2010年7月5日月曜日

機能的矯正治療を考える会



 7月3日、4日と初めて「機能的矯正治療を考える会」に参加してきました。今回で2回目ということで、次回、3回目は岩手県の中尊寺で国際大会を行うようです。この会は、主としてヨーロッパの矯正歯科で臨床に使われている機能的矯正装置を使っている歯科医、技工士、衛生士などが集まり、議論するという会で、今回も実に活発な報告があり、始まったばかりの若い会の新鮮さを感じました。2年ほど前に東北矯正歯科学会が行われた時と同じ、郡山駅近くのビッグアイという会場で行われ、形式も2つのスライドを使い、席を扇状に並べたアットホームな雰囲気のものでした。

 初日は、種々の装置の構成咬合についてのパネルディスカッションが行われました。II級(上顎前突)に対する機能的矯正装置を作る上で、下あごをどれだけ前進させた状態で作るのかは、重要であるようです。前進量が多いケースでは二段階で、上下の前歯のところで2mmくらいの隙間ができるくらいというのが一般的な構成咬合位です。私の場合はかなり適当で、上下の前歯が合う位置、隙間は適当でやっていましたので、構成咬合位については、あまり重要視しなかったのですが、今後はもう少し、ゲージなどを使い、きちんとやるべきだと思いました。一方、技工士さん達からはかなり厳密な規格を求められていましたが、もともと矯正装置は、適当なところがあり、こういう風に作れといっても、全く根拠がないこともあり、技工士さん達の要求には答えられないようでした。矯正歯科医と技工士さんの視点がやや違った感じがしました。

 特別講演にはイタリア、トリノ大学のDeregibus教授の話がありました。機能的矯正装置の歴史、作用機序についての紹介がありましたが、個人的にはアメリカの矯正歯科に対する怒りのようなトークをおもしろく聞きました。ヨーロッパとアメリカは深いところでいまだに敵対関係にあり、機能的矯正装置派と固定式装置派との戦いは、すでに100年以上は経つのにまだ収まっていないようです。アメリカの固定装置派(マルチブラケット)は機能的矯正装置には効果がない、効果があるなら証拠を見せろといい、機能的矯正装置派は効果がある、効果がないというなら証拠を見せろと、両者とも対立しているようです。さらにここ2、3年、アメリカ矯正学会雑誌には、効果がないという論文、詳しく言えば、機能的装置を使えば、すぐに効果があるが、結局最終的な成長量にはコントロール群とは差はないという内容の論文が2、3発表されています。つまり機能的矯正装置には患者さんの持っている成長のポテンシャル以上に成長を引き起こす力はないというものです。やや機能装置派が押されている状況です。Deregibus教授は、機能的矯正装置はすでに100年以上の歴史があり、それを支持する論文も2000近く発表されており、早急にダメだと烙印を押されるものではないと強く主張していました。さらに某社のブラケットが世界中で百万個も売れているが、このブラケットがよいという研究はわずか2編しかないのに、2000近くの論文がある機能的矯正装置が否定されるのは、アメリカ資本主義、コマーシャル主義によるものだとしていました。確かにこの主張は正しく、歯の動きが速いという何の根拠もない、あるとしてもこのブラケットと同じタイプのものが50年前から数種類発売されているにも関わらず、あたかも最新の治療期間を短縮する画期的なブラケットと紹介するあたり、コマーシャリズムの匂いをぷんぷん感じさせます。アメリカの矯正歯科と矯正材料会社が結託しているという見方もできます。一方。機能的矯正装置の多くは、アメリカ人にとっては製作、治療が面倒くさいという、ただそれだけの理由で毛嫌いされていることと、あごの発育は遺伝的に決まっており、治療によって大きく変化させることはできないという考えも根強いようです。また我が儘なアメリカ人の子供はああいった患者の協力が必要な機能的矯正装置を使ってくれないという事情もあるかもしれません。また機能的矯正装置の開発、発展にはドイツ人の矯正医が大きく関わっていますが、ブラケットなどに使われる貴金属が自由につかえなかったことや、保険医療制度に矯正治療が組み込まれているヨーロッパではコストのかかる固定式装置が使いにくいという背景もあったのでしょう。

 私のところでは、機能的矯正装置としては元九州歯科大学の佐藤先生の咬みしめ方FKOとクラークのツインブロックを使っています。3年前に調べた調査では、一期治療でこれらの機能的矯正装置を使い、二期治療で効果があり、理想的な治療あるいは歯を抜かなくてもよくなった、二期治療が必要でなかったエクセレントの症例が70症例のうちの50%、少しは効果があったが、二期治療の治療方針にはあまり影響しなかったグットが25%、ほとんど効果のないプアーの症例が25%でした。つまり半分は機能的矯正装置を早期に使うことで、早期治療の価値があったといえます。この数値が大きいか、小さいかは何とも言えませんが、私自身は二期治療の診断には非常に大事だと考えています。つまり二期治療の時期、中学2、3年でこの患者はあごの成長がかなりあるかどうかは検査をしてもわかりません。昔のアメリカ矯正歯科学会雑誌にABOという専門医の試験に提出される上顎前突の症例では、下あごの成長は平均成長よりかなり大きく、ABO成長といっていたようです。あごの発育がよく、うまく治った症例を出してきたのです。逆に言えば、思ったほどあごの成長がなく、うまく治療できなかった症例もかなりあるということです。もし機能的矯正装置であごの発育を二期治療前にわかっていれば、成長の少ない症例ではそれに沿った治療計画が立てられ、少なくともこういった予見に則った治療法を立てる必要はないのです。

 日本では、こういったヨーロッパとアメリカの対立とは関係なく、一期治療では機構的矯正装置を、二期治療ではマルチブラケット装置で治療するやり方が一般的になってほしいと思いますし、舌の異常な使い方、不良姿勢、口呼吸などのかみ合せに関連する機能的な異常に対する補助的な治療法としても、今後研究が進むにつれ機能的矯正装置は活用されていくでしょう。

 奥羽大学の氷室教授、里見優先生、伊藤率紀先生はじめ、会の運営に関わった多くの先生方の熱い想いを感じ取った大会でした。お世話になりま

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