2021年1月2日土曜日

絨毯が結ぶ世界 京都祇園祭インド絨毯への道

 

南インドのシルク絨毯 クリスティー 3400万円


 今年の正月はコロナ問題のため娘も帰省せず、ひたすら妻と二人で家にいた。テレビを見ても、あまり面白い番組もなく、部屋でほとんど本を読んでいた。今回はある程度、こうした事態が予想されたので、早めにアマゾンに普段なかなか読めない大著を注文した。それが

「絨毯を結ぶ世界 京都祇園祭インド絨毯への道」(鎌田由美子著、名古屋大学出版、2016年)で、本文371ページ、注125ページ、カラー図版188、挿図167のボリュームがある本で、定価で10000円もする。もちろんこのボリュームならこれくらいするし、歯科関係の本では23万円するのは普通だが、人文系の本としては高価である。

 

 内容については、著者の東京大学の博士論文を下書きにかなり、新たな知見を加えたもので、ある程度、オリエンタル絨毯の知識がある私でも理解するのは相当難しい。欧米ではもともと絨毯はインテリアの一部として愛用され、多くのコレクターと専門家がいるが、日本で、このような著書が出ること自体、驚くべきことといえよう。以前、アートコアから絨毯を買った時に”Hali”という雑誌を数冊おまけにもらったことがあるが、その内容を見て、欧米の学者のレベルの高さを垣間見た思いがあったが、日本でもこうしたラグに対する研究書が出たかと嬉しい。

 

 内容については、十分理解できなかったが、今ではあまり評価されていないインド絨毯についての新しい知識を得ることができた。これまでキリム、絨毯について多くの本を読んできたが、主としてオリエンタル絨毯、これはペルシャ、トルコを中心としたもので、もう少し具体的に言えば、現在のイラン、トルコとコーカサス諸国の絨毯、キリムについて書かれたものである。一部、アフガニスタン、北アフリカの絨毯についても紹介されているものの、インド絨毯については、ほとんど記載されていない。おそらくイスラム国家であったムガール帝国が崩壊する19世紀後半以降、イギリス植民地、ヒンズー国家の樹立とともに、絨毯そのものの伝統が廃れた結果であろう。現在の商業的絨毯、アンティークも含めて19世紀後半以降の絨毯が中心となり、インド絨毯の全盛期がその前であったことによる。インド絨毯といっても著者によれば、精緻で密度の濃い北インド産と織りが荒くカラフルな南インド絨毯に分かれるが、両者とも全盛期は17世紀から19世紀であり、それ以降は優れた作品はない。流石に200-300年前の絨毯となると、数が少なく、ほとんどが美術館に収められているので、商業的な取引はない。またインドではイスラムからヒンズー教に変わるにつれ、絨毯の利用は減り、捨てられていったと思うし、床に敷くという使用法をすれば、消耗していく。

 

 ところが、こうした古い時代の比較的コンデションの良い絨毯が日本、とりわけ京都の祇園祭の使われる山車に飾られていた。これらの絨毯の種類、履歴についてはほとんど分かっていなかったが、著者の研究により、多くは南インド産であり、オランダ商人を通じて日本のもたらされてきたことがわかった。日本では床に敷くこともなく、あくまで祭の飾りのみに用いられ、大切にされてきたので、200-300年前の南インド産の絨毯が綺麗にまとまって残るという奇跡が起こった。こうした京都での南インド産絨毯を解明することにより世界中にあるインド産の絨毯について、その由来を著者は追求し、これまでほとんど知られてない南インド産絨毯の評価を多くの資料により説明した。大きな業績である。

 

 一方、本書では1910から1941年ころ、主として京都美術倶楽部の売り立てで扱われた南インド産の18世紀ころの絨毯、21枚を挙げているが、今どうなっているのかは非常に気になる。これらは主としてオランダ商館、商人が売った、あるいは贈られたもので、所有者は大名クラス、あるいは裕福な商人に限られる。本書では白黒写真で解説しているが、戦災で消失しなければ、日本のどこかにあるに違いない。おそらくはかなりくたびれた状態でどこかの蔵にあり、古くて汚い絨毯としてオークションに出る可能性もある。昨年のクリスティーのオークションでも18世紀、南インド、デカンのシルク絨毯が3400万円ほどで落札されたが、コンデションが良ければ、日本にある南インドのアンティーク絨毯も高価格がつくと思う。




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