2008年8月21日木曜日
小坂奇石1
日本芸術院恩賜賞をとった日本の近代書家を代表する小坂奇石の書である。うちの父が書道が好きだったため、同じ郷里、徳島県の出身ということで一時、小坂先生に師事した。それまでとくに書道の教室に通った訳ではなく、単に書道が好きで、老後の手慰みのひとつとして通いだしたものの、他の生徒は一流の書家ばかりで、実力差がありすぎたのだろう。1年ほど通った後、丈に合ったNHKの書道教室に通い始めた。通い出して最初の与えられたのが写真の「張黒女墓誌」である。中国南北朝時代、北魏の官僚であった張玄の墓誌で、六朝時代の北朝独特の「六朝楷書」の書蹟として知られる。高校生の書道部でもよく使われる題材で、初心者の父のことを慮って小坂先生が与えたものであろう。小坂先生のやさしい気持ちが伝わる。古跡をまねして書くことを臨書と呼ばれるが、小坂先生のこの書をみると、もとの拓本の書体の流れは汲んでいるものの、小坂先生独特の力強いタッチが感じられる。全部広げると、一巻で5mを超えるため、何とか撮影しようとしたが、無理なので部分に分けて撮影した。
一弟子、それも同じ郷里の素人に対して、このような書をくださったことは大変感謝しているし、亡き父の思い出深い遺品である。小坂先生にしても晩年の作品で、90歳近くになっても200字近い書を最初から最後まで全く乱れず、書ききる精神力には感服する。こういった楷書は素人にはわからないが、一字一句きちんと気力を充実させて書くと思うが、最初から最後まで全く力が衰えていない。すごいと思う。どんな弟子でも全力で教える気迫を感じさせる。小坂先生の作品は郷土の徳島県の美術館などにも展示されているようだが、こういった初学者に教えるテキストとして書かれた作品が表にでることはあまりないと思われるため、公開した。日本芸術院恩賜賞をとり、書家としての頂点を極めたひとが、年をとってもこのような真摯な姿勢でひとつひとつの仕事をおろそかにせず、対峙する姿には敬服する。
暇をみては練習したいと思う。次回に残りの書を掲載する。
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