2010年3月26日金曜日

映画「八甲田山」



 遅ればせながら、「剣岳 点の記」をビデオで見た。剣岳は高校生の頃の、旅行で立山から仰ぎ見た思い出がある。六甲学院では立山の追分というところに学校の山小屋があり、何組に分けて立山から別山、薬師岳の縦走を行った。なだらかな立山に比べて、剣岳は険しく、映画も立山連峰の姿を美しく描いていた。ただ内容はそれほどではなく、むしろ映像の美しさの方が勝っていた。監督の木村大作さんがカメラマンとして参加した「八甲田山」(1977)に比べると失礼だが、見劣りする。

 映画にも溝口、小津、黒沢にような芸術的な作品で、北野武の映画もそれに入るが、上映時にはあまり客が入らないものと、内容はたいしたことなくても商業的に成功したものがある。小津の作品など、公開時には寝ている客が多かったと言われている。私自身の評価としては、一度見てよい作品と二度見てよい作品、何度見てもすばらしい作品に分ける。そういった意味では日本映画史上最も好きな作品は、ばかにされるかしれないが、「八甲田山」である。公開時は、大変評判で友人で、親が映画館をやっていた先生がいるが、公開当時は数百メートルも行列があり、あれほど客がきた映画はなかったといっていた。当時、相当な興行収入があったのであろう。私も公開時に仙台でみた記憶があるし、その後もテレビで2回、DVDで1回の計4回見ている。その意味では何度見てもおもしろい映画のひとつで、今でも深夜放送されていれば思わず見入ってしまうであろう。

 なにしろ夏の暑い日に見ても、体が冷たくなるほど、この映画の寒さの情景描写は半端でないし、高倉健と北大路信也の共演はすごい。外は暑くても、冷房をかけた部屋は涼しいが、それが瞬く間に冬山の世界に入ってしまう。アクション映画の分類に入るかと思うが、これほど寒さを実感させる映画も世界的に少ない。ただ、こういった商業映画でヒットした作品は、あまのじゃくの多い映画評論家の評価は低く、キネマ旬報のベスト100にも入っていない。

 アメリカから昨年来た交換留学生の高校生に青森紹介のため、是非この映画を見てほしいと思い、いろいろネットで英語字幕付きのDVDを探したがない。黒沢や小津のものや最近作は各国語の字幕が入り、今でもテレビや映画館で上映されているだろうが、案外こういった通俗的な作品は海外では知られていないかもしれない。是非とも字幕を入れて海外に紹介してほしい。いまどき映画に字幕を入れるのはそれほど金もかからないので、青森県を海外に紹介する作品として県の費用で字幕を入れるのも安上がりなPR広告となろう。以前紹介した弘前市のある旧陸軍第八師団の将校集会所である偕行社もこの映画のロケに使われたし、八甲田山のみならず、津軽の美しい風景を描いている。この映画の監督である森谷司郎は「海峡」でも青函トンネル工事を描き、青森県との縁がある。また「飢餓海峡」や寺山修司の「田園に死す」、「津軽じょんがら節」、あるいは岩木山での秋田県大館鳳鳴高校山岳部員の遭難事故を 題材にした実話、NHKの「遭難」も、青森県の紹介映画としては勧められる。

 昔、長野の黒部ダムを見学に行った時、資料館で石原裕次郎の「黒部の太陽」をガンガン上映していた。友人と結構見入ってしまい、今でも映画と実際の黒部ダムが一緒になって記憶に収まっている。今度、高校の先輩である大森一樹監督が「津軽百年食堂」を撮る事になったが、ロケにつかうだけでなく、青森県を題材とした作品をもっと観光に役立てる方策も立てたらどうだろうか。

 5年ほど前に来た交換留学生の出身地がアメリカのノースダコダのファーゴというところだったが、映画ファンならすぐさまコーエン兄弟監督の「ファーゴ」を思い出すであろう。ただ一作の映画によりアメリカの片田舎ファーゴの町は世界に知られている。映画の威力を知るべきである。

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