2007年5月22日火曜日

Q&A 矯正治療費はいくらぐらいですか 3


一部の患者さんには矯正治療も健康保険の適用になります。口唇・口蓋裂の患者さんやダウン症、第一、第二鰓弓症候群などの患者さんの矯正治療は保険適用になりますし、また手続きすれば自立支援法を受けることができます。以前は育成・更生医療という制度でしたが、昨年度からは自立支援法という名前になりました。負担額も3割負担から1割負担になり(条件がありますが)、随分経済的な負担も軽減しました。先天異常をもつ患者さんへのこうした配慮はすばらしい制度と思えます。ただ乳児から種々の手術や治療を長期間に渡り受けるため、患者さんのご家族には通院などの負担はたいへんです。また口唇・口蓋裂の患者さんの矯正治療は初回の手術により左右されます。あごの発育抑制の少ない手術がなされた場合はほぼ矯正治療で健常者と同様な良好な咬合を得ることができます。
 下あごが異常に大きい、小さい患者さんで、その咬合の改善には手術が必要な患者さんの治療も健康保険が適用できます。一部の美容整形ではかみ合せを無視して手術をする場合もありますが、手術した後きれいな歯ならびになるようにあらかじめ準備をしてから手術を行います。だいたい1年半ほど矯正治療(術前矯正)を行ってから手術を行います。手術は大学病院などの口腔外科や形成外科で行い、矯正治療は施設基準を満たす診療所で行います。
写真はブラジルサッカー界期待の星、アレシャンドレ・パト選手です。現在18歳、次回のワールドカップのエースになるでしょう。よく見ると矯正治療を受けています。口元にわずかにブラケットが見られます。日韓、ドイツワールドカップのセンターフォワードのロナウド選手も矯正治療を受けていました(後戻りして前歯に隙間が開いてきていますが)。パト選手がでれば3大会連続、矯正治療を受けた選手がFWということになります。サッカー選手は矯正治療を受けましょう。

2007年5月19日土曜日

Q&A 矯正治療費はいくらぐらいですか2


矯正治療費についての報告はあまりありませんが、数年前に行われた「小児不正咬合の医療体系に関する研究報告書」(医療経済研究機構編)が参考になります。検査診断料や調整料など細かく集計されていますが、総額について見ると、矯正開業医で平均で662000円、小児開業医院で422000円、一般開業医院で391000円、大学矯正歯科で644000円となっています。最低、最高の幅が大きいので中間値をみると、矯正開業医院で70万円、小児開業医院で40万円、一般開業で40万円、大学矯正歯科で67.5万円となります。矯正開業、大学矯正歯科がほぼ同じで'70万円くらい、小児歯科、一般開業では安くて40万円くらいとなっています。またこのアンケートでは区、市、町の区分があり、この順序で安くなります。都会より田舎の方が安いということです。一時は100万円を超えるところもあったようですが、最近では舌側矯正を除き、それほど高いところは少ないと思います。東京で70-90万円、地方で50-70万円くらいが多いように思えます.
ちなみにアメリカでは(2004)、子どもの治療費が平均で5032$(603840円)、成人で5413$(649560円)ということです。10年ほど前は日本よりアメリカの方が安かったのですが、最近は物価も上がり、ほぼ同じくらいになっています。
この治療費が高いか安いかというのは価値観によります。けちなアメリカ人に言わせると、成人式1回に着るだけの着物に数十万円かけるのは信じられないようです。一方、矯正治療できれいなスマイルを得ることはその子の人生に大きな利益を生むと考えています。私自身、婚約の時は給料の3か月分といううたい文句に高い婚約指輪を買いましたが、その後、あまり使用されないままタンスにしまわれています。
仕事がらか、ダイヤの指輪や着物よりきれいで健康的な笑顔の方が本当に美しく思います。どうでしょうか。

2007年5月18日金曜日

Q&A 矯正治療費はいくらぐらいですか1



講演をすると一番多い質問は料金のことです。ご存知と思いますが、矯正治療は健康保険が適用できず、自費になります。昔はピアノ一台分と言われていましたが、私は成人式の着物代と説明しています。うちの娘も来年成人式で、業者から着物のDMもきたりします。今年夏にイギリスに短期留学したいと言い出したため、成人式の着物はなしだぞと言うと納得していました。矯正治療も費用がかかるため、高校生以上の患者さんでは親からのこういった説明もきくかもしれません。
矯正治療費のシステムは、大きくわけて3つのタイプに分かれます。ひとつはTotal Feeと呼ばれるもので、治療全体を例えば60万で請け負うものです。アメリカで多く採用されている方法です。装置の費用、調整料など治療に関わるすべての費用はこれに含まれます。治療開始時に1/3、途中に1/3、治療終了後に1/3という支払い方法が多いようです。治療の難度により費用は変わります。最初契約時の料金以外に追加の費用がかからないのがいい点です。2番目は大学病院や一般開業医で取られている装置別の料金システムです。例えばメタルブラケット40万円(上下)、20万円(上、下のみ)、ヘッドギアー(7万円)など装置ごとに料金が決まっていて、治療に必要な装置だけ費用が発生します。また来院ごとの調整料や観察料も必要になります。この場合の問題点は治療費の総額がいくらになるかわからない点です。また前に述べて転医の場合の料金の清算も難しくなります。3つ目は、基本治療費と調整料を組み合わせた方法です。治療に必要な装置については基本治療費に含み、別途に調整料や観察料をとるやり方です。通院回数による費用が上下しますが、基本治療費が40万円とし、通院が月1回で20回と30回では調整料を3000円とすると、総額で3万違います。装置別の方法に比べるとそれほど最終費用に差はないと思います。日本の矯正専門医で多く取られている方法です。
矯正治療が保険で行われるのは、イギリス、ドイツ、北欧などですが、全額保険でカバーできるわけではありません。大体治療費に半分くらいをカバーするようです。ただイギリスなどでは治療までに相当待たされようですし、審美性ブラケットなどもダメで、また通院も予約時間が決められるようです(自費の患者は学校終わってからの予約など優遇されるようです)。
写真はフェークの矯正装置でこんなものを作っている会社がアメリカにあるようです。3万円くらいするようですが、誰が買うのでしょうか。

