2018年3月12日月曜日

映画「坂道のアポロン」 おしい





 土曜日から映画館で上映開始。早速、日曜日に見に行ってきた。女子高校生が20名くらい、大学生のカップルが3組、おじさんが私も含めて2名、おばさんが5名という感じである。内容についてはコミック、全九巻で知っているが、映画では九巻プラスボーナス版の内容を2時間の内容にしなくてはいけないので、登場人物の背景はあまり詳しく説明していない。それでもシーンによっては周りの女子高生の嗚咽が聞こえ、古い友情もの作品も、今の若者にうけるなあと少しうれしかった。

 最後の方の省略が多すぎて、観客には理解できないので、原作に沿って少し説明する。映画では律子が交通事故に遭うが、原作では千太郎の妹が交通事故で意識不明となる。この変更は映画の筋としては問題ない。ただ映画では律子が病院で意識を戻すと、千太郎がいなくなり、そのまま十年の時間が流れて、最後のシーンになっていく。おそらく観客の多くは律子と薫の恋がどうして切れたのか、説明がないので全くわからない。原作では、薫は東京の医科大学に進学し、そこでも東京の仲間とジャズをやっていて、薫とは文通を続けている。ただ遠距離のため次第に気持ちに溝ができ、ある日、律子に電話すると、そこには男の声で「律子にしつこく手紙を出してきよるとは、やめてもらえんですか。彼女も迷惑しとります」と切られる。さびしさに負け、少しつき合っていた男が勝手に電話にでたのである。だが、このまま二人の関係は終わる。この説明は、医師になった薫の回想シーンを入れて説明してほしい。

 映画の設定は1966年(昭和41年)とその十年後である。大分県高田市でロケが行われた。ここは昭和の町で有名で、こうしたロケにはうってつけである。高校生、男子の友情、三角関係、音楽、設定はいいし、原作の咀嚼もできている。だが、私の好きな台湾映画の青春もの「若葉のころ」、「あの頃、君を追いかけた」、「言えない秘密」などに比べるとノスタルジーの要素が弱く、時代の空気感が少ない。原作はマンガなので、登場人物、舞台、設定も現実離れしているはわかるが、もっと印象に残る美しいシーンがほしかった。監督としては、海水浴のシーン、文化祭のシーンなどをハイラトシーンにしているが、それほどシーンとしては魅力的ではない。さらに、この映画でも相当時代考証に力を入れて、昭和41年当時の佐世保の町を再現しているが、それでも映画「この世界の片隅に」の戦前の呉の再現ほどではないだろうし、同様に主人公の当時の考えまで時代考証したのか疑問である。とくに昭和41年というのは微妙な時期で、東京オリンピックがあったのが1964年(昭和39年)、ビートルズの日本公演が1966年(昭和41年)で、大阪万博の前で、ちょうどカラー放送が普及し始めたころである。わが家にもすでにテレビがあったが、「ジャングル大帝」のコマーシャルで“色がついた。そんなばかな”と白黒にテレビを見て悔しがったが、すぐに大枚をはたきカラーテレビを買った。戦争はすでに遠い過去。佐世保という軍港が舞台とはいえ、あまりに米兵のシーンが多すぎ、強調しすぎて、昭和41年感がない。こういったらなんだが、もう少し有能な監督で、時代の空気をきれいに描ききれたら、原作はいいだけに、もっといい作品になったと思われ残念である。ライ・アン・ユン監督の映画「ノルウェイの森」は昭和42,3年ころを舞台にしており、外国人監督の奇妙な時代感覚の方が「坂道のアポロン」より印象に残った。1966年というと、まさに村上春樹の時代である。多分見ないとは思うが、彼のこの映画の感想を聞きたいところである。

 本当におしい作品で、具体的にはわからないが、主人公が「ローマの休日」のオードリのようであったなら、主題歌が「時をかける少女」のようであったなら、後世に残る名作になったかもしれない。

3 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

広瀬様

広瀬様が「坂道のアポロン」のファンと知り驚きました。
私も11日に三宮の映画館で見ました。

私はディーンフジオカのファンで、彼が出演すると知り、桂木淳一がどういう人物かを知りたくて、マンガを全巻TSUTAYAで借りて読みました。
アニメのDVDも借りて、すっかりハマりました。

色々マンガとは設定が変わるのは仕方がないと思いましたが、深堀百合香役の女優は合ってないと思ったし、
時間が短いから仕方がないと判っていても、マンガが素晴らしかっただけに残念でした。

ねこ吉

広瀬寿秀 さんのコメント...

ねこ吉さんに勧められて、原作を読んだクチです。映画を見た後、もう一度原作を読むと、ディーンフジオカさんはぴったりでしたが、主演男優、女優はもう少し昭和感があった方がよかったかもしれません。一番気になるのは、かなり内容をはしょっていて、映画だけ見た人はわからかい点が多いと思いました。
 たぶん「坂道のアポロン」にはまる人は、台湾映画「言えない秘密」と「若葉のころ」は絶対にお勧めです。またアメリカ映画「きみに読む物語」も純愛の極地で、まだ見ていない場合は絶対に見て下さい。これはすでに見たと思いますが、万一、最高傑作の「ある日どこかで」を見ていなければ、これは人生の不幸です。絶対に見て下さい。5回以上見た作品は「マイフェアーレディ」とこれくらいです。多分、深夜放送で見ていると思いますが、レンタルでじっくり見ると最後が最初に繋がるエンドレス映画です。

匿名 さんのコメント...

広瀬様

お返事有難うございます。
私が勧めたのでしょうか?もしかして、ブログを読んでくださったのでしょうか?

私は千太郎の身の上が切なくて・・・。ボーナストラックで幸せそうでホッとしました。

広瀬様のお勧めの映画、見てみたいと思います。
「ある日どこかで」をまず見てみようと思います。人生の不幸は嫌ですから。(笑)

「マイフェアレディ」を見たのは、小学校の5、6年、梅田スカラ座に父に連れて行ってもらいました。
感激しました。パンフレットも買ってもらって、45回転のサントラ盤のレコードも買いました。

中学校の時は、友人と尼崎OS劇場に行っていました。
そこで見た2本立て「王様と私」「サウンド・オブ・ミュージック」は、人生で一番思い出に残っています。

思い出話を失礼しました。

ねこ吉