ようやく高市政権となり、日本でも原子力潜水艦保有の機運が生まれそうになってきた。自衛隊にとって、特に旧日本帝国海軍の歴史をもつ海上自衛隊にとって、空母と原子力潜水艦の保有は悲願であった。空母に関しては、いずも型護衛艦、いずもとかがで概ね達成でき、さらに大型の空母や強襲揚陸艦の計画もあるが、原子力潜水艦については、核アレルギーが強く、漫画(沈黙の艦隊)で取り上げられるだけであった。
ただ最近とみに著しい海軍の増強を行っている中国に対抗するためには、潜水艦とりわけ原子力潜水艦が最も中国にとって脅威となり、台湾侵攻などを含めた中国への抑止力となる。中国海軍は、近代的という観点からは、その歴史は浅く、せいぜい30年くらいしかないし、近代的な海戦経験もない。大型空母などの設備は近年、すごい勢いで充実されてきたが、空母本体には防御機能はなく、それを取り巻く、駆逐艦、潜水艦などセットとして、空母打撃群として機能する。とりわけ最大の脅威は、水中からの攻撃、潜水艦による攻撃で、さしもの空母も潜水艦による一発の魚雷で、航行不能になる可能性もあり、第一次世界大戦以降、その構図は変わっていない。これまで中国海軍はこうした実践経験がないため、もし中国の空母打撃群がアメリカの原子力潜水艦で攻撃されたら、ひとたまりもないと言われている。
最も中国が恐れる兵器が、潜水艦なのである。ましてや日本は四方を海で囲まれていおり、日本を侵略するためには、必ず、海上輸送が必要となってくる。武器、兵員全て海上輸送で運ばれ、それが潜水艦で狙われるとなると、これほど怖いことはない。まして中国海軍は、これまで中国沿海の海軍であったため、広い海域での海戦経験は全くなく、とてもではないが、アメリカ海軍、潜水艦の攻撃に対抗できない。ただ中国周辺に、常時、多くのアメリカ原子力潜水艦を回遊することはできず、もし日本が原子力潜水艦を保有すると、計画されているオーストラリアの原子力潜水艦とともに、中国周辺海域にかなり多数の潜水艦を投入でき、台湾あるいは周辺国への中国による侵攻抑止となる。
ただ日本で、これから原子力船を作るとなると、その推進用の小型原子炉を開発しなくてはいけない。日本では原子力船むつの失敗以来、原子力船の計画、設計はなく、建造には安全性も含めて相当な開発費と期間がかかる。むしろ、アメリカ海軍の原子力潜水艦バージニア型で使われているS9Gという小型原子炉をそのまま輸入して、日本独自の船体に搭載すれば良い。実際、海上自衛隊の護衛艦のタービンエンジンはGE社のものを使っている。さらに最新のアメリカの原子力潜水艦は、原子炉は主として電力供給に使われ、推進装置は電気推進となっている。元々海上自衛隊のたいげい型潜水艦もリチウム電池による電気推進なので、この電気供給をディーデルエンジンから原子炉に変える違いとなるだけである。かなり経費や開発期間の短縮が見込まれる。さらにいうなら、アメリカではもはや造船技術がかなり後退しており、造船技術の両国の移転ケースとなりうる。実際、オーストラリア向けの原潜の建造もかなり遅れそうで、アメリカの造船能力が厳しい状況となっており、日本での建造が現実的となる。また日本の潜水艦造船技術、とりわけ船体を覆う船殻構造、金属に優れており、最大深度は1000mに達するといわれ、さらにかなり深い位置からの魚雷攻撃も可能であることから、理論上は相手の潜れない、攻撃できない深さからの攻撃が可能となる。さらにソナー能力や音声解析などを含めて探知能力は元から優れているため、日本が原子力潜水艦を持つ意味は非常に大きい。アメリカ側でも、日本と共同開発は今後の新型原子力潜水艦建造にとってメリットとなる。
防衛装備というのは、相手が最も嫌がる設備を揃えるのが、抑止という点では最も大事なことである。台湾有事を考えても、中国本土から兵員、武器の海上輸送がキイとなるため、この安全が確保されなければ迂闊に台湾を攻撃できない。その場合、最も脅威になるのは、台湾が潜水艦を持つことで、2023年に国産の潜水艦を進水させている。今後も増産され、8隻体制となる。ただ台湾の地政学的欠点として西方海域は大陸棚の浅い海で、潜水艦の活動がしにくい場所であり、両国が機雷を設置して港の封鎖を狙っていくであろう。中国海軍の欠点としては、対機雷戦に弱いとされており、近年は急速に能力が高まっているとはいえ、実践経験は少なく、台湾による機雷敷設は脅威となる。逆に日本の対機雷戦の技術は世界でもトップであり、台湾有事でアメリカ軍が参戦した場合、日本の役割は基地、燃料提供などの後方支援と、港湾の機雷除去、潜水艦によるパトロールなどとなろう。すでに日本の通常動力型のたいげい型の潜水艦は、フランスのリュビ級原子力潜水艦より大きく、アメリカと十分、小型原子炉、周辺設備について協議すれば、日本独自の原子力潜水艦は十分に建造可能と思う。原子力というと日本ではタブーとなっているが、原爆を開発するわけではないし、すでに53年前に原子力船むつを竣工させている。さらに三菱重工では1m*2mという小型マイクロ炉とリチウム電池のハイブリットシステムを開発しており、潜水艦にも搭載可能という。
軍事費の拡張というのは中国、アメリカ、日本にとっても無駄なことであり、今日のアジアでの緊張関係を招いているのは中国であるのは間違いない。旧ソ連がアメリカに対抗しようとする海軍増強を諦めたように、同じ大陸国家の中国が今更、海洋国家になれるはずはなく、4隻目の(原子力?)空母は諦めて欲しいところである。アメリカのような11隻の空母と空母群を持つのは、あまりにも海軍国として経験がなさすぎて、将来アメリカだけでなく、日本、オーストラリア、韓国が原子力潜水艦を保有するような状況には対応できないだろう。












