2009年2月22日日曜日

日本の矯正歯科教育の問題点



 以前、歯科教育の危機的状況についてお話しましたが、同様に歯科矯正教育についても問題が山積しています。矯正歯科は専門性が高いため、大学卒業後に矯正科に残ってそこで臨床を学びます。欧米ではだいたい2、3年のコースがもうけられていて、応募者も多く、人気の高いコースです。

 基本はとにかく患者を多く見させ、文献を読ませて、その道のスペシャリストになる教育がなされます。アメリカなどのでは授業料も高く、年500万円ほどかかるため学生もローンをしながら勉強しているので必死です。2年間で100名ほどの患者が配当され、卒業生のベテランの矯正医の協力を得て、色々なテクニックが学べるようになっています。また患者も開業医の半分以下の料金で治療してもらえるので、いつも患者も多いようです。

 ひるがえって日本ではというと、ある歯科大学の年間新患数がわずか80名くらいと聞いたことがあります。料金が開業医並みか場合によってはそれより高く、土曜日や夕方もやっていないのでは、わざわざ大学病院で治療をと考える患者さんも減っているのでしょう。以前は大学病院での治療を信奉していた患者さんもいましたが、今や実態に気づいているひとも多くなりました。

 一方、国立大学では大学院大学になったため一定数の大学院生の確保が求められますので、今や私のような叩き上げは存在せず、みんな大学院生でしか入局できなくなりました。ある大学では大学院生が31名もおり、いくら教員で大学院生の研究をカバーして指導するとしても相当きついと思います。またこれらの大学院生の多くは認定医の取得を目指していますので(100名ほどの患者をみる実績が必要)、それなりに患者数を配当する必要があるのですが、患者の減少によりそれもままならない状況です。教官以上では全く患者配当はなく、きた患者はすべて大学院生のまわすようです。

 それでも年間300名を30名に配当するとなると、ひとり10名の新患配当でこれでは、認定医の資格をとるのに10年はかかる計算になります。実際はやめた先生からの継続患者もいるわけで、そんなにはかからないのですが。ただ私のころはそれこそ卒業2.3年目で200人くらいは配当してもらっていたことを考えるとかなり少ないと思います。この傾向は大学によってかなり異なり、年間新患数が80名程度のところもあり、これを医局員全員30名くらいに配当するとなると年間3名ほどで、継続患者も入れても1年目は10名くらいの配当にしかなりませんし、患者の中には半年ごと、2.3か月ごとの患者も多く、これでは月に2,3名しかみないことになります。うちの医院では1500名くらいの患者を一人でやっているのですから、本当にひまでしょうがないと思います。

 そのため認定医の取得のために7.8年以上かかることも結構あり、大学の6年、研修医の1年、大学院の4年、その後の3年の計14年かかってようやく認定医がとれる状況です。昔なら大学6年、その後5年でとれ、なおかつ治療した患者数は数倍でしょう。非常効率の悪い指導法です。これなら卒業後にアメリカの2,3年コースにいった方はよほど力がつくと思いますし、やる気のある若い先生にはそう指導しています。

 これだけ苦労してとった認定医も、3年前からその上に専門医という制度ができ、価値も下がってきました。専門医は提出症例のカテゴリーが難しく、大体1000症例以上経験がないと症例が集まりません。試験自体難度が高いため、多くの症例の中から選りすぐったものを出さなくてはいけないからです。そうなると矯正専門で開業しても年間50名としても20年かかる計算になり、ハードルが本当に高くなり、合格者数も初年度は150名、次年度は80名、昨年は25名くらいと受験者数、合格者数もどんどん低下しています。すでにギブアップしている先生も多いようです。

 この解決法としては、大学医局も患者数にあった入局定員の削減と、治療費の大幅な値下げがあると思います。通常考えても、美容学校の生徒にうけるパーマと町のベテランの美容師に受けるパーマの料金が同じか、かえった前者の方が高いということはありえません。美容学校の生徒さんのモデルはほとんどタダで募集していることを考えると、大学医局で新人に治療してもらう時は相場の1/3か1/2くらいにすべきです。当然助手以上の教官に見てもらうときは値下げする必要はありません。

 ただ国立大学では独立採算制がとられ、自分たちが使う金は自分で稼げということになっており、治療費をそう値下げすることはできません。一方、最大の金食いの人件費についてみると、フル講座では教授1名、准教授1名、講師1名、助教6名となっており、患者数や生徒数に対して人数が多すぎます。座学が中心である現状では、教育に対する要員は2、3名で十分であり、その他は研究者としての人数です。昨今は、優秀な論文が英文で書かれることも多いのですが、反面基礎研究の分野のものが多く、臨床のものが少なくなっています。こういう状況であれば、わざわざ臨床系の講座で研究要員を確保する必要はなく、基礎講座の枠を増やすべきです。欧米では、講座の常勤の職員は少なく、OBが週に何時間かを教えています。ほとんど無料のボランティアで、若い医局員はベテランの臨床医のテクニックを学ぶことができ、またベテランの先生も若手の教えることが生き甲斐になっているようです。臨床教授といった名前を与えさえすれば、日本でも開業医の先生は無料で母校に喜んで教えにいくと思います。ずいぶん前からこのことは大学の関係者に言っていますが、未だに大学関係者のプライドが高く、実現していません。

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