2009年12月24日木曜日

Q&A 矯正歯科治療はいつから始めるのがいいでしょうか?





 こちらに来院される、あるいは講演などでお父さんやお母さんから、「矯正治療はいつから始めるのがいいでしょうか」とよく質問されます。これに対しては、師匠である鹿児島大学名誉教授の伊藤学而先生はよく「始めたいと思った時期が一番いい時期です」と答えていました。私のこれに倣って「いいタイミングとは今です。子供に治療をさせた方がよい、子供が治療したいと思う時が一番いい時期です。」と答えています。

 現代の矯正治療では、手術も選択肢に入れるなら、成人になっても治療は遅いということはありません。下あごが上あごより大きく、噛み合わせが逆の反対咬合では、手術で下あごを後ろに下げることで治療は可能ですし、逆の上顎前突でも同様です。また治療期間や治療の大変さも、子供の時にするのとそう変わりません。

 子供のころから治療する場合は、一般的には二期の治療を必要とします。永久歯がすべてはえそろい、あごの発育が終了する中学2,3年までの時期を一期治療、その後の治療を二期治療と言います。あごに問題がある反対咬合では、あごの発育が完全に終了してから二期治療を始めるので上記時期よりは遅くなり、大体高校生ころから始めることになります。またでこぼこの症例では(叢生)、一期治療は経過観察し、二期治療から治療を開始する場合もあります。

 あごに問題がある反対咬合、上あごが小さい場合(下あごが大きい場合も)では、主として上顎骨前方牽引装置と呼ばれる、上あごの成長を促進させ、下あごの成長を抑制させる装置を用います。6-9歳ころがよく上あごが発育するため、この時期を中心に使います。また上あごが横にも狭い場合は、上あごを横に広げる上顎骨急速拡大装置というものを併用することもあります。またかみ合せが逆だと、上あごが大きくなろうとしても下の歯がじゃまする、逆に下あごが自由に大きくなるため、早めに前歯のかみ合せは治します。上顎前突では、下あごが小さい場合も多いのですが、機能的矯正装置と呼ばれるプラスティックでできた装置で下あごの発育を促進させます。成長期を通じて使用できます。軽度のでこぼこの症例では、上下のあごを多少拡大して、歯が生える場所を作ることも可能です。
 一期治療では、こういった主としてあごの問題も治すことに主眼が置かれます。また指しゃぶりやつばの飲み込み方の問題がある場合も、一期治療でこれを解消したいと思っています。

 二期治療では、マルチブラケット装置と呼ばれる装置が主として用いられ、歯の移動により治療を行います。この装置はそう何度の使用できないため、仕上げの治療としてこの装置を用います。一番自由度の高い治療法ですので、中学生以降の矯正治療と言えば、この装置をさします。

 簡単にいうと、一期治療は成長期に行われ、成長誘導という、成長を正常化することで正しい歯並びにするという考えに基づいています。小児歯科にいた私には、この成長誘導という考え方は馴染み深いものですが、実を言うと学問的にはコンセンサスは得られていません。あごに問題がある骨格性反対咬合については、上顎骨前方牽引装置にしても、あごの発育を押さえるチンキャップと呼ばれる装置にしても、その人のもつ遺伝的な骨格は変えられないというデータも数多くあり、その理論に基づく先生はいっさい使用しません。同様に上顎前突に使われる機能的矯正装置についても最近の研究では効果が少ないとされています。そうは言っても、これまでの私の25年間の矯正治療の経験からは、あごの発育をある程度はコントロールすることは可能ですし、一期治療をすることで、二期治療をしないですむケースや、手術をしないですむケースを数多く経験しています。私個人として、一期治療は重要と思っています。

 一期治療をすることで、二期治療を簡単にすることもできますし、6歳や7歳でその後の成長を完全に読み切ることはできないので、何もしないよりはやれることはやろうと考えています。ただあまり子供さんにとって負担が大きいと、肝心の二期治療の時にやる気がなくなりますので、できるだけ簡単な治療で、短期でするように考えていますし、明らかに骨格的な問題が大きい判断したときは早い時期から手術と決定して何もしません。

 個々の不正咬合の治療タイミングについては、仙台で開業している菅原先生の解説がまとまっています(http://shika1.com/orthodontic/02/index.html)。アメリカ矯正学会で早期治療の適用とされているものを紹介していますが、一般のひとには適用を判断するのは少し難しいと思います。子供さんの歯並びをみて、これは治療した方がよいと思ったなら、一度近くの歯科医院か矯正専門医院で相談してください。また患者さんが中学生以降であれば、是非本人ともよく相談してください。矯正治療するのは本人であり、その意見を無視して治療することはできませんので、本人が治療を始めたいと思った時期からでもよいと思います。ただ矯正治療は少なくとも2年以上はかかることは伝えていただき、高校卒業までに終了したければ、少なくとも高校1年生には治療を開始しないといけません。

 治療というと、すぐに装置をつけて歯を動かすことを想像すると思いますが、経過をみることも立派な治療であると考えています。乳歯を適切な時期で抜歯することで永久歯の正常な萌出を促すこともありますし、咀嚼指導や舌機能訓練などの習癖除去も重要です。早くから初めても、遅くから初めても、全体の費用としてそれほど違いはありません(一期の治療で終了するなら安くなることもあります)。乳歯列の反対咬合を除き、不正咬合は自然に治ることはありませんので、治したいと思うなら、自分でいいタイミングを判断する必要はなく、来院して相談していただければと思います。

 上記のビデオは、お金がなくて矯正治療受けられない子供達にボランティアで治療しようというsmiles change livesの活動を紹介したものです。残念ながら、日本ではこういった行為は難しいと思います。無料で治療しても、それ相応の収入があったと見なし、申告しなければいけないという税法上の問題があるからです。

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