2017年8月12日土曜日

矯正歯科の標準治療




 今年の622日に亡くなった小林麻央さんは、乳がんの標準治療を断り、気功などの代替療法のため、命を速めたとの論調が多い。手術も、副作用も多い抗がん治療を受けたくないという気持ちはわかるし、仮に乳がんの標準治療を受けたとしても結果はどうなったかはわからない。また麻央さんが受けた代替療法、気功治療や水素温熱免疫療法が全く効果はないとは言えないであろう。そうでなければ、こうした診療所に患者は来ない。

 ここでの標準治療とは、乳がん患者の治療を多くする大学病院、大病院で一般的に行われて治療法であり、当然、学会でもある程度はコンセンサスの得られたものである。先生のよって多少は治療法や考えが違っても、ある範囲の中でのことで、大きな差はない。保険診療は、こうした標準治療を形にしたものであり、基本的には標準治療はすべて保険適用となる。その効果が科学的に立証されているが、まだ治験段階のもの、例えば陽子、重粒子線治療などは、完全に保険治療とはなっていないが、代替療法とは言えない。

 こうした標準治療は、当然歯科でもあり、歯周病学会、歯科補綴学会、口腔外科学会でもガイドラインとして学会の推奨する治療法、標準治療が提示されている。日本矯正歯科学会でも、上顎前突のガイドラインが作られ、順次、他の不正咬合のガイドラインを作ることになっている。

 矯正歯科の領域で、こうした不正咬合のガイドラインとは別の基本的な標準治療は、何と言ってもマルチブラケット装置であり、世界中の矯正歯科医でマルチブラケット装置を使わない先生は一人もいないと断言できる。アメリカの矯正歯科医では、ヘッドギアーや急速拡大装置なども一部補助的に使うだろうが、治療の90%はマルチブラケット装置を使う。ヨーロッパでは、これに機能的矯正装置の頻度が増えるし、日本ではさらに上顎骨前方牽引装置やリンガルアーチーが加わる。それでもマルチブラケット装置が主体となる。

 日本では、一部の一般歯科医の中には、マルチブラケット装置を一切使わない、床矯正、機能的矯正、急速拡大装置でなおすという先生がいるが、これは矯正歯科での標準治療では決してない。すでに述べたように矯正歯科の標準治療はマルチブラケット装置を用いた治療法なのである。これなしでは、多くの患者さんの主訴を治すことは決してない。現在のような情報過多の時代にあって、インターネット上では実にさまざまな治療法が提示されているが、こうした標準治療法というのは、あたり前すぎて人目をひかず、むしろ特殊な治療法が多い。それで集患につなげようということもあろう。


 矯正治療の標準治療は、永久歯完成までの早期治療では、種々の治療法が提唱されていて、その効果については何とも言えないが、それでも多くの症例ではマルチブラケット装置による治療が必要となる。歯科医師がマルチブラケット装置による治療ができなければ、矯正治療は無理であり、逆に言えば、患者はマルチブラケット装置による治療なしでは矯正治療は難しいことを知ってほしい。ガン治療における外科治療、化学療法あるいはその両方に匹敵する治療法がマルチブラケット装置による治療である。

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