2025年12月17日水曜日

根尖病巣とラバーダム

 




多くの患者さんで、レントゲン上で、歯根の先に黒い暗影と見える歯尖病巣があります。うちにきている患者さんの中でも、昔、歯の根っこの治療を受けた人によくこうした根尖病巣を見かけます。ほとんどの人は無症状なので、そのまま経過を見ていく場合が多いのですが、最近、症状がなければ、そのまま放置しても良いのかという議論があります。

 

根尖病巣部には炎症があり、それに対する炎症性物質が体にいろんな害を及ぼすと言われています。掌蹠膿疱症は手のひらや足の裏に水脹れや膿を持つ病気です。以前は、歯科用金属アレルギーによる代表的な疾患とされ、こうした患者が来れば、口腔内の全ての金属を除去して、アレルギーの少ないセラミックなどに置き換える治療が推奨されていました。ただ掌蹠膿疱症については、口腔内のすべての金属を除去しても治らないケースが多く、皮膚科では他の原因、喫煙や扁桃炎などの病巣感染が疑われるようになり、次第に金属製アレルギー説は下火になっています。最近の報告では、最初に述べた根尖病巣が強く関係しているというようになっています。そのため知人の歯科医にも、皮膚科から根尖病巣の治療を紹介されるケースが増加していると言います。

 

根尖病巣を持つ患者さんには、これまでは積極的に治療を勧めず、痛くなったり、腫れてきた場合は、治療をした方が良いよと説明してきました。ただこうした全身疾患との関係性を危惧するとやはり症状がなくても治した方が良いかと思います。ただ現状では、多くの歯科医では、症状のない根尖病巣を治すのは、かえって痛みが出て患者からクレームが出るため、積極的に治す先生はほとんどいません。

 

これは日本の歯科医療で残念なことの一つですが、いまだにきちんとした根っ子の治療、歯内療法がなされていません。技術進歩によりマイクロスコープ、CT撮影などでより精密な治療ができるようになりましたが、治療法そのものはさほど進歩しておらず、私の個人的な感想からすれば、実際の患者さんの治療結果は昔と変わらないように思えます。1950年まで虫歯が進み、歯の神経まで感染すると中心感染説という考えで歯は抜歯されていました。それに対してグロスマンや日本の森克栄先生は徹底的な無菌治療で治ることを証明し、全力を注ぎました。ところが安い診療報酬によるためか、80年経った今でも、こうした治療は日本では基本的にはほとんど行われていません。

 

無菌治療には必須のラバーダム防湿というごく基本的な操作はしていない歯科医院がほとんどです。小児歯科にいた時は、すべての症例で必ずラバーダムをしました。慣れれば2,3分で乳犬歯、第一乳臼歯、第二乳臼歯、3本の防湿を行えますし、ベテランの衛生士はもっと早くできます。大学での臨床実習、教科書でも、小児歯科の治療、および根っこの治療には必ずラバーダム防湿をするようにしていますが、実際、している先生はほとんどいません。昔、ラバーダムをすれば10点、100円取れる時代があり、ほとんどの先生がこの点数を請求しましたが、厚労省が実態を調べると、点数を取るがラバーダムをしていない先生がほとんどで、呆れ返り、その後はなくなりました。

 

最初の話に戻ると、根尖病巣と全身疾患との関連から、見つければ治した方がいいのですが、それを確実に治せる歯科医がいません。少なくとも私の周辺、弘前市にはそうした先生は少ないと思います。東京ではこうした治療は自費となり、一本、20万円くらいとるそうですが、これは治らないと患者からひどいクレームがつく治療法の一つです。尊敬する東京の森克栄先生は、歯内療法を自費で始めた先駆者の一人ですが、2030年の経過を見てきていますし、転住する場合は紹介するような先生です。自費でするのはそれだけの覚悟が必要なのです。実際は、すべての患者とは言えないにしても、少なくとも補綴を自費でする患者には、根っこの治療も自費ですべきだと思います。さすがに一本の歯の根っこの治療費を20万円に設定できないなら5万円でもいいです。とにかく自費で根っこの治療ができてこそ、優秀な歯科医と言えると思います。新しく開業する若い先生は、インビザラインを学ぶより先に、一般歯科の定番、歯内療法をきちんとする努力をしてほしいと思います。まずは立派なホームページを作るなら「当院では、すべての小児の患者の虫歯の治療と歯の神経の治療にはラバーダム防湿をしています」と書き、スタッフにラバーダムの仕方を教育したらいいでしょう。難しくはなく、覚悟だけの話です。


実は、新型コロナ騒動の前、手袋をしないで治療する歯科医もたくさんいましたし、使う場合もあまり交換しないこともありました(私です)。ところが新型コロナの時期、ほぼすべての歯科医院で手袋を使うようになりましたし、もちろん患者ごとに交換もしています。アメリカで30年前から一般的になっていた標準予防策がようやく日本でも定着しました。日本歯科医師会でも、ラバーダムの重要性(“歯の神経の治療にはラバーダムが必須です。それをしている歯科医院で治療を受けてください”)をテレビキャンペーンで流せば、一億円くらいの広告費で、日本でも欧米並みの歯内療法のレベルになるかもしれません。もちろん点数を2倍くらいにしないとかなり文句が出ると思いますが。


レジン充填にもラバーダム使っています(中国)。自費専門歯科ですが、料金は9千円くらい







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