2018年12月25日火曜日

矯正治療で治ること、治らないこと




 私は、ビビリなので、病院で検査を受けるとかなり緊張する。いつも血圧は120130くらいだが病院で検査を受けるとこの数値が150160に跳ね上がる。12月に受けた健康診査では最初、測るとなんと180にもなり、後で嘆願してもう一度測定してもらい140になった。それでもまだ高い方である。他の検査結果についても、精査が必要と言われ、MRICTあるいは胃カメラなどによる検査を受けると、その結果が出るまで生きた気がしない。そのため、医師より特に大きな問題がありませんと言われると、本当にホッとする。

 ただ、最近は検診によるガンの見過ごしなどが話題になることが多く、少しでも問題があれば、用心のためかすぐに精密検査を受けるように言われる。先日も家内が毎年の検診で、超音波検査で膵臓の菅は肥大していると言われた。いわゆる膵臓癌の疑いである。すぐにCT検査を受け、結果は特に問題はなかったが、その間の一週間はきつかった。私も数年前に肝臓の管が同じように肥大していると言われ、MRT検査を受けたが、同様に異常はなかった。この時も相当焦った。60歳過ぎて検診で全く問題ない、全てA判定の人はいるだろうかと思うほど、最近の検診はシビアである。血圧に至っては130以上を高血圧とすると半分の人が高血圧患者となる。

 歯科の場合は、疾患がう蝕が歯周疾患というはっきりした病気なので、それほど患者をビビらせることはないと思うが、それでも最近は、患者を不安にさせる歯科医が増えてきた。例えば、歯並びが悪いと、顎関節症の原因となるばかりか、全身の不調につながると唱える歯科医がいる。そして矯正治療を勧めたり、大掛かりな補綴処置を勧めたりする。もちろん高額な治療費がかかる。患者にすれば、将来大変なことになると言われると不安となる。実際、不正咬合と顎関節症との因果関係は証明されておらず、矯正治療や補綴処置で顎関節症や肩こりや頭痛など治る可能性は少ない。人の不安に突き込む詐欺のようなものである。

 不正咬合も、実は機能的な問題は少ない。例えば、歯並びが悪いと咬む能力が減少すると考えられがちであるが、正常咬合に比べて上顎前突ではほとんど咬む能力は差がなく、デコボコでは10%くらい、外科矯正が必要なほど重度の反対咬合で50%くらいである。つまりどんな不正咬合でも正常者の半分以上はあることを意味し、日常生活には支障はほとんどない。発音に至っては、これも重度の反対咬合では一部発音はおかしなこともあるが、ほとんどの不正咬合では関係ない。つまり教科書的な不正咬合の機能障害はほとんどないことなる。もちろんう蝕は歯周病でも不正咬合との因果関係は少ない。唯一、不正咬合による問題点は、社会心理的な問題である。つまり歯並びが悪いと、自分に自信を持てない、笑顔ができない、積極的になれないなどの社会心理的なハンディがあることが証明され、それは矯正治療で改善することは多くの研究ではっきりしている。

 そのため私の診療所では、物がかみきれない、アゴが痛い、発音が悪いなど、機能的な問題の解決を求める場合は、全て矯正治療を断っている。なぜならこうした機能的な問題を矯正治療で治すエビデンスはないからである。一方、社会心理的な問題は形態の治療で改善できるので、歯並びにコンプレックがある患者には、矯正治療は勧める。これまでマイナスであったものが、矯正治療でプラスになり、コンプレックスが転じて、自分の魅力になるからである。もちろんこうした治療を医療ではないという人もいると思うが、実際に歯並びのことで悩んでいる人も多く、そうした人の役に立つなら立派な医療と考えている。医療は決して人も不幸にするものではなく、少なくとも心理的な不安を取り除くお手伝いをするところだと思っている。

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