2019年5月15日水曜日

マウスピースタイプ矯正装置の流行



 私が所属する日本矯正歯科医会から昨年、会に寄せられたクレーム相談の内容をまとめたレポートが送られてきた。数年前から担当の先生を決めて患者さんからの矯正相談に応じているが、年々、相談件数が増えて、今年のレポートはかなり厚いものになった。以前のレポートに比べて変わった点としては、インビザラインなどのマウスピースタイプの矯正治療に対する相談が多い。大きく分けて、そうした治療を受けたが治らないといった治療そのものの問題と、やめたいが返金してくれないという料金に関わる問題である。

 インビザラインのよる治療は、年々進歩しており、かっては単純な非抜歯の叢生ケースだけであったが、最近では種々のアタッチメントを用いて抜歯ケースや骨格性不正咬合にも対応できるようになった。それでも治療手段としては、まだまだ従来のブラケットを用いた治療法には適用あるいは期間では劣る。すなわち、かなり多くの症例にも使えるようになったが、期間がかかったり、仕上げが不十分、さらには治らない症例もある。また従来のブラケット装置による治療と同等の治療結果を得るには、かなりの経験と知識が必要となり、当たり前だが、通常の矯正治療ができない先生には、インビザラインによる治療はできない。

 ところがここ2、3年、驚くほどのスピードで歯科医院でのインビザラインあるいはそれに類したマウスピースタイプの治療法が広まっている。一つは歯科医院の金づるであったインプラントが、欠損歯の減少により頭打ちとなり、さらに金目のものとして、矯正治療、とりわけ簡単と考えがちなマウスピースによる矯正治療がターゲットとなった。患者さんが来院し、型をとり、会社に送ると、治療終了までのマウスピースが送られてきて、それを患者に渡すだけなのである。取り外しににできる装置なので、患者さんがあまり使わないことがあるが、そうした場合は、患者さんの責任にすればよく、治らなければ今度はインビザライン社のせいにする。お金だけとって、楽な商売をするという類である。本来なら、治らないなければ、もう一度、治療計画を変更し、場合によってはブラケット治療にすべきであるが、金儲けのためにマウスピース矯正を使う歯科医院は、ブラケットによる治療はできない。

 アメリカではSmile Direct Clubという会社があり、ここでは治療希望者がHPで申し込むと、会社から印象のセットが送られ、指示に沿って口に型をとると、それによって治療終了までのマウスピースが送られてくる。二週間ごとに新しいマウスピースを変えて、治療を進めてくる。流石に自分で正確な印象を取るのは難しいのか、最近では全米各地に店舗を作り、全くの歯科の素人を雇い、医療法に触れない範囲で、口の写真、あるいは3Dのスキャナーを利用してお口の型をとる。デジタルによる印象なので、かなり正確であり、素人でもうまくカメラを扱えれば、患者さんの口の状況を正確に写し取る。それを元にマウスピースが作られる。料金は20万円くらいで通常の矯正治療が60-80万円なので、かなり安く、年々、会社は大きくなり、さらには全米大手の薬局チェーンと提携して、薬屋の一角に店を出すようだ。日本への進出はまだだが、私自身は、Smile Direct Clubの日本進出には賛成である。やっている内容な一般歯科でのマウスピースと変わらず、たとえ失敗しても患者さんの費用的な負担は少ない。もちろんSmile Direct Clubが日本にできれば、一番影響されるのは、マウスピース治療を金儲けのためにしている一般歯科で、私らの矯正歯科医がほとんど影響しない。こうした歯科医が関係しないビジネスは、医療法からすればかなりグレーではあるが、歯科医院以外での歯のホワイトニングエステの普及を考えれば、日本に上陸してもおかしくはない。ホワイトニングはもともと歯科医院の金儲けの手段であったので、こうした歯科医院以外のホワイトニングエステも、歯科医師会による表立っての反対はない。

 最初に述べたようにインビザラインのようなマウスピースタイプの矯正治療のクレームが増加しており、その多くが金儲けの歯科医院によるものであるなら、お恥ずかしいことであるが、かなり灰色のSmile Direct Clubといったビジネスがそうした医院を駆逐してくれるかもしれない。私たち、矯正歯科医はそうした治療で治らないという患者さんに、より専門性の高い治療を提供できるため、あまり影響はないと思う。

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