2011年8月24日水曜日

再会の食卓


 近所のツタヤがなくなってから、映画ももっぱらツタヤの宅配サービスで月4本ずつ見ています。大学生のころは年間100本ほど見るほど映画好きでしたが、最近では4本みるのがやっとで、もったいないから早くやめろと家内から言われる始末です。

 「再会の食卓」という映画は、中台合作の映画で、国民党の軍人だった男が1949年に上海の港で分かれた元妻の会いに40年ぶりに母国中国を訪れることから話が始まります。台湾と中国に分断された家族を再会させようとする事業に老兵は参加し、上海にやってきます。そこには元妻の夫、身ごもったまま会っていない長男、長女、次女、その夫、家族が「台湾人が来る」と音楽隊まで用意して待っています。老兵は台湾では少しは成功した人物でしょうか、服装も中国の家族よりは立派です。さすがに40年も放ったらかしにしている妻に遠慮するのか、あるいは自分の子供でもない長男を育ててくれた今の夫に気兼ねするのか、無口でいます。

 ところがこの老兵は、しばらく滞在するうちに、とんでないことは言い始めます。老兵は実は台湾で新しい家族を作ったのですが、最近妻を亡くしたばかりです。そして元妻に「俺と一緒に台湾で住もう」と言い出すので、当然元妻は「こちらの家族もいるので、それは無理だと」と言うはずですが、何とこの元妻は「私は家族の生活のためにこれまで暮らしてきたのだから、これからはあなたとの愛に生きる」と実にあっさりと承諾してしまいます。今の夫との関係は非常にいいのにも関わらずです。いやはや。そして二人は、今の夫、家族の前でそう宣言するのです。当然、大騒動です。

 ここからの、妻、元夫、今の夫の言動は、この映画のハイライトで、3人の老優の名演技と相まって、時にはおもしろく、時には悲しく、見応えがあります。40年前によくいった上海のホテルに元妻を連れ込む元夫、離婚届けを出すために結婚手続きの写真を妻とうきうきと撮る今の夫、年をとっても男は本当にばかで、勝手な生物です。それに比べて元妻は、こういった両方の夫の言動を天秤にかけるように眺めて、どんどんきれいになっていきます。最後には今の夫が、食堂でありったけの愚痴を叫んだ後倒れるという非常手段を使い、この企てを阻止しますが、これではおそらく死ぬまで妻には頭が上がらないでしょう。

 映画自体は、小津安二郎の影響を強く受けています。今の夫は嫉妬を感じながらも、男のプライドからか、普段はけちなのに、一匹200元もする上海ガニを4匹も買ってくるシーンがあります。このシーンなど、とても小津ぽく感じました。題名通り食卓のシーンがたくさん出てきますが、色々なシチュエーションで効果的です。中国人の食欲のたくましさに圧倒されます。ただ人の皿にさあ食べなさいと次々とおかずを入れていくのは、ちょっとうっとしいと思いますが。

 王全安監督は非常に才能があるだけでなく、よく勉強しているなあと思いました。まだまだ小津の世界は手法を変えれば、現在でも十分に通用するようです。次回作が楽しみな監督の一人です。

2 件のコメント:

えんぴつ さんのコメント...

おはようございます。
時々主人と京都の四条烏丸の京都シネマに映画を観に行きます。ちょうど春にフランス映画を観に行った時に「再会の食卓」のパンフレットがあり、興味がありました。是非観てみます。

iPadは我が家でも欠かせない道具になっおります。

広瀬寿秀 さんのコメント...

コメントありがとうございます。食うということは人間の原点で、中国人の食への執着をみる映画です。食べるということを描いた映画では「バベットの晩餐会」というデンマーク映画が最も印象的でした。