2009年10月22日木曜日

セファロ分析



 矯正歯科の検査というと、口、顔の写真、口の模型、口全体の大きなレントゲン写真(オルソパント)とこれは矯正歯科特有のセファロというレントゲン写真をとります。このセファロというのは、正式には側貌頭部X線規格写真と呼ばれ、一定の距離から撮った、規格した大きさの顔の横からのレントゲン写真です。大きさが一定に撮られているため、過去のものと比較することで、あごの発育などを測ることができます。

 まずこのセファロをシャーカステン上に置き、上下のあご、歯、頭蓋などを、紙にトレースしていきます。ついで種々の測定法の沿う基準点、基準線を書き込み、角度や、長さを計測しています。標準あるいは平均値との比較からずれた数値を取り出し、下あごが大きいとか、上あごが小さい、上の歯が出ているなどを調べていきます。矯正歯科では非常に重要な診断です。

 昔の医局教育では、このセファロのトレース、分析が非常に厳しく、エンピツは2Hで、線を引くときは息を止めて、一筆書きでといったことが注意されました。また同じ写真を時間、日にちをかえ、透写させ、ずれがないかチェックされたりしました。現在では、こういった操作をコンピューターの画面上でできるようになっていますので、簡単にはなっていますが、基本は変わりません。

 ここでの基準点、基準点は実際にない頭の中の架空の点を意味しますので、どこに基準をとるかが難しいところです。ある程度の臨床医になると、ほぼ一致してきますが、最近の若い先生では、コンピューターにたよるのか、ほとんど素人のような透写図を書きます。それ故、今でも専門医試験ではトレースを持参させます。トレースだけである程度診断能力が判定されるからです。

 ただここで問題になるのは、いわゆる標準値(平均値)、あるいは標準図形というものです。昔はアメリカのものを使っていましたが、さすがに白人と日本人は違うだろうということで、1950年代ころから日本人の標準値が作られるようになりました。正常咬合で、バランスのよい顔をした人を集めてセファロを撮り、その値を標準値、標準図形にしました。正常咬合をともかく、バランスのよい、いい顔というのはかなり主観的なもので、それも一大学のごく少数の被験者を対象にしたものです。確か、20-50人くらいのサンプルです。これが日本人を代表する値かというとはなはだ疑問です。アメリカのある分析法の基準は一人のハリウッドの若手女優さんのものであるというのは有名な話ですが、他の方法も統計学的な意味でいうなら、似たり寄ったりです。

 多くの集団では、計測値は正規分布を示すことが知られ、平均値付近が一番数が多く、それから離れるにつれ、数が減ってきます。日本人の70%以上は不正咬合ということを考えると、正常咬合で、バランスをとれた顔の人のみを対象とした調査は、歴代のミス日本を集めて平均したようなもので、日本人の基準値というより理想値と言った方がよいかもしれません。

 一方、日本顔学会の東京大学原島博先生の研究、これは色々な世代、人種、職業の人の平均顔を算出したものですが、平均顔というのは実にバランスのとれた顔で美男、美女であることがわかっています。私の個人的な意見ですが、案外矯正歯科で使う標準値も、こういった意味では日本人の平均を表しているかもしれません。

 顔に対する評価、とくに横顔は、一般集団、歯科医、矯正歯科医では好かれる顔は割合一致しており、口元があまり突出せず、バランスのとれた横顔が好まれますが、矯正歯科医はやや一般集団よりオトガイがやや突出し、口元は引っ込んだ白人型の横顔を好むようです。

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