリよりヤーオークションで買う人が多いので、まだ1円スタートで入札者が少ないときはかなり安く落札できるが、それ以外のものは、ほぼメルカリと同じ値段となる。つまりメルカリである程度の値段で売れるなら、ヤフーオークションで安い値段をつける必要がないからである。

 

そういうこともあり、実際に買うことはないが、物、特に中古品の値段を調べるためにメリカリを見ることは多い。メリカリの特徴としては、比較的高い値段で買う人がいるということだ。たとえば、有名な名作椅子、「Yチェア」について見ると、メルカリでは中古のそれほどコンデションがよくない物でも5から8万円で落札されている。送料込みによる違いがあっても、ヤフーオークションの価格とほぼ同じである。以前であれば、1円スタートで、1万円くらいで落札されていたこともあった。家にある1998年のカタログを見ると、Yチェアの定価は当時63000円であった。20年ほど前に青森ロイヤルホテルが潰れた時にレストランで使っていたYチェアが20脚ほど中古に流れたが、15000円以下で売られていたと思う。10年以上使った中古の家具であれば、定価の1/10くらいであり、他の家具も同じように、中古は新品にくらべて圧倒的に安いのが20年前までの状況であった。ところがここ10年、メルカリが登場すると、中古品の価格は高騰した。今のYチェアの価格は9万円くらいなので、25年前に比べて50%くらい値上がりしているが、それ以上に中古品の値上がりが大きい。

 

これは今の人々は、中古品をそれほど嫌っておらず、値段が安ければ中古でもOK という人が増えたのであろう。こうなると大変なのは、20年ほど前から全国にできたリサイクルショップで、こうした店では、できるだけ安く買って、それを高く売って収益をあげていたが、持ち込み品にあまり安い値段をつけると、お客さんはメリカリに持ち込む。100円で買って、5000円で売り、4900円儲けていたシステムが崩れることになる。そうかといってメルカリで売れる価格4000円で買ったのでは利益が出ないし、逆にそれを6000円で売ろうとしてもメルカリで買うというかもしれない。それでもリサイク関連企業のトレジャーファクトリーの株価を見ると2018年のほぼ5倍になっており、順調な経営状態である。逆にメルカリの株価は昨年に比べて今年は1/3と低迷している。ただこれについては莫大な広告費などで赤字が出ているからで、売上だけ見るとここ5年で5倍ほどになっていて、リサイクル関連企業が大幅な伸びを示している。

 

こうした中古品の高騰は、とりわけロレックスの時計では極端な形で進行している。まず20年ほど前からロレックスのダイバーズウオッチなどスポーツモデルの価格が急上昇し、その後、古いモデルも上がってきた。その後、ここ5年くらいはスポーツモデル以外のものも価格が高騰し、さらに古いモデルも含むあらゆるロレックスが高騰している。こうなるとほぼ投資対象である。こうした流れもあって、時計以外も中古になっても値段が下がらないものを買う傾向があり、高い家具が売れている。

 

この流れは、ある意味、時代の保守性、後退性を示すものかもしれない。かって1970年代、セイコーのクオーツが出たきたとき、その精度に従来の機械式時計はかないっこなく、一時はロレックスも潰れかけた。割引して売っていたこともあるし、永久メインテナンス制度ももうけたりした。人々はより最新で正確なクオーツを選んだ。同様に電化製品など、古いものは性能も遅れているとみなして、誰も買わなかったし、誰が着たかわからない服など買う人はいなかった。より新しく、性能がよく、綺麗で、科学的なものに価値を見出し、古いものは簡単に捨て去った。そしてこれが資本主義的な考えであった。ロレックスのような100年前に技術が完成したものが、年差+10秒のセイコーのクオーツに負けてはいけないのだ。これが負けるようであれば、誰も年差+0.1秒の時計を作ろうと思わない。

 

何となく、そろそろ人間社会も成熟期を迎え、あまり発展のない、遅い社会に突入しているのかもしれない。アポロ11号が月面着陸して54年、当時の未来図であれば、2023年には月面基地どころか、火星にも基地を作っていたはずである。ところが有人の月旅行すらままならず、おそらくあと100年してもカシオの時計に高値がつくのかもしれない。子供の頃は、週刊マガジンなどでよく未来図の特集があったが、そういえば最近は、未来はどうなるといった夢も語られることは少なり、逆に地球温暖化など今より暗い未来図が描かれることが多くなった。

 

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