2014年1月4日土曜日

冬休みの読書


 正月は寝正月で、溜め込んでいた本を読んでいました。そのひとつ、「ルポ「中国製品」の闇」(鈴木譲仁著、集英社新書、2013)は、中国で作製される歯科技巧物についての報告です。わたしの仕事にも関係ある事柄なので興味を持って読みました。

 日本では歯科技工士法によって、口の中に入れられる義歯や補綴物は、国家資格をもつ歯科技工士しか作られないことになっています。これに対して一部の歯科医師は工賃の安い中国に技工物を発注しており、これでは国内法はザル法であるとして、歯科技工士らが訴訟をおこしましたが、結局は却下されました。著者らもそうですが、その際の問題点を中国産食品、家電と同様、質の悪い中国製品が日本に雑貨として自由に入ってくるのは、けしからん、とりわけ口に入る補綴物は安全でなくてはいけないという論点に切り替わります。そして中国の技工所で作られている義歯には腎臓病やガンを誘発するベリリウムやニッケル、クロムなどが使われている、これでいいのかと告発します。

 まず歯科技工物の海外委託についてですが、実際に歯科医師側から海外委託をする例は少ないと思います。むしろ出来るだけ安い技工物を求める結果、技工所側からさらに工賃の安い中国に委託するようです。かって東京の技工所が工賃の安い青森の技工士に発注したのと同じ構図です。現行の保険制度では、点数が低いため、できるだけ安い技工料でということで、東京から青森に、さらに中国に、将来的にはベトナムにという、衣服に代表される産業構造に合致します。流通の普及、迅速、低価格化が後押しします。歯科技工士の高齢化と減少から、欧米のように、低価格製品(保険扱い)については、ますますこの傾向は強くなるように思えます。

 次に歯科用金属の毒性については、矯正用器材にも多く使われるニッケル、クロム合金は金属としては安定しており、口の中への金属イオンの溶出は微量であり、健康を害しないとの見解のようです。それでもこれらの金属を加工する際の粉塵を多量に吸う可能性のある歯科技工士への健康被害を配慮してドイツなどでは使用禁止となっています。今のところ患者に対する健康被害は確認されていないというのが現状です。かって充填材料として幅広く使われていたアマルガムについても水銀を含む金属として日本では現在ではほとんど使われていませんが、アメリカなどでは未だに一部の歯科医師により愛用されています。日本で禁止されたのも、患者への毒性より、アマルガムの廃棄の問題が大きかったように思えます。未だにアマルガムが使われている理由も、確実な健康被害が確認されていないためでしょう。

 最近では、医科でも人工関節、血管、骨など生体に人工物を入れることも多くなってきましたが、歯科はあらゆる器材が人工物であり、補綴、充填、矯正材料など使われる素材はキリがありません。私自身、器材の安全性については99%信じていますが、それでも1%のリスクはあり、技工物についてはすべて自分で作っています。矯正の技工物は特殊であること、材料を把握でき、問題があればすぐに対応できること、さらに一番大きな理由は経済的であることから、時間をみて自分で作っています。まあ、作るのも好きだという理由もありますが、いちいち技工所に廻すと時間がかかり、すぐに対応できません。さらに患者さんはしょっちゅう装置をなくす、破折させます。その都度、技工料が発生すると、一括料金の場合、何だか損したように思えるのも事実ですが、自分で作ればそういった思いも減ります。また患者に装置代を請求する先生もいますが、患者さんは不注意でなくす、壊すのですから、後のクレームになることもあります。

 この本もそうですが、自分の主張に合致する事実のみをピックアップし、世論を煽るようなルポラーターの論調は、やや怖い感じがします。一方、同じ時期に読んだ「近世大名家臣団の社会構造」(磯田道史著、文藝春秋、2013)はすごい本です。著者は歴史物のテレビなどで、よくコメンテーターとして登場する売れっ子ですが、この本は、著者の慶応大学での博士論文です。実証的な論文で、江戸時代の士族の暮らしを統計的に解析しています。学者とルポライターの手法は違うとは思いますが、多くの資料、発言の中から、真実を見つける点では同じであり、読者がすごいと思うのは、結論もそうですが、そこに至るまでの過程だと思います。

正月に読んだ本
「第三の銃弾」(スティーブ・ハンター著、扶桑社ミステリー、2013 ★★★
「ルポ「中国製品」の闇」(鈴木譲仁著、集英社新書、2013)★★
「近世大名家臣団の社会構造」(磯田道史著、文藝春秋、2013)★★★★
「百年前の山を旅する」(服部文祥著、新潮文庫、2013)★★★
「津軽弁と語源日本語における方言の力」(小笠原功著、北方新社、2013
難しすぎて評価できず ?

・「日本潜水艦史」(世界の艦船1月号増刊、海人社、2013 ★★★

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