2016年4月12日火曜日

矯正患者の転医


 先月は、転医患者が7名ほどいて、その準備にてんてこ舞いであった。青森のような田舎では、大学や就職先が少ないため、高校卒業後に県外、とりわけ東京に行くケースが多い。以前は、動的矯正治療が終了して、保定になった場合も、東京の先生に紹介して、保定装置の管理を依頼していたが、あまりに数が多いため、夏休み、冬休み、春休みなど帰省の度に来院してもらうことにしている。それでも動的治療途中で転居の場合、東京から来院しろとは言えないし、実際に無理なので転医となる。

 転医の場合は、いろいろな問題がある。ひとつは治療に対する責任の所在が不明確となる。転医先からすれば、これまでの治療方針、治療内容に不満を持つことがあろうし、十分な治療ができないこともある。ことに治療が順調にいっていない場合は、患者にも不満があるために、転医先で迷惑をかけることが多い。そのため、できるだけ転医を避けようと、私のところでも高校2年生以降で治療は基本的に断っている。というのは高校2年生になったばかりの春から治療を始めても、卒業まで2年間しかなく、治療を終了できない公算が高い。そのため高校2年生以降の患者では、大学入学後での治療を勧めていて、東京の大学に進学するならそちらの矯正医を紹介することにしている。

  一方、中学生でマルチブラケット装置による治療を行うことはかなりリスクを伴う。一番大きなリスクは、この時期、情緒的に不安定で、口腔衛生、ゴムの使用など患者協力が十分にできないことがある。治療は終了しても齲蝕ができたというのはこの時期で治療したケースに多い。治療に対する動機も弱いからだと思われる。また青森では高校入試は人生の大きな節目となるため、親も中学3年生での矯正治療はストレスになることを危惧する。いきおい高校入学からの治療となることが多い。

 4月から検査をして抜歯などをしていると、装置の装着は夏休みになることが多く、平均の治療期間2年間で終われば、何とか卒業前に終わらせられるが、来院間隔が長くなったり、手術の場合、日程が合わなかったりすると、卒業までに終わらない。結果、転医となり、患者さんにも転医先の矯正医にも大きな迷惑をかけることになる。それでは高校生での矯正治療を辞めればいいのだが、そうすると治療はできない。

 私の場合は、日本臨床矯正歯科医会という団体に入っており、会員が全国にいて、転医の際もいつもお世話になりっぱなしであり、感謝している。とくに2年以上かかるようなケースは治療が順調にいっていない場合が多く、そうした症例を転医するのは誠に心苦しいことだが、皆さん快く引き受けていただいている。この団体は転医システムがきちんとしており、治療の進行度合いによって料金の返金システムをとっており、患者さんにも納得しやすい。例えば、治療の半分で転医になった場合、料金の半分を返金するシステムになっていて安心である。一方、矯正歯科医会メンバー以外からの転医患者(こちらへの)では、かなり神経を使う。というのは、こうした転医システムを理解していない歯科医がいるため、全く返金がないことがある。患者にすれば装置料が高いと理解しているようで、例えば60万円払って装置を入れ、その2か月後に転居して治療継続する場合、その後の治療費は調整料だけですむと考えている。こうした歯科医では転居の際も、地元で治療継続する歯科医を探せと患者にいうだけで、自分からは転医先を探すことはない。技工料が高い舌側矯正やインビザラインなどの装置を除くと一般的な矯正装置材料費はせいぜい数万円で、矯正治療費の高額な理由は請負料にある。他の歯科治療と一番の違いはここにあり、料金が高いからといってそれに見合った高額な材料を使っているわけでない。後戻りに対する再治療費も含めて治療結果に責任を持つという費用なのである。

 それ故、継続患者であっても紹介のない患者は、私の場合、とらないことにしている。今時、インターネットを使えば、患者の転居先の矯正専門医を見つけることは容易であり、それをしないのは高額な治療費をとりながら無責任と考えるからである。実際にきちんとした矯正医ではこうしたことはない。ただ大学病院では返金というシステムはないし、欧米の矯正専門医でもこうした返金システムはないので、こうした場合は個別に考える。

 できるだけ転医のないことが患者、ドクターにも一番望ましいことであるが、現実的には起こりうることであり、これから矯正治療をはじめる患者さんは、最初から十分に転医システムについて聞いておいた方がよい。また舌側矯正、インビザラインなどは料金面も含めて転医は難しいので、転医の可能性がある場合は、やめた方がよいだろう。

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