2021年1月16日土曜日

マウスピース型矯正装置の問題 youtubeより

下右犬歯の歯肉退縮だけでなく、他の前歯も厳しい

前歯部、臼歯部、すべて開咬


大臼歯関係はそれほど変化していない





  日本矯正歯科学会では、インビザラインのようなマウスピース型の矯正装置について注意を与えている。すなわち適用範囲は広がったといえ、マルチブラケット装置より適用範囲は狭く、ちょとしたでこぼこなどが適用であり、抜歯症例や骨格性に問題のある症例では厳しい。以前のブログでも示したが、私の所の成人症例で言えば70%くらいが小臼歯の抜歯症例であり、非抜歯で治療できる症例は少ない。

 

 それではマウスピース型矯正装置をメインでしているところでは、こうした適用外のケースが治療していないかというと決してそうではないし、インビザライン社などもコンピューター上で一応は完成までのシュミレーションはする。その結果、どうなるかというと治療がうまくいかなかったり、患者が満足しないことになる。

 

 私のところでは、マウスピース型矯正装置は使用していないので、はっきりしないが、これまで2例ほどセカンドオピニオンで見てきたが、その治療結果は問題があった。そこでいい症例ばかりでないYou Tubeで紹介されているマウスピース型矯正装置の治療結果を見てみることにする。

 

 一例は、私の知っている先生のところでしているケースで、治療方針はかなりまともであるが、下の右犬歯の歯肉退縮がひどい。おそらく通常のワイヤー矯正で下の右の第一、あるいは第二小臼歯を抜いていれば、それほど難しい症例ではないし、こうした歯肉退縮もなかったであろう。現在、下の右奥歯にチタンプレートを入れて右大臼歯の遠心移動を行なっているが、この治療法は正しい。右犬歯の歯肉退縮は残念ではあるが、何とか治療は終了しそうである。それでも上の小臼歯を抜いているのを見れば、患者は非抜歯治療にこだわっていないので、なぜ下の右の小臼歯も抜歯しなかったが、悔やまれる。かなり治療の難度を高くした。

 

 次の症例は、まだ治療途中であるが、前歯、奥歯部がかんでいない、開咬となっている。私のところにきたセコンドオピニオンのケースもこれで、主治医からは自然にかむようになると言われたという。それは無理であろう。このケースでは治療前も前歯部の開咬が見られ、この部位に舌を出す、舌突出癖があることがわかる。こうした症例では、前歯に上下のゴムを使い、前歯、奥歯をしっかりかませて終了して、さらにチューンガムなどを用いて咀嚼訓練を行う。マウスピース型矯正装置はII級、III級ゴムのような水平成分のゴムを使えても、上下の歯をかませるUp & Downゴムの使用は難しく、それ以外の方法でかませていくのか、ワイヤー矯正などを併用してかませるのか不明である。

 

 三番目の症例は、まだ始まったばかりで、動画の途中で、現在の咬合状態と治療後の予想図が載っている。これをみると現在、奥歯の関係は上の奥歯が下の奥歯より前にあるII級咬合で、それもほぼ小臼歯1本分前にあるFull Class IIの上顎前突である。セファロ分析結果など不明であるが、この咬合と顔貌から見れば、矯正歯科専門医の多くは、左右上顎第一小臼歯の抜歯を考えるだろう。先生によっては下の第二の小臼歯を付け加える人もいるだろうが、非抜歯での治療は相当厳しい。というのはこのような大臼歯関係の場合、大臼歯関係をI級にするには大臼歯を5mm以上後ろに動かす必要があるからである。ところがこの治療後の予想図では、大臼歯関係はII級のまま上の歯を中に入れている。おそらく小臼歯、犬歯、前歯のかなりのディスキングをするのだろうが、それでも23mmが正常とされるオーバージェットが取れないはずである。つまり最初から出っ歯はきちんと治らない前提で治療計画を作っている。もしこうした治療計画を歯学部の学生が計画してきたなら、不合格だし、日本中の矯正歯科医でこのような診断をする先生はいない。もちろん患者が少し出っ歯が残ってもいい、非抜歯で、早い期間で治療してほしいと頼まれれば、まあ私は絶対しないが、する先生もいるかもしれないが、通常のワイヤー矯正ではこうした治療はしない。こうした診断ミスは、最近、セコンドオピニオンで来た患者もそうで、オーバジェットが10mmくらいある重度の上顎前突で、ある歯科医院で非抜歯、マウスピース型矯正治療で治すと言われたという。上の小臼歯2本抜いても厳しい症例で、非抜歯では絶対に治らない症例で、三症例目と似ている。つまり今より少しでも出っ歯が治ればという治療方針なのである。

 

 簡単な歯列の拡大を主体として叢生(でこぼこ)などではマウスピース型矯正はいいのだが、抜歯症例、骨格に問題のある上顎前突、反対咬合、上下顎前突などでは今のところ、ワイヤー矯正よりかなり治療が難しいというのが現状であろう。個人的な感覚から言えば、成人矯正でマウスピース型矯正の適用は、30-40%くらいではなかろうか。ただマウスピース型矯正装置を真面目にしている先生は、何度も計画変更し、アタッチメントを付け直し、さらにはアンカースクリューを併用するなど、かなり細かく治療しており、こうした症例をみるとワイヤー矯正より手間がかかる。

 

 おそらく今のままマウスピース型矯正治療が一般歯科医に広まり、患者からのクレームも増えると、矯正治療が特定商法取引法の適用となるだろう。矯正歯科学会はこうした法律の適用になることに反対しているが、私は患者の被害を考えると、少なくとも“マウスピース型矯正治療”については特商法の適用にし、書類によるデメリットの説明、治療途中での中断、返金などができるようにした方が良いと思う。

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