2020年6月10日水曜日

仕上げ 矯正治療

かなり強いゴムで仕上げる

一見綺麗に仕上がっていても、ここが噛んでいないとダメ、上下顎小臼歯の舌側咬頭を落として噛ませる。

 マルチブラケット装置による治療は、レベリング、犬歯のリトラクション、スペースクローズ、フィニッシングの4段階で分けることが多い。レベリングとは、歯のでこぼこを直す段階で、主として超弾性ウイヤーなどの柔らかいワイヤーの時期で、通常3から6ヶ月くらいかかる。その次の段階としては、これも上顎前突のケースで当てはまるのだが、細いワイヤーに変え、まず犬歯を後ろに引く時期である。通常6ヶ月くらいかかる。その後は、治療法によって変わるが、前歯と犬歯の間の隙間を詰める段階で、ここでゴムを併用することが多い。そして最終段階が噛み合わせをきちんと噛ませるフィニッシングの段階となる。実はこの段階がもっと矯正歯科医の技量が発揮される段階で、一般歯科医のほとんどが、日本矯正歯科学会の認定医でも、この段階がうまくできていない場合が多い。

 このフィニシングの段階の目的は、噛み合わせを仕上げていくのであるが、まずオーバージェット、オーバーバイトが適度、2-3mmになるように調整する。さらには大臼歯、小臼歯の咬合関係を仕上げ、上顎切歯のトルクを与える。具体的に言えば、018スロットのマルチブラケット装置を使う場合は、017×025あるいは018×025フルスロットのステンレス、エルジロイワイヤーを使う場合が多い。さらにいうならストレートワイヤーテクニックの場合でも、このフィニッシングの段階では前歯部にベンディングをしてトルクを加えることが多い。もちろん前歯部にトルクを入れると、隙間が出やすいので、上顎切歯の連続結紮とタイバックは必要となる。

 上顎切歯の辺縁隆線が発達している場合は、その削合が必要となることもある。ここでのポイントは小臼歯の咬合をきちんと噛ませることで、さすがに専門医の試験では、このポイントを押さえている症例が多いが、認定医の試験ではここが甘い症例が多い。こうした試験、第一小臼歯抜歯症例ではまず上下の第二小臼歯の咬合、上顎の第二小臼歯の舌側咬頭が綺麗に下の小臼歯に咬合しているかを見る。慣れれば、マルチブラケット装置、撤去前に咬合紙で確認できる。

 噛む能力が強い患者さん、つまり噛み合わせが深い患者やローアングルの患者では、噛み合わせを挙げるのに時間がかかるが、噛み合わせが崩れにくく、最初の臼歯部の噛み合わせが維持される。そうでない症例は、このフィニッシングの段階で多くのゴムを使う。アレクサンダーのフィニシング考えでは、ここでワイヤーの一部を除去して頬側に連続したゴムを使用される。この方法では頬則の噛み合わせが非常に良くなるが、舌則の咬合は噛んでいない。

 私の場合は、上顎に一番強くて太いワイヤーを使い、下顎はそれより細いワイヤーを入れて、もっぱらゴムの力で噛ませる。もともとはLループを韓国のキム先生の多数用いたマルチループ法使っていたが、ベンディングに時間がかかりループが食い込むトラブルも多くなるため、最近ではゴムメタルを使うことが多い。ケースによってはゴムメタルを使わず、017×022くらいのステンレス、エルジロイワイヤーに小臼歯、大臼歯部に頬側へのトルクをかけること多い。下顎の小臼歯、大臼歯が舌則に倒れていて噛まないからである。

ここで小臼歯を噛ませる大きなポイントは、まず上顎の小臼歯部にわずかに挺出ベンド(0.2mm)を入れてツイードのプライヤーでリンガルルートトルクをかける。そして上下の側切歯と犬歯の間にフックをつけて垂直ゴムあるいはショートのクラスIIIIIゴムを使用する。力は150gでかなり強いゴムを使う。ゴムを終日使うことで、このフィニシング段階は6ヶ月くらいで終了できる。ただゴムを終日使うのは難しく、仕上げがうまくいかないこともある。

 下顎下縁平面角の開いたドリコフェイシャルのケースでは、こうしたフィニシングできちんと噛ませても、保定後に次第に空いてくることが多いが、咬合力と関係するようで、非習慣性咀嚼側側は空いてくることが多い。いずれにしてもフィニシングの要諦は、出来るだけ太いワイヤー、強いゴムを使うことで、私の場合はオームコの2F(Extra heavy)のゴムを使っている。

 フィニッシングについては矯正歯科医にとっては奥義になっており、先生ごとにその考えが違う。どのようなフイニッシュがいいのかは、保定後の安定も含めて考えるべきで、本当に難しく、この期間を一年近くかける先生もいる。

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