2019年11月2日土曜日

現代美術史 山本浩貴



 来年の春には、弘前に現代美術館ができるので、少しお勉強しようと山本浩貴著“現代美術史”(中公新書)を買った。先日、東京までの出張があったので、行きは話題の大木毅著“独ソ戦 絶滅戦争の惨禍”(岩波新書)を、帰りにこの“現代美術史”を読んだ。3時間くらいの乗車なので、ちょうど良い分量である。

 ところが、この“現代美術史”があまりに難解でほとんど理解できなかった。20世紀に入っての現代美術を総観するのは、著者も語っているように、かなり大変な作業であり、それもわずかな挿入写真でコンパクトにまとめるのは至難の業であることは認める。それでも中公新書も編集者がいるのであれば、もう少し、内容は薄くしても、わかりやすいものに出来よう。欧米だけでなく、日本、あるいはアフリカ、在日など多くの世界とその時間軸も含めて文庫本で語ることは不可能ではないにしても、少なくとも現代美術の知識のない読者には理解しにくい。

 それと対照的に“独ソ戦”は、ややもすれば軍事専門的な記載になりそうだが、攻撃、防御などの細かい経過は適切な図でわかりやすく、省略している。おそらく出版会社の担当者の技量の差であろう。どちらも取り上げる内容はエキセントリックなものではないが、独ソ戦の売り上げが好調なのはこうした点もあろう。

 著者が専門的な知識、全てを本に真面目に注入すればするほど、本の内容も次第に難しいものになっていく。たとえ100の知識があっても、それを100全て書くのではなく、30でもいいから一般読者を想定してより理解されるべき内容にすべきであった。特に本はどれだけ売れたかが重要であり、こうした売れる本を作るためには、編集者の力量に頼ることが大きい。もちろんあまり編集者が強くいうことは著者からすると腹の立つことであろうが、それでも読者に理解される本でなくてはいけない。

 それでもこの本を読むと、“現代美術”の多彩な展開、活動の概観はかろうじてわかった。ただこうした美術が一過性もものではなく、数百年後、そこまでいかなくても100年後に残るものだろうか。青森県にも十和田現代美術館があり、見にいったことがあるが、正直、全く印象はなく、面白くない。何となく今風な感覚があり、自分がオシャレだというように思えるだけである。現代美術といっても幅広いジャンルがあり、作品により好き嫌いがあるものの、やはり一般人にも理解できる点では具象的な作品に人気がある。オノ・ヨーコのようなほとんど美術品とわからない作品よりは奈良美智の絵の方が理解しやすい。ジャクソンボロックよりは同時期に活躍したマルクジャガールの方が素人には鑑賞しやすい。

ボロックやモンドリアンの抽象絵画は、感覚で捉えるものであり、その内容を言葉で表すことは非常に難しい。それ故、こうした“現代美術史”の本を書くことは大変だったと思う。それでも時代、地域の範囲を狭くしても、もう少し、わかりやすい内容にできたと思い、残念である。むしろ、1年間くらいかけてじっくりと、多くの画像、映像を使った講義の方が作者には向いているのであろう。弘前でも現代美術館ができるが、こうした現代美術のセミナーの開催も期待したい。

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