2019年11月4日月曜日

弘前大学人文社会学部 国際公開講座2019



 文化の日、弘前大学で毎年行われている人文社会学部主催の公開講座に行ってきた。今年は、「日本を知り、世界を知る」のテーマで英文学から考古学まで広い範囲の講義が行われた。特別講演では台湾大学の張文薫先生の「津軽海峡、リンゴと太宰治—青森と南国台湾の繋がりー」と題した講演があった。

 台湾では青森と言えば、まずリンゴ、さらにはねぶた、あるいは太宰治もよく知られているという。台湾のデパートでは青森物産展が行われ、そこには弘前のりんごが高級果物として高い値段で売られていて、人気があるようだ。さらには台湾大学では台湾文学より日本文学が学生に人気があり、とりわけ人気があるには太宰治、芥川龍之介、中島敦、村上春樹で、夏目漱石、三島由紀夫、大江健三郎はあまり人気がないようだ。太宰の作品については、人間失格などは早くから台湾語訳で出版されていたが、その人気が急速に高まったのは、邱妙津の「ある鰐の手記」という作品による。邱は台湾大学を卒業後、ソルボンヌ大学に留学する才女だが、太宰の作品などに影響されて26歳の若さで自殺する。そのショッキングな話題はたちまち彼女の本をベストセラーにし、さらには彼女が心頭する太宰治の作品に向かった。その後、トレンディーな若者に太宰治は支持され、今では太宰のほとんどの作品は翻訳されていて、人気が高い。そのために青森に来る若者の中には、わざわざ金木の斜陽館に来るのが目的の人もいる。韓国や中国でも同様に太宰は人気が高い。

 張先生の専門は、戦前の台湾文学であるが、昔、当院に来ていた患者さんのお父さんのことを思い出した。彼は台湾出身で、今は彦根と台湾を行き来して生活し、たまたま娘さんが弘前大学にいたためにこちらで暮していた。私は、もともと台湾好きだったので、この方とも何度か話しあったことがあった。彼は戦前の台湾では非常に有名であった小説家の周金波という方の息子さんである。周金波は基隆生まれで、日本大学歯学部で学び、卒業後は基隆で歯科医院をしながら、小説を書き、戦前は大東亜文学者大会で台湾代表となる。戦後、ニ・ニ八事件後は日本への協力を批判され、弾圧を受けた。そのために戦後はあまり活躍することはなかった。

 こうした皇民作家と呼ばれる台湾人作家の昨今の評価について張先生に聞いてみたかったが、さすがに場違いな講演会でこうした質問はまずいと思い、諦めた。台湾の人と話す場合、まず民進党か国民党かをはっきりと認識しておかないとまずいような気がする。もちろん周金波先生の息子さんは、民進党で、台湾独立派である。こうした民進党の支持する人々の親あるいは祖父は、戦前に日本語の教育を受けたため、日本語が喋れる。これが鑑別の一つであり、国民党支持者の多くは戦後、中国から台湾に来たために、そういうことはない。今の若者世代は、こうした政党による違いは少なくなっていると思うが、台湾の方は親孝行な人が多いため、日本語をしゃべれる親や祖父への尊敬の念は日本への好意とそれとは逆に反中国に向かうことになる。

 今では戦前に日本語を受けた世代はほとんどなくなり、台湾でも日本語を喋る人は昔に比べて減っているが、それでも日本に対する畏敬は強い。35年前だが、台湾の高雄の歯科医院を訪ねてことがある。そこの先生のお父さんは戦前に慶應義塾大学を卒業したインテリで、わざわざ日本から客が来るということで、本当に久しぶりの丁寧が挨拶を受けた。もはや日本では見られないような丁寧な日本語と応対で驚くとともに、それを見ている歯科医の息子、およびその妻、孫の彼に対する尊敬の念はひしひしと感じた。

 1957年の嵐寛寿郎主演の「明治天皇と日露大戦争」が台湾で公開された時には、天皇のシーンが出るたびに、観客が直立し、礼をしたという逸話があるほど、戦前の日本語を喋れる世代の日本愛は強い。台湾の方にとって、青森県は雪、温泉、お祭り、歴史のある場所で、私たちが南国ハワイに憧れるような一度は行きたい場所である。紅葉の季節、わざわざ自転車を持ち込んでサイクリングしている台湾人観光客を多く見るが、弘前で誰もレンタルでサイクリング用のマウンテンバイクや小型自転車を貸すようなことはしていない。7万円くらいのそこそこのマウンテンバイクや小型自転車を一日3000円くらいで貸せば、30日でペイできる。サイクルネット弘前でも普通自電車を500円、電動自転車を1000円で貸しているが、是非、ビアンキのような自転車メーカーのシティー、スポーツタイプ、小型車のレンタルバイクも用意してほしいし、そうした機種については、予約あるいは数日借りなどもできるようにしてほしい。わざわざ台湾から自転車を持ってくるのはかなり大変であり、こうしたサービスはそれほど費用もかからない。個人的には弘南電鉄で大鰐まで自転車持ち込みで移動し、そこからりんご、田園地帯を廻るコースが勧められる。

0 件のコメント: