2008年3月13日木曜日

カラチョフの絨毯




コーカサスの絨毯を紹介します。絨毯と言えばペルシャ(イラン)のことをまず真っ先に思い出すでしょうが、欧米では現在のアゼルバイジャン、アルメニアなどの地域で作られたコーカサス絨毯も人気があります。"star" kazakと呼ばれるものは1990年のオークションでは何と286000ドルの価格がつきました。今でもアメリカ、イギリス、ドイツなどではコーカサス専門の絨毯屋もあり、オークションでも活発な取引がされています。

この理由として、デザインが直線的で色使いもはっきりしていて、ペルシャとは違う男性的なデザインが好まれていると思います。ファンも女性より男性が多いようです。さらにこれはこの地域の歴史の悲劇とも関連しますが、1920年以降のものがないということです。ロシアとイランに接するこの地域は常に両者の支配が繰り返されました。ロシア革命勃発とともに、この地域の人々はロシアの圧政に抵抗を繰り返したあげく、その支配下になりますが、その報復として強制移住や伝統的産業、文化の破壊などが行われました。そのため村落中心で作られていた絨毯も国営に組み込まれ、伝統的なデザインを捨てることになったのです。その結果、1920年以降の絨毯はあるのですが、現在人気のあるそれ以前のものは品薄で希少価値が出ています。欧米への流失は早い時期から行われていましたが、家庭に残されていた先祖伝来の絨毯もアゼルバイジャン戦争による生活苦のためトルコ経由で欧米に流れていきました。現在では、ようやく混乱も落ち着き、リプロダクションの絨毯も生産されるようになりました。

写真の絨毯は、西宮にあるアートコアで購入したカザック カラチョフのもので、おそらく19世紀後半から20世紀初頭のものと思われます。緑のグランドに複数のメダリオンが配置されていおり、上下の四角、四隅の四角の白のメダリオンや赤のメダリオンはカラチョフの特徴的なモチーフですが、真ん中のものはファチラロ(Fachralo)のものとなっています。ボーダーはブドウ蔓とグラスデザンインのもので典型的なカラチョフデザインです。コーカサス絨毯の特徴は小さな村それぞれでデザインが異なり、分類できることです。そのためカザックという小さなエリアの中にも、Lori-panbak, Fachiralo, Sevan, Aketafaなどの色々なデザイン絨毯があります。

この絨毯も作られて100年以上たつため、パイルもかなり短くなり、一部は欠けています。またよく見るとボーダ部を中心にかなり修復しており、コンディションはいいとは言えません(修復は非常に丁寧に行われています)。ただ色合いもよく、非常に気に入っています。100年前にコーカサスという何千キロも離れたところで作られたものが、この雪国の弘前にくるとは絨毯も考えていなかったでしょう。大切にしたいと思います。

なおカラチョフとはどこかというと、実はいまだにはっきりしておらず、アルメニアの北部にあるという説や、いやもっとアゼルバイジャン側にあるという説もあり、今や住む人や地名も全く変わってしまったのでしょう。たかが100年前の記憶も無くなるというのは日本の常識からは考えられないことで、それだけこの地域の近代の変遷を垣間みます。

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