2008年5月25日日曜日

Q&A 歯を抜いて治療すると咬む能力が減るのでは?



歯を抜いて矯正治療をすると咬む能力が減るのではという質問があります。またどの教科書でも最初の章では矯正治療の目的として咀嚼能力の向上、つまり不正咬合では咬む能力が劣り、矯正治療することでその能力は増える、よく咬めるようになるといった記述があります。果たしてどうなのでしょうか。

上の図は昔私が書いた論文から引用したものです(日本矯正歯科学会雑誌 302-317、51、1992)。もう16年も前の論文です。この研究では正常咬合者に比べて上顎前突(出っ歯)の人では咀嚼能力は107.2%、反対咬合(噛み合わせが逆)では89.2%、叢生(でこぼこ)では90.6%で、上顎前突では差はありませんが、反対咬合と叢生では10%程度咀嚼能力が低い結果となっています。その後、矯正治療することですこしずつ咀嚼能力は向上し、治療後2年ほどでようやく正常咬合者と同程度になります。また抜歯して治療した場合も非抜歯でもその傾向は同じでした。

この研究に使った方法はチューインガム法というもので、まず患者さんにロッテのジューシフレシュガムを70回咬んでもらいます。チューインガム重量の70-80%は糖分なので、咬んでいるうちの糖分は唾液に溶け出し、重量はどんどん減っていきます。咀嚼前後の重量差を天秤で測り、それを咀嚼時間で割ったものを時間当たりの溶出糖量とします。これをひとりあたり3回やってもらい、その平均値をそのひとの咀嚼能力としました。述べ974人の患者さんに協力いただき、約2年半、全医局員に協力してもらいました。おかげでこの論文の引用も多く30以上の論文に引用されていますし、日本の歯科大学の矯正歯科の標準の教科書にも引用されています。

いまでは、研究する場合も倫理委員会に提出し、患者さんにも同意書を求まられますので、こんな研究をするのも難しいでしょう。この研究のもとになったものは、広島大学の羽田先生のチューインガムによる咀嚼能力の測定(広大歯誌 9:133-138-,1977)ですが、私がとりあげられるまで、マイナーな雑誌に投稿されたためほとんど引用はありませんでした。私の研究が契機になり羽田先生の論文も脚光を浴びるようになったことはうれしいことです。

今ではロッテからロッテ キシリトールガム 咀嚼力判定用というのも出ていますので、簡単に咀嚼能力もはかれます。1992年当時、私もロッテ中央研究所と共同で色の変化により簡単に咀嚼能力を図る方法を提案したことがありました、鹿児島からの発信は遠すぎたことと、その当時そういった需要もなく、いつも間にか消滅しました。昭和大学の先生方のご尽力でこういった製品がその後市販化されたことは喜ばしいことです。

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