2013年4月11日木曜日

未来の歯科医療




  友人の歯科医が今度、CAD-CAMの機械を買った。これまで虫歯ができ、歯の欠損が大きい場合は、金属のインレー、クラウンという補綴物を入れていた。まずタービンと呼ばれる切削器具で歯を削り、その後、歯の型を取り、模型にする。技工士さんがこの模型を使ってワックスでまず補綴物の原型を製作し、それを金属に置き換える(ロストワックス法)。最も精巧なものができるやり方である。こうしてできた補綴物を患者さんにいれる。

 これに対して、CAD-CAMによる方法は、まず歯の形を口に入る小さな機械でスキャンする。それを使い、コンピューター上で補綴物を設計する。そして陶器の棒のようなものを削りだして、補綴物を作る。最小45分でできるため、患者さんに少し待ってもらえば、即日に治療ができる。

 20年前からドイツの会社がシステムを発表し、即日にできるため、何度かテレビでも取り上げられたが、やや精度が悪く、また色調にも問題があったので、奥歯の補綴物に限定されていた。ところがここ数年の開発のスピードはすさまじく、精度は十数ミクロンとなりロストワックス法より、優れ、また材質に気泡が不純物も入らず、均質性が高い。さらに色調も多く、従来の陶材を使った方法とも併用できるいため、前歯にも十分に使えるようになったし、ジルコニアという非常に硬い材質も使用できる。

  近年、各社がこの方法に力を入れ、新しい製品を開発している。価格が高く、スキャナー、コンピューター、切削機を含めると1500万円以上する。ただ原料の陶材の棒のようなものは2000-3000円と安く、数がこなせば大きな収入となる。仮に7年間でもとをとるためには、年間240万円、月に20万円の収入がいる。人件費を無視して、一個5万円とすると、粗利が47000円、1ヶ月に5本入れれば、ペイできる。さらにいうと、こういった機械を用いた製造は数が多ければ、それだけ価格を下げられる利点を持つ。単純に機械の償却費だけを考えれば、月に200個以上いれる歯科医院であれば1個につき、1000円の利益があればよく、切削バーの消耗品を入れても患者さんには1本10000円で提供できる。これは安い。

  さらに各社が研究を進めているのは、3Dプリンターで、陶材を使えるプリンターも発明されており、将来的にはこちらの方向に向かうだろう。入れ歯もこういった3Dプリンターでできるだろうから、ますます歯科の分野でのCAD-CAMは大きなツールとなろう。

 ただこういった機械は非常に高く、新規開業では金がなく、持てないし、既存開業でもはやっているとことのみが買える。もっと言えば、超大型スーパーのような歯科医院が圧倒的に強くなる。前述したように、従来型の小さな開業医が、技工士さんに注文して前歯の補綴物を3万円で外注し、それを7万円で売ったとしよう。患者数の少ない開業医では、仮にCAD/CAMを無理して買っても、やはり7万円くらいにしないと合わない。ところが大型の最新のCAD-CAM設備をもつ歯科医院では、薄利多売をするなら、価格は2万円くらいに下げられるであろう。CAD-CAMの場合は、歯科医のする仕事は形成だけであり、患者数が増えてもそれほど負担とはならず、薄利多売ができる仕事である。こうなると価格差は1/3となり勝負にならない。さらにこういった機械は5年でほぼ陳腐するため、その期間にできるだけもうける必要があり、その点でも大型店が有利となる。

 うちの患者も進学で東京に行くと、すべての銀歯が白い歯になって帰ってくる。虫歯治療ではなく、金属のものを白くするのが歯科医の収入源となっているようだ。CAD/CAMもそういった流れで使われていくのであろう。東京ではこんな高い機械でも結構売れている。

  前回、A-decのことを書いたが、2013.3の記事で、米国海軍と約40億円の歯科器材の契約を結んだとの発表があった。歯科ユニットで約1000台分以上の契約で、病院戦、空母、基地の歯科ユニットの更新が行われるのであろう。

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