2016年9月8日木曜日

弘前レンガ倉庫美術館

吉野町レンガ倉庫



 東奥日報の記事(2016.9.7)によると、吉野町緑地周辺整備事業についての野村太郎市会議員の質問に対して、レンガ倉庫の改装などを含む整備費に232千万円、15年間の維持管理費に168千万円、総計約40億円の予算を必要とするとの答弁があった。費用の大半を国の交付金と地方債で補い、一般財源からの拠出は35千万円という。さらに作品の購入費としては3年間で総額3億円、2千万円程度の作品を15点ほど購入したいとする。

 十和田現代美術館の総工費が15億円、維持費が年間5千万円、さらに十和田市焼山地区の現代美術館の分館の計画では工事費が104千万円、作品購入費が67千万円とされている。また青森県立美術館の工事費が110億円、金沢21世紀美術館の建設費が200億円、国立新美術館が350億円であることは考えると、弘前レンガ倉庫の美術館がそれほど高いものではない。

 人口17万人の弘前市の美術館としては、予算、規模とも妥当なものであるし、観光都市を目指すなら、こうした美術館の建設は大きな観光の目玉となり、付随的な収入も見込める。一方、作品購入費が3億円というのは微妙で、現在のように絵画が投資の対象となり、価格が上昇している状況では、例えば、弘前市出身の奈良美智さんの作品は一点1億円くらいするので、せいぜい数点の購入しかできない。実際は郷土の美術館に展示されることは作家にとっても名誉であることから、価格もコレクター価格ではなく奈良さんの協力も得られようが、それでも予算的には厳しい。さらにできれば、美術館に行かなければ体験できないような立体、空間芸術が望ましく、そうした作品を期待したいところである。

 個人的には、障がい者アート、アウトサイダーアート、アートブリュットが興味深い。健常者の作品に比べて作品の力があり、さらに障がい者への理解、支援につながる。県内の養護学校などと協力して作品を展示するなど、アートブリュットについて関心を持つことも今後の美術館に求められる。さらに図書館、博物館の所蔵品にうち、どのようなものを美術館に移行するのか。現代美術館とするなら明治あるいは昭和を一区切りにし、それ以前は、博物館、図書館の所蔵とするところであるが、ここは例えば図書館、博物館にある古絵図をランダムに展示することで弘前大学の先生だった村上善男の作品とコラボできる。また幕末から明治の画家、平尾魯仙なども現代絵画として通用できる。古い所蔵品を現代美術として蘇らせる工夫、再評価も必要であろう。

 現代美術館と言えば、若者視点で考えられることが多いが、あまりコンテンポラリーな作品は時代とともに陳腐化する恐れもあり、さらに言うなら、観光客や県内の美術愛好家には年配の方も多い。こうした層は現代美術館ではぽっかり抜けてしまいがちであるが、あまりにも若者中心の展示も困る。また美術館といえば、絵画、彫刻、版画などを中心となるが、是非とも、映画も美術に加えてほしい。弘前では映画好きの仲間がNPO harappaとして以前から隠れた名作を上映しているが、こうした活動が継続的にできるような施設もほしいところである。高い絵画をみんなで眺めるという固定的な観念を抜け出さないと、県内にも青森県立美術館、十和田現代美術館など同様な美術館があり、内容がかぶる。

 さらにアメリカの美術館を見ていると、その運営に市民の関与が大きなウエイトを占めている。定期的に美術館内でカクテルパーティーなどを開き、参加者への寄付を促す。男の人はタキシード、女の人は豪華なドレスを着て、すこしスノッビーな雰囲気である。ここまでする必要はないとしても、市民が美術館に寄付しやすいような市民後援会を作り、こうした会員になり、寄付をすることが名誉になるような仕組みも望まれる。

美術館の完成が待ち遠しい。

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