2009年10月11日日曜日

大学芸術学部を弘前に





 東奥義塾の創始者、弘前市長であった菊池九郎は、雪深く、中央から離れた、貧しく、辺鄙な青森県には何もないのではと問われ、「それでも人間がおるじゃないか」と答えた。青森県は人材の宝庫である。とくに芸術分野では、はっきりとした四季と長い冬が影響するのか、数多くの芸術家を生んでいる。北欧がそうであるように、長い冬は芸術家を生み、育てる基かもしれない。

 画家では、日本画の工藤甲人、現代アートの旗手奈良美智さん、女子美大学長の佐野ぬいさん、現代絵画の小野忠弘さん、版画家天野邦弘も弘前の出身であり、先頃亡くなった抽象絵画の村上善男さんも長らく弘前生活していた。音楽関係でも、現代音楽家の下山一二三さん、イタリアで活躍中の若手ピアニスト堀内亮さん、変わったところではドラえもん、仮面ライダー等作曲した菊池俊輔さんや鈴木キサブロー、三浦徳子、亜蘭知子さんなどの大ヒット歌謡曲の作詞、作曲家もいる。

 また弘前市内には40軒以上の美術ギャラリーがあり、音楽についても、弘前オペラ、弘前交響楽団、弘前バッハアンサンブルはじめ、27の音楽サークルが活動している。日本演劇の父と呼ばれる小山内薫は、その父が弘前藩の藩医であったことあり、古くから弘前では演劇活動が盛んで、現在でも劇団雪国、劇団弘演、弘前劇場、劇団夜行館などがあり、とくに弘前劇場は国際的にも知名度の高い地域劇団として知られている。

 人口17万人の地方都市としては、驚くほど文化的な活動が活発な街であるといえよう。こうしたことから、この弘前に大学の芸術学部を作ったらどうであろうか。先に述べた弘前の芸術家の多くは、東京の芸術大学に進学した。というのは、今は山形に東北芸術工科大学ができたが、当時東北地方に芸術大学がなかったからである。高い授業料とともに東京での生活はかなり費用がかかったであろう。

 先頃、弘前駅前の複合商業施設「ジョッパル」が40億円の負債を抱えて倒産した。こちらの新聞では駅前中心活性化のカナメのこの施設をどうするかが議論になっている。はっきりいってこれだけの負債を払うことはもはや不可能と思われる。ダイエー撤退後、売り上げの何パーセントを家賃として払うという極めておいしい条件でテナントを集めてきたが、それでもがらがらで売り上げも増えなかった。こういった施設に再度同様な商業テナントが入ることは難しいし、負債を返すことはできそうにない。むしろ大学を誘致してきて安い家賃で貸す方が地域としてはうるおう。というのは大学を誘致できれば、学生、教員が地元に落とす金も期待できるし、何よりも若者が地元を離れることが少なくなり、あるいは県外からも若者を呼べる。

 ジョッパルは、地下1階、地上4階のかなり大きな床面積を有し、5学科、120名くらいの学生は十分に収容できる。地下は音楽など遮音を必要とする活動にはもってこいだし、4階の市民ホールはそのまま演劇の講義、実習に使える。最近の芸術大学というと郊外の山に囲まれたといったところをイメージしがちであるが、やはりアクセスがよく、近所に喫茶店や飲みやなどがある中心街がよい。その点でジョッパルは街に中心にあり、バス、電車、車のアクセスもよい。4学年、教員も含めて500人を超える若者が集める意義は弘前市にとっても大きい。

 学科としては、絵画、工芸、音楽、演劇、インテリアの5学科くらいでどうであろうか。奈良美智さんなど教授で来てもらえば、それだけでも全国から学生がくる。また津軽塗、ブナコ、裂織、打刃物などの伝統工芸も発達しており、こういった校外での授業も可能であろうし、既存の工芸製作所とのコラボも可能であろう。またブナをはじめ、木材も豊富なところで、家具の設計や製作にも向いている。

 過去に本多庸一、阿部義宗、古坂 カン城(父が弘前出身)、笹森順造の4名の弘前出身の院長を輩出し、初等部が戦時中に疎開してきた青山学院大学に来てもらうことが一番望ましい。すでに青山学院女子短期大学には芸術学科があり、ノウハウはあるであろうし、ブランド名で全国からの学生を集めることができる。

 芸術学部なんだから、AtoZ 奈良美智展のように学生自身が教室を作ったら面白いし、金もかからないであろう。授業料100万円×480の4億8000万円と私学助成金8000万円の収入では、かなり学校の経営はかなりきついし、何より東京の大学が地方にくる抵抗もあるだろう。青森県、弘前市がかなり誘致に積極的な姿勢をみせないと実現は難しい。

 負債だけでなく、大学誘致にはかなり煩雑な手続きが必要で、こういった構想も実現の可能性はほとんどない夢物語だが、何らかの将来のビジョンをもった弘前市、青森県の対応が望まれる。
 

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