2014年4月6日日曜日

キリムはおしまい


 17年前から平織りの敷物、キリムに興味を持ち、イランのものを中心に5点ほど、西宮のあったアートコアーというお店から購入しました。当時は、キリムについて書かれた洋書も含めてかなり勉強し、アートコアーのオーナーである竹原伸爾さんからも色々な助言を受けました。何より、勉強になったのは西宮のお店を訪れ、キリム、絨毯の優品をたくさんお見せいただいたことでした。竹原さんは日本で最も充実した西洋絨毯のコレクション、白鶴美術館のキュレーターのようなお仕事をしていた方で、イラン、トルコ、コーカサスの絨毯、キリムの第一人者だと思います。そのお店には今では考えられないような優れたキリム、絨毯が展示、販売していました。

 数年前に、お店を畳んでしまい、その後、私もキリム、絨毯への情熱は一気に冷めてしまいました。当時ですら、質のよいキリムはイラン、トルコにはほとんどない状態で、竹原さんもヨーロッパで買い付けしていたようで、あまりにキリムの値が張るため、もうこの商売はきついと言っていました。私の方も、キリムから絨毯に対象を替え、アンティークのコーカサスものを2点購入したところで、閉店となりました。一点は閉店ということでかなり安くお売りいただきました。

 その後、弘前でも時折、キリムの展示販売会が開催され、暇を見つけては、会場に足を向けますが、どうも質のいいものに出くわしません。今日も、知人の息子さんが経営するお店で展示会があるとのことで、早速見に行ってきました。残念ながら、まともなものはひとつもありません。1960-70年代の化学染料をたっぷり使ったものを、10年くらい前の数倍の価格で売っていました。当然、私のほしい、1950年以前の良品はありません。シャルキョイのコチニールという虫(赤色になる)を使ったアンティークを見せてもらいましたが、あの引き込まれるような赤ではありません。キリムの世界では1950年前後がひとつの境で、それ以前は主として天然染料が使われていましたが、その後は発色がきれいな化学染料が使われています。特に195060年ころは天然染料ではでないきれいなピンク色などが珍しいのか、キリムの一部にこういった色が用いられ、台無しになっています。絨毯の世界ではもっと早くから化学染料が使われ、おそらく100年以上前にアンティークでないと完全は天然染料のものの敷物はないと思います。

 もはやトルコ、イランに行っても、まともなキリム、絨毯はないと思いますし、あったとしてもとんでもない価格でしょう。キリムが脚光を浴びたのは1970年ころからで、その頃から欧米のバイヤーがいっせいにトルコ、イランに行ってめぼしい良品をすべてかっさらっていきました。絨毯については1980年代後半にコーカサス地方で戦争が起こり、この時、難民が先祖伝来の絨毯を市場に持って行き、金に替えました。多くの良品がトルコに集まり、この時も多くの欧米のバイヤーが一斉に買い付けにまわっています。

 キリムは平織りのため、破損しやすく、もともとは絨毯や家具を包む布として生産されているため、世界のコレクターのほしいものは数が少なく、今はほとんど、これらのコレクターの元にあるのでしょう。絨毯はキリムより寿命が長く、数はあるのですが、人気のコーカサスものはもはやトルコ、イランにはなく、欧米の絨毯屋で売買されているます。絨毯は、なかなか売れる商品ではないので、商売するには、元価格から相当利益を含まないとやっていけず、自然と高くなるのでしょう。それでもキリムより数はあります。

 キリムについては、古いものはあまりに高すぎるため、むしろ気に入った新作を買った方がいいのでしょう。あるいは古いものは欧米の古い絨毯屋で購入した方が、イラン、トルコで購入するよりいいかもしれません。イギリス、ドイツやスイスなどには古い、いい絨毯屋があるようで、旅行される方はお土産にキリムや絨毯を買われたどうでしょうか。トルコのお土産と言えば、絨毯、キリムですが、地元だから安いわけではなく、高い値段で騙されるケースもあります。欧米の老舗の絨毯屋さんの方がトルコより騙されることも少ないかもしれません。「KILM  The complete guide」の巻末に各国のお勧めの絨毯屋さんを紹介しています。残念ながら日本のお店は載っていません。
わたしについては、本日できっぱりとキリム、絨毯はやめました。

写真は古いキリムをパッチワークにしたものです。

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