2018年4月9日月曜日

矯正治療の主流 マルチブラケット法


 歯の一本ずつにブラケットと呼ばれる矯正装置をつけて、ワイヤーやゴムを使って歯並びを治す治療法をマルチブラケット法と呼びます。他にも多くの治療法がありますが、このマルチブラケット法が矯正治療の主流であり、私のところでの治療では7割はこの治療法です。おそらく全世界の矯正専門医歯科医院においてもこの比率は変わらないか、もっと高いかもしれません。すなわち、矯正治療の主たる治療法は、このマルチブラケット法であることは間違いありません。

 なぜこの治療法がメインの治療法かというと、応用範囲が広く、一本、一本の歯、あるいは歯列全体を移動し、最終的には理想咬合にもっていくには最もふさわしい治療法なのです。オリジナルは1920年代にアメリカのアングル先生により開発されました。当時はすべての歯にバンドを巻いて装置をつけていましたが、これは日本人の誇りですが、東京医科歯科大学の三浦不二夫先生の発明によるダイレクトボンディング法の発明により、ブラケットを直接、歯に接着できることができました。そのため今では金属のブラケットに代わって透明、白いブラケットが登場しましたし、外からは見えない舌側矯正もできました。アングルの発明以来、百年、手間や患者への負担は減りましたが、基本はほとんど代わっていません。インビザラインなどマルチブラケット法に代わる方法もでてきましたが、未だに主流とはなっていません。

 そういう訳で、20年程前までは矯正治療=マルチブラケット法で、一般歯科医に対する講習会もほぼマルチブラケット法の講習会でした。私も鹿児島大学にいた頃は、何度か講習会で教えました。ただマルチブラケット法の修得は本当に難しく、当時も教えはしたのですが、難しく、講習会終了後の感想を求めると、難しくてできませんという声が多かったと思います。まずブラケットの種類だけで数百種類以上ありますし、矯正材料メーカーの厚いカタログの大半はマルチブラケット装置に関係するもので、メーカーも十以上あります。このカタログを理解できるために大学の矯正歯科の医局に2年以上、在局しないと無理でしょう。

 こうしたこともあり、20年程前までは矯正歯科治療は、矯正歯科医院でするという流れでしたが、20年程前から床矯正治療の人気が出てきました。床矯正治療はもともとマルチブラケット法が日本に上陸する1960年までにやられていた古い治療法で、ヨーロッパでも1970年ころまでやっていました。比較的簡単な方法で治療できるため、日本で最後までやっていたのは大阪歯科大学で、1980年代までしていました。今では全国の矯正歯科、あるいは欧米の矯正歯科で床矯正歯科がメインになっているところはありません。25年前に矯正歯科治療と顎関節症の因果関係、すなわち矯正治療をすることでアゴが痛くなったという訴訟があり、その際の被告人の証人として歯を抜かない、取り外しのできる装置を使っている極めて稀な矯正歯科医が登場します。結果は忘れましたが、当時、アメリカ矯正歯科学会はやっきになって矯正治療と顎関節症の因果関係を否定しました。

 現在、歯科雑誌をみていても、一般歯科向けのマルチブラケット法の講習会は減っています。それに代わってマルチブラケット装置を用いない機能的矯正装置、床矯正装置、拡大装置、あるいは機能訓練などの講習会の人気があります。こうしたマルチブラケット装置を使わない治療法は有効な場合もあるとは思いますが、欧米、日本でも一番、不正咬合の治療に従事している矯正専門医が使わなくなったのは、適用範囲に無理があるからです。そのため日本矯正歯科学会でも抜歯、マルチブラケット法の症例を認定医、専門医の課題として審査しています。もちろんマルチブラケット法ですべての症例は治療できませんが、これに外科手術を併用することで、ほとんどの症例の治療が可能になります。一方、マルチブラケット法を使わないで、機能的矯正装置、床矯正、拡大装置、機能訓練だけで専門医試験にパスするような咬合状態になるには経験上20%はいかないと思います。マルチブラケット法ができないで矯正治療を行う歯科医は、問題があると思います。

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