2007年5月13日日曜日

下澤木鉢郎2



左の写真は昭和44年青森の青荷温泉(ランプの宿として有名)で、棟方志功、チヤさんと一緒にとった写真です。あの志功がやや遠慮して写っています。郷土の先輩ということでしょうか。「版画集に寄す」に寄せられた文章を読むと、木鉢郎の人なりが彷彿できる。江戸時代なら知らず、これほどあちこちを旅し、句をよみ、絵を描いたひとも珍しいだろう。富岡鉄斎のようなストイックな画を求める旅ではなく、山下清のようにふらっと旅に出る感じである。生前「充分なる素描と観察に立脚しなくて、さらりとした作品の成立はありえない」とよく言っていたようだ。写真下の版画は小さな作品で、昭和8年、限定15部との記載があるだけで作品名はない。昭和8年頃といえば、国画会展にさかんに出品していた時期で、昭和9年にはパリ現代日本版画展に出品した「雪の山」がフランス国立図書館に買い上げられた。白と黒だけで水墨画のような濃淡をうまく表現している。寒い冬の雪の景色の中に訪れる春を予感させる。自刷にこだわったため、あまり数は刷っていないようだ。せいぜい50程度で、今の版画のようにエディションが200-500ということはない。知名度はかなり低いため、評価は低く、大体3−7万円くらいで取引されているようです。弘前市立美術館では相当な数の木鉢郎のコレクションがあり、またこの度できた青森県立美術館でも持っているようです。東京の世田谷美術館は好きな美術館ですが、一度作品を貸し出し、展覧会をしたらどうでしょうか。理想的には奈良美智のA to Zをやったことで有名な吉井レンガ倉庫が早く美術館になり、木鉢郎の作品が飾られることです。さびしい晩年だった木鉢郎にとっても幸せな話と思います。

2007年5月5日土曜日

下澤木鉢郎1




下澤木鉢郎(1901-1986)は下山竹次郎の次男として弘前市和徳町で生まれる。本名は喜八郎。和徳尋常小学校の卒業生かと思い、和徳小学校百二十周年記念誌を調べました。下山姓は何人かいましたが、喜八郎の名は見えず、どこで生まれ、どこの小学校に行ったかは
わかりません。大正5年(1921)に画家を志し上京し、途中弘前歩兵八連隊で2年間の兵隊生活を過ごす。大正13年(1924)にようやく第5回帝展に入選した。そのころ郷里に戻った木鉢郎をみた棟方志功は、木鉢郎の颯爽としたかっこいい姿をみて、あんな画家になれたら死んでもよいと思ったそうです。その後、版画家の平塚運一と出会い、版画家の道を歩むことになる。木鉢郎は旅と酒をこよなく愛し、1年の半分以上も旅をすることもまれではなく、各地を旅しながらスケッチや俳句を作り、作品を残した。木鉢郎を敬愛する棟方志功は彼の勧めで、版画の道に入ったという。
写真上は下澤木鉢郎版画集(北方新社、1980)に入っていた小冊に載っている写真を拝借したものです。58歳当時の木鉢郎である。のほほんとしながら頑固そうな風貌である。自画、自刻、自刷を徹底して守り、木版画の完成をがんこに守り通した。日本の版画界においても戦後は、抽象的でモダンな方向に向かっていったが、木鉢郎はそのような流行に流されず、己の道を貫いた。素朴てありながら的確な自然描写である。写真下は「しぐるる山湖」という作品だが、雪の表現、単純化した枯れ木の表現がみごとである。こんな風景はないように思えるが、実際こちらにいるとこのような風景はよく出会う。地元青森の風土を肌で知っている。
棟方志功の陰に隠れて、近年はほとんど評価されないが、多くの美術館の所蔵になっており、また弘前在住で先年亡くなった現代絵画の村上善男さんも高い評価をしている。風景画の構図と色彩のマッチがすばらしく、もっと評価されてもよい作家である。

