2019年5月13日月曜日

矯正治療の保険化

こうした問題もあります。  

 今年の10月から幼児教育・保育の無償化が実施され、幼稚園、保育園の授業料、保育費が無料となる。さらに大学の授業料については経済状態により無償化されそうであり、いずれも子供を持つ家庭では大きな福音となる。これは自分たちの税金が年寄りばかりに使われていると言う若い世代の不満を解消する政治的手段であり、政府の票集めと言っても良い。確かに若い世代からすれば、多くの税金を払いながら、自分たちにとって何のメリットもなければ、政府への不満が多くなるだろう。これをかわす試み、あるいは今後実施する消費税の値上げを納得させようとするものであろう。

 一方、税金と同様に、健康保険への若い世代の不満が高まっている。高い保険料を払いながら、その多くは老人医療に使われており、自分たちへの恩恵は少ないと感じている。若い世代では病気にかかる機会も老人より少なく、また費用も少ない。特に歯科においては、20歳以下の若い世代では、以前に比べて虫歯もかなり少なくなっており、ほとんど歯科医院に行ったこともない人も多い。彼らにすれば医療費の7%を占める歯科医療費は全く関係ないコストとなり,
使わないのであれば、7%安くしろと言う意見は間違っていない。さらに医療費にも保険料だけでなく、税金が使われていることから、彼らの不満は大きい。

 そうした中、なぜ歯科矯正が保険適用されないかと言う声がある。18歳以下の子供を持つ平均的な家庭においては、おそらく矯正歯科治療費が最も高い医療費であり、他の教育費や生活費などの出費を考えると、子供に治療を受けさせたくともなかなか家計的にむずかしい。もし歯科矯正が保険適用されるなら、どうでしょうかと問えば、若い世代ではほぼ100%近く、賛成するであろう。さらに言えば、う蝕の減少に伴い、今後、歯科医療費は下がる可能性があり、それをカバーする点でも歯科矯正の保険化はありうる。

 高校、大学、幼稚園や保育園の無償化は、子供を持つ親からの支持があるだけでなく、学校運営者からも無償化による経営的なメリットがある。そうした両者による働きにより政府が答えた。一方、歯科矯正の保険化は、実現に向けた市民による動きは少しあるようだが、歯科医師会、日本矯正歯科学会からの動きは全くない。日本矯正歯科学会は、矯正治療が保険化すれば、症例あたりの単価がかなり安くなり、収入が減ること、さらに一般歯科医も今まで以上に矯正治療をすることで、全体的なレベルが低下することを恐れている。一方、歯科医師会では、立場上、矯正歯科を標榜している一部の歯科医院のみに益する点数改正には興味がなく、むしろ全歯科医院に益する初診料や再診料のアップを狙う。

 現在、歯科矯正で保険が認められているのは、唇顎口蓋裂児の不正咬合と、顎変形症に伴う不正咬合である。前者が保険化された直接のきっかけは、唇顎口蓋裂児の自殺がきっかけであった。公明党により国会で、取り上げられ、概算すると医療費もそれほどかからないため、国会でもすぐに賛同されて、保険適用となった。この時は、昭和大学歯学部矯正歯科の福原名誉教授の力で、かなり高い点数で保険適用された。その後、ダウン症などの各種の先天性疾患の不正咬合に対する矯正治療が保険対象になったが、症例数は少ないので、厚労省もすぐに保険適用となっていった。さらに手術を伴う重度の反対咬合なども保険適用されるようになった。これがおよそ30年前で、ここからは新たな先天性疾患が追加されることがあっても、大きな変化はない。

 国民、特に子供を持つ若い世代の不満の声からいずれ、矯正治療も保険適用になる日も来るかもしれない。医療費も老人医療費を一部削減できれば、何とかなるかもしれない。ただ最近の厚労省の方向性を見ると、矯正治療を行う医院を施設基準により絞り、現状では口蓋裂、顎変形症の保険診療を担当している歯科医院に限定される可能性が高い。地方では、専門医の数が少ないので通院が難しいが、これについても数年前に口蓋裂患者については、バイトで専門医がいれば施設基準に通ることになったので、たとえ、小笠原列島でも専門医が月に1回でも来れば、保険治療を受けられる。

 厚労省の役人も頭が良く、こうした矯正治療の保険化については、長年にわたって少しずつ、進めている。次のステップとして、まず18歳以下の子供の矯正治療費を保険にした場合の予算を現行の口蓋裂の保険点数をもとに算出し、総額で年間どれくらい医療費がかかり、その負担をどうするか検討すべきである。国民医療費は1999年から10兆円増えているが、歯科医療費は2.6兆円のまま変化はなくが、医療費の増加率からすれば8000億円くらい増えてもよく、その差額分で十分に子供の矯正治療費は保険適用できる。

1.     現行の口蓋裂患者の矯正治療の保険点数を基準として、18歳以下の子供の矯正治療費を保険化する場合の費用を算出する。欧米の例からすれば、総数の30-40%が適用となる。
2.     医療の質を担保にするために、保険による矯正治療をできる歯科医院は、施設基準の届け出をする。現行の口蓋裂の施設基準に沿って、セファロの設置と矯正歯科学会の認定医の資格(バイトも可)が必要。
3.     中から重度の不正咬合を対象とし、点数付けをして、ある点数以上の場合のみ保険適用とする。それを示す写真の添付。
4.     日本矯正歯科学会のガイドラインから逸脱した治療法は保険適用とならない。
5.     患者が治療途中で転住した場合は、転医先を探し、紹介する。
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