2019年3月14日木曜日

矯正治療費は安くならないのか

次世代のデジタル印象 

 矯正治療は安くならないのかとよく質問される。歯科は美容院などと同じく、技術料が価格の基本となっているが、保険診療が中心であるため、収入は患者数である程度、決まってしまう。例えば、1日の患者数が10名であれば、1ヶ月の診療報酬は大体10万点、すなわち100万円と言われている。つまり一人の患者の平均点数が500点として10名で5000点、そして1ヶ月の20日働いて100000点となる。20名であれば20万点、50名であれば50万点となる。もちろん、患者数が多くなると、歯科医師、衛生士、受付などの従業員数も増えるし、技工料、光熱費などの固定費も増える。歯科の場合は、内科とは違い、歯科医師自身が実際に処置することが多いため、一人の歯科医師で100人もの患者を診ることはできない。せいぜい50名くらいが限界であろう。平均患者数は17人くらいと言われており、実質7時間働くとして、1時間に2〜3名の診療となる。一人30分見当の診療時間が見込まれ、そうした意味ではもはや診療時間が少なくて満足な治療ができないという状況ではない。ただ実際は、患者が集中する時期、時間があるので、十分な診療時間が取れないことがあるが、それでも17名程度で多すぎるという歯科医院は少ないだろう。今は歯科医師数が過剰で、そのため患者数が少ないのであろうが、おそらく自費診療も含めて一人の歯科医院での適正患者数は20-30人程度であろう。1日の患者数がこれくらいだと、診療時間に余裕があり、経営的にもいいのだろう。

 この発想から、矯正歯科単独でも1日の患者数が20名くらいになれば、仮に矯正治療が保険適用あるいは保険基準価格でも十分にやっていけることになる。おそらく現行の矯正治療の保険点数は一般歯科の点数よる高くなっているので、患者数がこれ以下でも大丈夫である。ただ問題点としては、矯正患者の多くは、小学生、中高生、あるいは成人でも若い世代が多く、一般歯科より患者年齢は低い。そのため土曜日、日曜日を除き、平日の来院は4時以降が多い。実際、矯正治療の保険適用がなされている英国では、保険患者は午前中、午後も夕方前、学校が休んで治療する時間しか予約できない。逆に日本とは違い、自費診療も可能で、自費の患者さんは学校が終了した時間以降に予約できる。矯正器具だけでなく、予約時間の便宜も自費患者に有利になるようにしている。ちなみに日本では保険医療機関では、こうした差別は禁じられている。
 こうした問題があるにしろ、矯正治療を保険適用にすることは国民にとって大きなメリットであり、保険適用による医療費についても老人医療などに比べるとわずかなものである。近年、若年者を中心にう蝕自体は急激に減っている。これは歯科医療費、そのものが減少することを意味する。その減少分の補填する意味でも学童の矯正治療の保険適用は理にかなっている。さらに若い世代では、健康保険料の不公平感を感じている人が多い。自分たちの保険料が老人医療ばかりに使われ、自分たちの世代へのメリットは少ない。こうした観点からすれば、自分の子供が不正咬合で、矯正治療が必要だとした場合、その費用が保険で賄われることは嬉しい。

 ただ日本矯正歯科学会はじめ矯正歯科の関係者は、今のままの自費診療を中心としたシステムを守りたいと考えており、保険適用に対する議論はほとんどない。一番大きな理由は、治療レベルが落ちるということだが、これは自分の診療所を考えれば、絶対にそうしたことはあり得ない。現在でも顎変形症や口蓋裂患者は保険適用であるが、自費の矯正患者と治療レベルが異なることはない。それに関係して、一般歯科の先生も今以上に矯正治療をするようになり、矯正専門医が崩壊するという声もある。ただこれについても、患者数のパイが増えれば、勢いより専門性の高いところに患者は行くもので、一般歯科での治療が増え、専門医での治療が減ることはないと思う。
 
 ドイツ、フランス、イギリス、北欧などのシステムを参考に、そろそろ日本でも学童期の重度の不正咬合の保険適用について議論していく時期に来ていると思う。

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