2008年12月23日火曜日
顎変形症の治療
日本顎変形症学会雑誌の最新号(18巻4号 2008)に、「本邦における顎変形症治療の実態調査」(小林正治ほか)と題された論文が載っていました。これは昨年、私の診療所にもきたアンケートを集計したもので、2006.4-2007.4の1年間の顎変形症の実態を調査したものです。外科系92施設、矯正歯科97施設からの回答で、本邦のほぼ実態を示したものと思います。
顎変形症の手術数は、1年間で2926例(外科系)で、そのうち下あごの出た下顎前突が1977例(67.6%)、上顎前突は237例(8.7%)、上顎後退が310例(10.6%)、非対称が278例(9.5%)でした。この数が多いか少ないか、何ともいえませんが、以前に比べて上顎前突の比率が高くなっている気がします。欧米では上顎前突(下顎後退)の比率が高かったのですが、日本ではあまり下あごが小さくとも気にしないひとが多く、以前いた大学でも上顎前突の患者さんで手術を希望するひとは非常に少なかったと思います。
また手術を行う前に、矯正歯科にて手術後にきれいに咬むように準備する術前矯正の平均期間は非抜歯では13か月、抜歯では18か月となっています。当院での平均とほぼ同じです。また術後の細かい修正を行う術後矯正の平均期間は11か月となっていますが、当院では約半年で、全国的な平均よりは早く装置をはずす傾向があります。患者さんからすれば手術前はなんとか辛抱できても手術後は一刻も早くはずしたいようです。
また手術時間は、下顎後退術で69-337分(平均163分)、上下顎骨同時移動術では98-560分(平均285分)で、平均をみればこんなものかと思いますが、意外に施設間で差があるようです。出血量は下顎単独で50-512ml(平均203ml)、上下で20-1171ml(平均512ml)でこれも施設間で差が大きいようです。上下の場合は、血圧を下げて手術中の出血を減らす低血圧麻酔が行われていると思いますので、1000mlを超える出血はまずないと思いますが。
入院期間は下顎単独で平均で15日、上下で17日となっており、以前に比べて固定法の改良によりずいぶん短縮されました。ワイヤーで固定していた頃は、約1か月の入院でしたから短くなりました。アメリカなどのでは手術後1,2日で退院させるようですが、これは医療保険の関係で、こんなに早く退院させるのは患者さんにとってきついと思います。
合併症と偶発症は、術中の異常骨折が17施設、大量出血が9施設、吸収性骨接合システムの破折が8施設、神経損傷が8施設とのことでした。異常骨折といっても術式あるいは固定箇所を変えれば何とか対応できるので、そう大きな問題ではありません。大量出血はおそらく上顎の手術の際に上あごの奥の方の血管叢を傷つけたものでこの部位の止血は難しく、大量出血につながります。また吸収性骨接合システムとは確かサトウキビでできたネジやプレートを用いるもので、数ヶ月すると自然に溶けてなくなるため、チタンのネジやプレートと違い、取り出す必要がないものです。何年か前に弘前大学でもこの吸収性のものを使ったことがありましたが、術後の後戻りが大きく、患者さんにかなり迷惑をかけたので、それ以降は使っていません。その後、改良され、かなりしっかり固定できるものができたようですが、値段も高く、使っていません。神経損傷は下あごの手術の際に起こる可能性が高く、程度にもよりますが、神経が圧迫されたため、口唇のしびれが強くでることがあります。上あごの場合はきわめて稀ですが、浮腫により視神経などに症状がでることもあるようです。
このアンケート結果を見る限り、今や顎変形症の治療をかなり確立させて、ほぼルーチンにやられるもののようですが、少数ですがやはりリスクはあると考えていただきたいと思います。
なお顎変形症の手術法は新潟大学歯学部の矯正歯科のホームページにわかりやすく解説されていますので参考にしてください。
http://www.dent.niigata-u.ac.jp/ortho/hp/treat2.html
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