2015年12月15日火曜日

正常咬合 治療を必要としない




 健康病気という対立概念で考えると、どうしてもボーダ、境界領域が存在する。検査をしても体には異常はないが、頭が痛い、体が疲れる、腕がしびれる。医師にかかった病気のうち、85%は自己完結的(自然治癒する)なものであると言われ、必要もないのに投薬、手術など医療行為を受ける場合も多い。ウイキベディアの“医療”の項目では、面白い例を挙げている。1973年にイスラエル、1976年にコロンビア、1976年にアメリカで医師のストライキが起こり、それぞれ長期間医療を受けられない事態となった。当初、病気による死亡者が増加すると考えられたが、実際はイスラエルでは死亡率は半減、コロビアでは35%、アメリカでは18%死亡率が低下した。皮肉なことは、医療自体が人の死亡率を高めている。

 おそらくは死亡にはいたらなくても、ボーダラインの患者に対する医療行為には多くの問題をはらんでいることは間違いない。血圧が高いと降圧剤を飲むように指示されるが、この薬の副作用で他の症状がでることがあるし、血圧の調整機能がマヒする可能性もある。さらにこれは個人的な経験であるが、2,3日眠られないと精神科に来院すると、簡単に催眠剤や神経安定剤を処方される。ただこれらの薬は依存性が高く、やめるのは難しくなり、次第に量も増え、さらに鬱なども併発するようになる。

 こうした点では、矯正歯科も同様であり、不正咬合を主訴として来院すると、すべて治療を勧められる。少しのでこぼこであっても、本人が気になるのであれば矯正治療の対象となるという考えである。ここで不正咬合と正常咬合の違いを考える。全く問題がない100%正常なかみ合わせを理想咬合(100人に一人もいない)と呼ぶが、下の歯が1本だけ少し、ねじれている。これは95点と言えようか。叢生(でこぼこ)の場合は、こうしたでこぼこに程度で点数をつけることも可能であり、学校健診の定義で言えば、上下の前歯が多少でこぼこしていても、これは正常咬合とする。おそらく80点くらいの状態であろう(全体の3割くらい)。問題は80点以上のかみ合わせの患者として来た場合である。80点以上が正常であれば、治療は必要ないことになる。さらに言えば、矯正治療では必ず後戻りがあるため、80点の歯並びを直し、90点にしても2030年後には再び80点になる可能性も高い。

 矯正治療は、ブラケットなどの装置を歯につけるため、齲蝕や歯肉炎、さらには歯根吸収などの為害作用があるため、少なくともそうしたデメリットを上回るメリットがなくてはいけない。数年前から私の診療室では、自分の判断で80点以上のかみ合わせの患者には、一切治療を勧めないようにしている。今年になって、10人以上こうした患者が来たが、少しくらいでこぼこがあっても気にする必要はなく、正常咬合であり、治すのは簡単であっても、すぐに後戻りするから、高い費用を払う価値はないと説明している。自分でも下の前歯がでこぼこし、上の前歯は少し開いているが、あまり気になっておらず、それくらいの不正咬合は正常咬合に入ると考え、治療を勧めないことにしている。ただ例外は、上下顎前突の患者で、上下の歯が前に飛び出ているため、かみ合わせは正常でも口は閉められないことが大きい。口が閉められない歯肉が乾燥しやすくなり、歯周疾患になりやすい。さらに口を閉じなくてはいけない状況では常に口に意識を集中しなくてはいけない。こうしたこともあり、正常咬合であっても上下顎前突はデメリットが大きく、抜歯が必要であっても矯正治療を勧める。また下あごが大きく、かなりあごが出ているようでも歯並びは少し逆の患者もある。こうした場合も上下のあごのズレが10mmを越える場合は手術の適用として希望があれば治療を行う。


 個人的には、医療の大きな役目としては、患者に異常はなく、大丈夫だと安心させることがある。胃が痛くて、内科に行き、内視鏡で異常がないと知ると、その瞬間から胃痛が治ることはよく経験する。歯並びにおいても、多少の問題があっても、正常であると安心させることも必要かと思っている。逆に少しの不正咬合について深刻に考える患者さんは、精神的に不安定であることもあり、治療自体がますます混乱させることもあるため、注意が必要である。何度もよく相談の上、治療するかどうか決めてもらう。

写真はインターネット上で勝手に持ってきた写真で、インビザラインの患者のものであるが、上の患者は正常咬合、下も上のでこぼこがなければ正常咬合で、矯正治療の必要はないし、勧めない。

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