2007年5月4日金曜日

q&A 治療は早くからした方がよいのですか(上顎前突))



上の歯が飛び出ている上顎前突も、単純に歯が出ている場合(歯槽性)と上あごが大きい、下あごが小さい骨格的なものに分類されます。前者の場合は成長終了してから治療してもよいと思いますが、後者の場合は早期の治療が必要と思います。上あごの大きい場合は、上の前歯にブラケットをつけワイヤーで上の前歯を押し込みながら(圧下)、ヘッドギアーを併用します。上の歯茎が笑うとかなり見えるひとがいますが、成長期にこのような治療を行うことで改善が期待されます。
多いのは下あごが小さいタイプです。ヨーロッパでは古くから機能的矯正装置と呼ばれるプラスティックでできた取り外しのできる装置での治療が盛んに行われていました。上の写真下のような一塊の装置で(モノブロック)、夜間に着用して下あごの成長を促進させるものです。アンドレーセンというひとが開発した装置が有名で、私のところで使っているのは九州歯科大学の佐藤前教授のタイプです。その後、頬、口唇の筋肉の力を遮断することで成長を促すフランケルというひとの開発した装置が脚光を浴びましたが、最近では装置製作や調整が難しく、あまり使っていません。90年ころからイギリスのクラークというひとが開発したツインブロックが学会誌などでよく取り上げられるようになりました(写真上)、これは装置が上下に分離され、終日着用ができるものです。5、6年前からクラークの書いた本や岩手医大、奥羽大学の先生の意見を参考にして使用しています。製作、調整はそれほど難しくはなく、終日使用は十分可能で、効果は高いと思われます。ただ急速な変化が起こるため、奥歯が開いた状態になります。その後は上だけの簡単な装置で奥歯が咬むように持って行きますが、その期間も含めるとそれほど治療期間の短縮はないように思えます。またすべての機能的矯正装置に当てはまることですが、効果があるひととないひとがいます。一般的にはあごのがっちりしたタイプでは、これは白人に多いのですが、効果が高く、逆にきゃしゃなタイプでは、日本人に多いのですが、効果が少ないようです。
上顎前突の歯だけの移動による治療は大変難しく、わたしのところでは成長期にある骨格性上顎前突では積極的にこのような機能的矯正装置を使用しています。効果が高い場合は非抜歯での治療も可能になりますし、またヘッドギアーの併用などが回避されるためです。通常にタイプでは一日11時間以上、ツインブロックでは終日使用します。だいたい8歳ころから12歳ころに使用します。

2007年5月2日水曜日

Q&A 治療は早くからした方がよいのですか(反対咬合)


これはよくお母さんから聞かれる質問です。かみ合わせが逆の反対咬合については私は早めの治療を勧めています。反対咬合の場合、上あごが小さい、あるいは下あごが大きい、両者を併せ持つ、骨格性のものが多いようです。この場合の治療法は、上あごの成長を促進する、下あごの成長を抑制する方法が考えられます。20年ほど前まではチンキャップと呼ばれる帽子のようなものを頭にかぶり、パットをあごに当てゴムの力で押さえる方法が一般的でした。一日11時間以上、あごの成長が続く限り長期に使用していました。10年以上使用していた症例も多かったと思います。ところが東北大学の研究で、確かにチンキャップにより下あごの成長は抑制されるが、やめると抑制した分が後で成長する、キャッチアップが見られることがわかりました。また使用時間や患者の協力度により効果が異なるため、あまり信頼のおける治療法としては見なされなくなりました。10年ほど前から上あごを横に広げながら、前に引っ張ってくる上顎骨前方牽引装置(MPA)の研究がアメリカで報告されるようになりました。最近の研究でもチンキャップ単独のものはほとんどなく、このMPAのものがほとんどです。装置は上の写真のような、マスクタイプが中心で、上の口の中の装置からゴムをこの装置に引っ掛けて上あごを前に引っ張ってきます。下あごのパットにも下あごを押さえる力が加わるため、正確には上あごの成長を促進させ、下あごも同時に抑制するものです。顔の真ん中の棒から引っ張るタイプもありますが、両眼の間にいつも棒があるのはかなり気になることから、私のところでは開業以来、このようなタイプを使用しています。。これまでに400例以上使用しましたが、あまり大きなトラブルもありません。二人の娘もこれを使用しました(上の写真は長女)。一日、11時間以上、1、2年使用するようにしています。その後は装置をはずし、経過をみていきます。6-9歳ころが効果が高いように思いますし、研究論文でもそうなっています。ただ遺伝的な要因が強い場合や、上下のあごの関係があまりに悪い場合は、この装置を使っても無理と判断し、経過観察のみを行います。成長終了をまって手術での治療を検討します。
女の子の場合は中学生ころまで経過をみると大体あごの発育については判断できますが、男の子の場合は高校生ころになってもまだあごの発育があり、長期の経過観察が必要になります。患者さんの中にはあまり長期の半年ごとの経過観察に飽きて、途中で来なくなるひともいますが、反対咬合の治療の場合はどうしても成長終了まで見ないといけないのでご理解ください。