2023年9月21日木曜日

医療費は70%引き

 


 


日本の医療制度では、健康保険に入っていると、窓口での支払いは診療料金の30%で済むようになっています。つまり正規の料金の70%引きということです。歯科では初診料は261点で、これは医院に行って話をするだけで、2610円かかることになります。例え5分間の診察でもこれだけかかります。もちろんこれに検査や処置を入れるともっと費用がかかることになります。昔は本人0割負担でしたので、この場合は、外来での医療費は無料ということでしたが、その後、1割、2割となり、今は3割となっています。さらに入院などでもっと高額の費用がかかり、例えば1か月の手術、入院費が100万円かかったとしましょう。これの3割、30万円も大金ですが、日本では高額医療制度という大変嬉しい制度があり、収入にもよりますが、実際の負担額87000円を超える分については請求すれば戻ってきます。民間の生命保険に入っていれば、ほぼ費用がかからず、手術、入院ができるようになっています。この日本の医療制度は、海外、特にアメリカ人にとっては、天国のような制度で、わざわざ日本で手術、入院するために英語教師などの仕事で来日する人がいるくらいです。

 

ただこの優れた制度も年月が経るにつれ、不満が出てきます。歯科医側からは医療単価が安すぎる、逆に患者からは3割負担でも高いという声があります。例えば、乳歯が抜けなくて歯科医院に行って抜いてもらうことにします。初診料、パントモ写真、抜歯という流れになり、261点、402点に131点、794点となります。患者負担は2400円くらいになります。実際はこれ以外の検査、管理料を取る場合もありますが。この場合でもおとなしい子で、グラグラした乳歯であれば、抜歯するのに5分もかからないでしょうが、泣き叫び、暴れる子供ではもっと時間がかかるかもしれませんし、歯根がほとんど吸収していない乳歯を抜くのは難しい場合もあります。ここで問題は、歯科医師からすれば8000円近い料金は、多くの歯科医は安いと感じています。欧米ではその数倍の料金です。一方、患者からすれば、70%引きになっている価格、2400円でも高いと感じます。2400円あればフランス料理屋で美味しいランチが食べられると思うわけです。私のところでは、初めての患者さんに対しては相談料として3000円をもらっています。ほぼ健康保険の初診料に近い料金です。そしてざっと見て、大まかな治療法、費用、期間などの説明を30分くらいします。それでもネットの書き込みでは「相談料も自費で高額取られた」と怒られます。歯科医は、他国との比較から日本の医療費は安いとしますが、患者側はそうしたことは気にかけず、スーパーの特売品の値段と比べます。

 

一昔前でしたら、北欧は福祉大国で医療費はいらないということでしたが、最近では、患者負担も上がってきており、それも歯科など緊急性の低い領域の負担率は高くなっています。また子供の歯科治療は無料だが、大人の治療は保険がきかないという風になっているところもあります。社会主義の中国では1970年頃までは医療費は基本的には無料でしたが、今は自費治療が普通になっています。歯科についてみると、近年、欧米でも歯科治療は自費治療になる傾向が強く、ある意味、日本の歯科治療費は世界の先進国、欧米に比べて最も安いのかもしれません。

 

東京の一部の歯科医院では当初は保険診療で治療をしますが、根の治療は保険が効きません、被せもの(補綴物)は保険がききませんというところがあります。もちろん、こうした行為は保険医療機関では禁止されていますし、通報があれば、やばいことになります。それでもこうした治療システムが常態化しているところがあり、いっそ保険治療をやめればいいと思うのですが、それでは患者が来ないので、こうした方法をとっています。保険医療機関であれば、保険にある診療項目の保険治療を拒否することはできません。

 

一般的には、衣料などで70%引というはバーゲン品を意味しますが、医療の場合はこれと違います。患者負担は30%ですが、残りの70%が保険料、税金などでカバーされているのです。つまり実態は70%引ですが、各自はその分を回り回って負担していることなります。私の矯正歯科医院では、自費患者が70%、顎変形症、口蓋裂患者など保険診療が30%です。自費、保険患者も総額の矯正治療費はそれほど変わりませんが、保険患者ではほぼすべての患者が治療を受けます。一方、自費患者はそもそも費用がかかることもあり、受診率も低く、さらに治療を行う人も少ない傾向になります。これは矯正治療費が高いが、保険がきいて30%の負担で治療できるからだと思います。さらに自費患者では仕上げやサービスに対する要求は多いのに比べて、同じ矯正治療を受けている保険患者ではそうした要求は少ないようです。矯正治療費は高いという前提が、患者、歯科医にもあり、保険診療についてはお互い過度の要求をしないのでしょう。

 

世界各国に比べて日本に住む利点として、治安の良さが挙げられますが、医療費の安さについてはあまり言われませんが、間違いなく、低い負担で高度な治療を受けられ最高な国だと思います。この制度を支えるために、こうした理解もすべての国民がもってほしいと思います。一方、現行の保険制度に不満な先生は、是非、自費専門になってほしいと思います。いかに70%引きの制度が経営的に安定でき、ストレスも少ないか実感できます。


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