2018年2月9日金曜日

大学病院


 従来、医学部附属病院は最高峰の医療を提供する施設であり、いまだに年配の方には大学病院神話がある。テレビドラマ「白い巨頭」の世界であり、教授を頂点に、助教授、講師、助手のピラミッド構造世界で、教授回診となると医局員総出で付き従う。患者は教授の診察を受けられるだけでありがたいと思い、ましてや手術を受けるとなると、それ相応の謝礼を支払う。医局には薬剤会社のプロパーがご機嫌伺いでうろちょろし、やれ野球をすると言われれば場所から用具一式手配し、学会に行くとなると交通費から宿泊費まで世話した。新製品の発売となると昼食はうな重、論文の参考文献を集めさせたりとやりたい放題であった。

 さすがにこうしたことは最近では少なくなり、大学病院の権威も下がったが、それ以上に医療面での凋落がはげしい。日本でもアメリカに倣い、ガンの手術件数などがランキングされるようになったが、部位別になると大学病院より各地のがんセンターや民間病院の方が症例数は多い。治療成績までのランキングはないが、群馬大学医学部附属病院の内視鏡手術による死亡事故を挙げるまでもなく、内容的にも大学病院に勝っているところも多い。こうした流れは二十年前まではあまりなかったが、ここ十年、顕著になってきており、将来的にも大学病院の劣勢は免れない。

 医学部では、研究、教育、臨床の3つの柱があり、どれもなおざりにできない。教授になっても、学生への授業もあるし、大学院生の指導、会議などで忙しく、臨床だけに集中することはできない。これは中堅の講師、助教でも同じで、雑用が多く、また最近では医師としての評価だけでなく、学者としての評価、すなわち研究と論文数が求められる。一方、臨床を主体とする民間病院やがんセンターは確かに雑用もあろうが、臨床をメインに働き、研究や教育の比率は大学よりは低い。患者数に対しての医師数は大学が多いが、研修医などを含めた医師数であり、経験年数からみれば民間病院、がんセンターの先生の方が高い。また以前は大学病院の方が使用器材も最新のものが使われていたが、予算が厳しく、なかなか買ってもらえず、むしろ民間病院の方が導入、交換が早い。

 そこで、ここ十数年、大学病院でも患者を集めて収入を増やすために、患者を呼べる先生を教授にする傾向があり、昔のような論文ばかり書き、手術はできない教授は少なくなったし、私立大学では逆に民間病院で活躍する先生を教授にすることもある。患者はよく知っており、臨床で有名な先生だと、殺到する。

 こうした大学病院の劣勢の原因に、大学院大学制度がある。アメリカでは専門職大学院であり、形成外科専門医になるには、外科の専門医の資格を取ってから形成外科の大学院に入る。歯科、その中でも矯正歯科について言えば、大学卒業後、3年制の大学院に入る。ここでは朝から晩まで臨床を主体としたカリキュラムが組まれ、専門医としてやれる臨床能力を学ぶ。かなりハードな内容であり、授業料も高い。試験も厳しく、卒業試験と臨床論文を提出してはれて卒業となる。卒業生は矯正専門医院に数年勤務して開業する、あるいは勤務先医院を継承する。大学の教授になるのはPhDが必要なので、その時点で矯正歯科に関連する基礎講座で研究して博士号(PhD)をとる。大学では個人開業医の費用の半分くらいなので、学生が見る患者数は多い。

 医学生に聞いても、今は博士号よりは専門医を目指す者が多い。そうであれば、研究者を目指した大学院大学ではなく、専門医を目指す専門職(医)大学院に変換することが重要である。大学病院という大きな機構をより日本の医療向上へ役立つものに変えていく必要がある。ましてや歯学部附属病院は歯科口腔外科を除き高次医療機関ではなく、やっている内容は個人開業医と同じである。医学部と同様な大学院大学を実施することは全くナンセンスである。

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