2025年2月12日水曜日

美術館への寄贈

 





最近は断捨離の一環として、集めてきた本や絵画などを図書館や博物館に寄贈しようと考える人は多い。

まず本について言えば、図書館に持って行っても、まず100%は受け取ってもらえない。例え有名作家の初版本やサイン入りのものでも、ていよく断れるのがオチである。まず図書館の使命としては、市民に本を貸すことであり、別に本をコレクションしているわけでないので、こうした希少本は必要ない。ただ弘前市立図書館のように付属の文学館がある場合は、郷土作家の初版本や手紙など資料的な価値のあるものは引きとってくれる。一度、笹森儀助の「南島探検」の初版本(明治26年)を成田書店で2000円だったので、購入し、図書館に寄贈しようと持って行ったところ、図書館にすでに1冊あるので受け入れないと言われた。古書価格では10万円近く高価な本だが、復刻版もあり、国会図書館のデジタルアーカイブでも読めることから、必要ないとしたのだろう。もちろん生原稿や手紙であれば、図書館も受け入れるだろうが、古書に関しては基本的に受け付けていないし、購入もしていない。

両親の死後に残された古い掛け軸や陶器あるいは書物を価値があると思い、美術館や博物館に寄贈しようとする人は意外に多い。最初は担当者がきちんと対応していたものの、実態はほとんどガラクタなので、最近は基本的に寄贈を断っているところが多い。こうした依頼を受けるだけの人員もいないし、時間もないためである。

そうなると「おたからや」などの買取ショップに持ち込みであるが、こうした店では金やロレックスの腕時計のように価値がはっきりしたものは高額買取するが、訳のわからない絵や骨董などは二束三文の買取となる。昔からある骨董屋は客の高齢化による次第になくなってきており、絵や陶器などの骨董品を結局はどこも引き取ってくれずに、最終的にはゴミとして処分される。テレビの「開運 お宝鑑定団」では、古い骨董品に高い値段がつくことがあるが、あれはあくまで骨董屋の売値であって、買い値は、その1/10あるいは1/100である。お宝鑑定団で100万円と言われた掛け軸を骨董屋に持って行ってもせいぜい10万円くらいが買取価格で、絶対に100万円では買ってくれない。骨董屋にしても今どきこうした絵に興味を持つ人はかなり限られていて、そう簡単に売れないからである。仮に売れると分かっていても、利益を上げようと買取価格はできるだけ低くする。 

今回、アメリカのシンシナティー美術館に土屋嶺雪に作品20点と他の明治から昭和の中堅日本画家の作品15点を寄贈する予定であるが、一応、嶺雪の活躍した兵庫県加古川市の美術館にも問い合わせたが、寄贈は受けないということだった。もちろん応挙や若冲の絵であれば、喜んで受け入れるが、あまり有名でない日本画家の作品を受け入れるような美術館や博物館は日本にはほとんどない。調べるとシンシナティー美術館の収蔵品数は6万点、日本美術だけでも5千点以上されている。大阪中之島美術館で6千点、東京国立博物館近代美術館で13000点、それに比べて大英博物館は800万点以上、メトロポリタン美術館は300万点以上と日本の博物館や美術館の収蔵品に比べて1桁どころか2桁の違いがある。これは欧米の美術館は市民や会社からの寄贈を積極的に受け付けているのに対して、日本の美術館や博物館では消極的なためである。そもそも、日本のように原則的に寄贈を断っている限り、収蔵品は増えない。さらにいうと欧米の美術館や博物館では、寄贈を受け入れるためのスタッフや運営費もきちんとあるのだろう。私の場合で言うと、まず寄贈する作品のカタログを作り、これを美術館の館長の承認を受けたのちに、委員会で討議され、寄贈が決まると輸送費などの予算がつく。こうしたことがかなりルーチンに行われているようだが、日本の場合は寄贈、討議、予算といった流れがあまりないし、収蔵するスペースもないとよく言われる。

最近の話題として、中里の宮越家の襖絵が大英博物館にある「秋冬花鳥図」の対であることが判明し、大変な価値があることがわかった。ただもしこうしたこともなく、そのまま骨董屋に売られても、せいぜい10万円くらいの買取値しかつかないであろう。今どき襖絵ほど売れない骨董品はなく、普通の家では襖絵を飾る場所がそもそもない。東京のお金持ちは投資として現代絵画を買うことがあっても、こうした江戸時代の襖絵を買うことはなく、買うとしたら美術館だけである。作者は他の襖絵も含めて狩野永徳の弟、宗秀の門人、狩野重信とされているが、国宝、重文指定の作品もなく、日本人の個人コレクターでこうしたものを買う人は少なく、中国を中心に海外の流出することも多い。




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