2014年10月18日土曜日

ルーツ探し



 以前、テレビで「ルーツ」という番組があった。これはある黒人が自分の先祖を調べていくうちに、先祖がアフリカから売られてきた奴隷で、南部の荘園で働かされたことから始まる、壮大なドラマであった。その後、アメリカでは自分の先祖を調べるルーツ探しが流行し、今日まで続いている。移民の多いアメリカでは自分のルーツを調べることがアイデンティティ確立の一助になっているのかもしれない。アメリカでは、どうも故人の個人情報は日本ほど規制が厳しくなく、過去の戸籍などは誰でも自由に見ることができ、年会費を払えば、新聞、写真、戸籍、親類などあらゆる個人情報に接することができるサイトが多くある。これを使えば比較的簡単にルーツを調べることができる。またこういった需要も多いため、サイトも多いのであろう。

 翻って日本では、こういった仕事は特殊な探偵社や行政書士がやっているようだ。日本では個人情報がうるさく、基本的には故人の直接の子孫でなければ、戸籍、あるいは寺の過去帳に触れることはできない。そこでこういった探偵社に委任状を渡して、先祖探しを代行してもらうのである。数十万円の費用がかかる場合もある。故人の情報など、今の人からすれば個人情報として悪用されないように思えるし、まして100年以上前に亡くなったひとの情報が悪用されないと思うが、これには同和問題が深く関係している。明治四年の最初の戸籍簿では、身分の項目があり、士族、平民などとともに一部の地域では新平民、元非人といった用語が記載された。また先祖に犯罪者がいる場合も同様で、子孫としては隠したいことなので、戸籍は誰にも見られないようにしている。

 私のブログを見て、先祖探しを依頼される方は年に数名いる。これまで230名の方からご連絡をいただき、できるだけ協力しているが、士族の方の調査は比較的容易だが、商人、農家の方の依頼は、実をいうとほとんどわからず、実際の戸籍を調べてもらうか、檀家の寺に過去帳があれば、それで調べてもらうように答えている。明治6年の弘前下町の地籍図には商人、農民、士族も含めてすべての人名が記載されているので、現在、人名のデータベース化を進めているので、少なくとも明治6年ころに下町に住んでいたなら、当時の住まいは発見できる。この明治6年の他地区の地籍図が弘前図書館にどうもありそうなので、できればデジタル化できれば、明治初期に弘前に住んだ3万人のかなりの人について調べることができそうである。許可がいただければ調査して、自腹でもいいからデジタル化したい資料である。

 また士族については、弘前藩に代数調、分限帳、由来書というものがある。これは明治初期に各藩士に自分の先祖について藩に提出した資料で、先祖を調べる重要な資料である。以前は研究者であれば自由に見ることができたが、今は基本的には子孫以外の閲覧は禁止されている。この資料などは150年前の資料であり、それも士族にのみ限定された資料なので、同和問題や犯罪歴など過去の個人情報が悪用される可能性は全くない。単純に自分の先祖のことをひとに見られたくないという心理上の問題があるだけだろう。ただ、こういった資料を調べようとするひとは子孫以外、例えば今東光の先祖を調べたいといった研究者が中心なので、完全公開しても全く問題はないように思える。さらに言えば、おそらく薄い和紙に書かれた書物なので、いくら子孫にのみ閲覧といえ、多くの方に見せていると資料自体の破損に繋がるため、古地図とともにまっ先にデジタル化すべき資料だし、できれば現代語に訳して、データベース化すべきだと思う。現在、弘前図書館でも実に1834冊の本のデジタル化が進められているが、多くは国文学関係の資料である。実際の利用者を調べれば、それほど利用されていないであろう。さらに資料を見ると、必ずしも弘前図書館にしかないものではなく、他の図書館でも閲覧できる資料である。同じ手間をかけるなら、弘前藩の代数調、分限帳、由来書など、ここにしかない資料をデジタル化して公開してほしい。

 図書館のデジタル化が叫ばれているが、古地図とともに、こういった明治以前の個人情報について、デジタル化して公開すべきか、きちんと市の方で指針を示してほしいところである。いくら弘前図書館に言ったところで、公務員の立場からは、市の指針がなければ勝手に公開することはできない。少なくとも弘前藩資料に関しては、よほどのものでなければ、少なくともすでに150年、世代でいうと5世代は経っているので、個人情報保護法に触れないと思う。

5 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

こんにちは。
津軽家文書の卒族の由緒書が閲覧できる方法がないか調べていたところ、
こちらに辿り着きました。
とても参考になる内容で感謝しております。デジタル化の件は、全く
その通りだと共感いたしました。
私の先祖である可能性が高い人名が上記の由緒書に記載されているよう
なのですが、津軽史の第8巻を見ると、人名だけで詳細の記載がありません
でした。
やはり原本を見たいと思いましたが、見れたところで読めないかもしれま
せんので、デジタル化をした上で、活字化されることを切に願っております。

広瀬寿秀 さんのコメント...

由来書については、図書館の見解としては、戸籍簿に準じる扱いをしています。それ故、デジタル化しても、個人情報保護の観点からインターネット上で見ることはできないようです。ただ、由来書、代数調については、先祖のことを調べる方が多く、その都度、図書館で身元確認して、閲覧、コピーを許可していますが、資料そのものがダメージを受けますので、デジタル化を要望しています。先週も、簡単に資料のデジタル化ができる、非接触スキャナーの寄付を図書館に申し出たところ、人員がいないという理由で却下されました。今後、民間委託になるようで、さらに資料の保存、活用は難しくならないか危惧しております。
観光のついでに弘前にお越しの折は、是非、弘前図書館でお尋ねいただければ、対応してくれると思います。古文書の解読は、意外に勉強している方が身近にいるもので、何とかなると思いますし、勉強して解読するのもおもしろいかもしれません。

匿名 さんのコメント...

唐突なコメントに親切なご返答をいただきありがとうございます。
そうでしたか、やはり弘前図書館までいかないと閲覧できないのですね。私は札幌に住んでいるのですぐには行けませんが、早く行かないと閲覧できなくなってしまいそうですね。
身元確認はどこまで必要なのでしょうか。記載されている方との関係が証明できなければだめなのでしょうか。図々しく質問してすみません。
非接触スキャナーの件は残念です。役所にも様々な事情があるのかもしれませんが、このようなお申し出をしてくださる方は中々いらっしゃらないので、優先順位を見直して、保存を急いでお欲しいところですね。

広瀬寿秀 さんのコメント...

閲覧の条件については、はっきりしません。2階の調査室で、調べたい資料について、その理由をきちんと説明できれば、問題ないと思います。あくまで推測です。

匿名 さんのコメント...

ご回答ありがとうございます。
早く機会を作って弘前図書館に行きたいです!