2023年11月16日木曜日

ユーミンは天才!

 



私がユーミンの曲を初めて知ったのは、TBSドラマ「家庭の秘密」の主題歌として使われた「あの日に帰りたい」です。昭和50年(1975)の放送ですので、48年前のことです。この歌を作曲、作詞したユーミンは、この時23歳、最初のアルバム「ひこうき雲」を発売したのが1973年、21歳の時です。このファーストアルバムの中には、今でもよく歌われる「ひこうき雲」、「きっと言える」、「ベルベット・イースター」、「雨の街を」などが収録されており、翌年の1994年の2枚目のアルバム「Misslim」では、「生まれた街で」、「瞳を閉じて」、「やさしあに包まれなたなら」、「海を見ていた午後」、「12月の雨」、「魔法の鏡」、「私のフランソワーズ」、「旅立つ秋」など収録作品のほとんどが素晴らしく、今でも全く古くありません。さらに1975年に発売された3枚目のアルバム「COBALT HOUR」の中も名曲揃いで、「Cobalt Hour」、「卒業写真」、「何もきかないで」、「ルージュの伝言」、「少しだけ片想い」、「雨のステーション」などがあります。普通の歌手のアルバムでは、残る曲はせいぜい2、3曲でしょう。そしてユーミンファンには申し訳ないが、1976年に発売された4枚目のアルバム、「14番目の月」は、素敵な曲が多いものの、いまだによく聞くのは、あの名曲「中央フリーウェイ」くらいで、ようやく普通の歌手並みになりました。そして1978年に販売された5枚目のアルバム、「紅雀」ではついによく知られた曲はなくなり、世間では松任谷由実になって終わったと言われていました。ユーミンファンはその後も、出されるアルバムを買っていったのでしょうが、私的には時折ヒットが出るが、1973年から1975年のこの3年間を上回る作品はないような気がします。

 

このユーミンの3年間は奇跡の期間と言えると思います。昔の歌が、40年近く、いまだに歌われること自体があり得ないことであり、先ほど説明したようにアルバムのほぼ全曲が40年持つ名曲となっています。これはすごいことで、通常、40年持つ、これは若い人にも好かれるという普遍性を持つ曲と解釈していいのですが、立て続けに作詞、作曲できたのは、まさに神がかりです。あり得ないことで、単に天才と呼ぶだけでは足りません。名曲の条件としては、時代が変わっても歌い続かれるという要素がありますが、いくら音楽の才能があっても、それが一般の人々に好かれるとは言えず、一般の人々に好かれ、そして時代が変わっても歌われる曲を、これだけ短期間に作れる才能はすごいものです。

 

 

同時代の今でも活躍している歌手としては、年齢はバラバラですが、サザンオールスターズ、矢沢永吉、小田和正が当てはまると思います。いずれも偉大な歌手で、今でも幅広いファンを持っています。とりわけ、サザンオールスターズの桑田佳祐は、ユーミンに匹敵するヒットメーカーですが、それでも1978年に販売された最初のアルバム「熱い胸さわぎ」の10曲中、今でも歌われているのは「勝手にシンドバット」くらいでしょうし、二番目のアルバム「10ナンバーズ・カラット」は、「思い過ごしも恋のうち」、「気分しだいで責めないで」、そして名作中の名作、「いとしのエリー」が入っていて充実したアルバムですが、それでもユーミンの1973から1975年には匹敵しません。山下達郎もユーミン同様に自分で多くの曲を作詞作曲のする人で、この人の天才と呼んでいい人ですが、もともと音楽には造形の深い人で、天才ではありますが、むしろ職人に近い感じがしますし、音楽的にも万人受けする人ではありません。

 

ユーミンの1973-1975年の曲、20歳から25歳くらいの時に作られた曲は、おそらく月に1曲あるいは2曲のペースで作られたものでしょう。作曲と作詞の両方ですので、次から次へと湧き出すようにできたのでしょう。以前、ユーミンにインタビューしたテレビ番組で、曲を作るのは、ピアノやギターで作るのではなく、ハミングしたメロディーを録音して、だんだんと曲にしていき、それをスコアーに書き起こす。そして完成した曲に歌詞をつけると言っていました。頭に浮かんだメロディーをラジカセに次々と吹き込んでいたのでしょう。実際に曲になるのは、何十、何百のメロディの中から生まれるのでしょうが、1970年当時はそれこそ天上から曲が降ってくるように新しいメロディが出たのでしょう。

 

どんな作曲、作詞家でも、10曲書いて、ほとんどの曲をヒットさせるのは不可能なことです。というには、ヒットというのは、曲の良し悪しより、多くの大衆に支持されるかであり、これは作曲、作詞家は読めないからです。その点、1970年代のユーミンはある意味、奇跡の歌手であり、作詞家、作曲家であったと思います。もう一つのユーミンの功績は、サザンなどにも言えるのですが、70歳近くになっても現役でバリバリ歌っていることで、これは日本の音楽史上でも初めてのことです。海外ではビートルズやローリングストーンズの連中がいまだに活躍していますが、日本では長い間、歌手、それも演歌以外の歌手は、若者と勝手に思われていました。私が20歳の頃に、当時の70歳近い歌手、例えば渡辺はま子、藤山一郎、東海林太郎の歌を聞くことはまずありませんが、今の20歳の若者がユーミンやサザンの曲を聴くのはごく普通のことです。日本音楽界の成熟の表れでしょう。


0 件のコメント: