2007年11月11日日曜日

近藤翠石の掛け軸



左の掛け軸は昨年、ヤフーオークションで8000円で買ったものです。落款は翠石となっており、Googleで検索すると、大橋翠石と近藤翠石の二人の画家が検索されます。大橋翠石は虎の翠石と呼ばれる動物画の名手ですが、どうも落款が違うようです。近藤翠石は大阪の南画家の森琴石の弟子だそうで、現在はほとんど無名ですが、戦前は少しは有名だったようです(明治3年ー昭和25年 http://www.morikinseki.com/monzin/kyusyu.htm)。実は家にはこれと落款が全く同じ二幅の掛け軸があり、どうもふたつの掛け軸とも近藤翠石のものと思われます。
さらに賛を見ると、「庚申」と読め、これは1920年をさします。近藤翠石、49歳の時の作品と推定できます。またこの後の「孟秋」とは7月のことを言います。「能州」は今の能登地方を指しますが、その後の文字がわかりません。電子くずし字辞典で調べると(http://www.hi.u-tokyo.ac.jp/ships/shipscontroller)、どうも自次あるいは白次のように見えます。構図から左に島が右上方に二層の寺らしきものが見えます。能登半島でこれに該当するのは東海岸の穴水町付近と思われ、その付近の神社、寺を調べると、明千寺の山号が白雉山(はくじさん)とあります。Google Mapで見てみると、石川県鳳珠郡穴水町明千寺あたりの海岸線から左に能登島、右に白雉山を見たところと推定できます。おそらく雉を次と間違えたのでしょう。Google earthで立体的にみても付近の山は低く、とてもこの絵のようには切り立ったものではありません。近藤翠石がこの地を旅したときに書いたものでしょう。無料で使わせてもらっているGoogleの宣伝にもなりますが、こういった調べごとがインターネットで1、2時間で調べることができ、本当に夢みたいな話です。

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近藤翠石という画家は今ではほとんど知られていない画家ですが、この絵をみても技量は確かなものです。ただ残念なことは、いくらオークションとはいえ、たった8000円で取引されているという事実です。今の家は和室、床の間はないため、掛け軸は人気がありません。とくに南画はじみなため、オークションをみても本当に安い価格で取引されているようです。掛け軸は巻いておくと実にコンパクトになりますし、季節のものをかけておくと、そこがあたかもドアを開けた世界になり、本当に楽しいものです。額縁に入った絵は固定した窓に例えることができますが、掛け軸はドラエもんの「どこでもドア」のように、新たな世界が目の前に浮かびます。もっと注目されてもよいと思いますし、今は買い得です。名画の値段ーもう一つの日本美術史ー(瀬木慎一著 新潮新書)というおもしろい本があります。明治、大正期に活躍した野口小蘋という女流画家がいますが、大正期の画家としてはトップに近い評価を受けており、当時でも数千円の価格で取引されていたとの記載があります。今でいう数千万円に相当します。南画の評価は現在では低く、金持ちの代表的な掛け軸とされる橋本雅邦とともに非常に安くなっており、その評価の落差に驚かされます。

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