最近では、自分の歯科医院をホームページで紹介しているところも多くなった。私も、最初はホームページなど一部のコンピューターオタクだけが見るもので、作ってもあまり意味はないと考えていたが、ここ十年ほどは当院のホームページを見てくる患者さんが多くなっている。例えば、矯正治療費などはホームページに詳細に説明しているので、費用についてはある程度、了承済みで来院されるので、医院の雰囲気、先生、医院のシステムに納得されれば、すぐに検査に入る患者さんが多い。逆にホームページを見ないで来られる患者さんの中には、今でも“矯正治療は保険がきかないのですか”と驚かれる患者もいる。自費治療の話をすると、高額の治療費を想定していなかったので諦められ、本人が矯正治療をしたいという場合は、こちらとしても辛い。
こうしたホームページの中には、いわゆる“かなり盛った”内容のものも散見される。例えば、矯正治療の経験がほとんどない歯科医がマウスピース矯正治療やクイック矯正などをうたい、極めて短期間で治療できると宣伝しているものがある。さらにいうと、外からは見えない舌側矯正治療、リンガル矯正は、治療は難しく、少なくとも日本矯正歯科学会の認定医以上の経験がなければ、良好な治療結果を得ることはない。一般歯科医(認定医でない)でリンガル矯正をホームページ上でうたっているのも、“盛った”と言ってもよい。
こうした“盛った”ホームページを素人がチェックするには非常に難しい。通常、ホームページに載せているくらいなら、治療自体に自信があると思いがちだが、講習会を何度か受講しただけで、実際に治療したことがないという先生も多い。知識は講習会で仕入れているので、患者さんが来たときは、自信をもって説明する。ところがいざ、治療を始めてみると、十分に治療はできず、文句を言うと、これ以上の治療はリンガルでは無理と言われてお終いである。ブログに自分の矯正治療体験を載せている人がいるが、こうした患者さんは上記のようなホームページをだす歯科医院に引き寄せられるようで、最初の1年程は治療経過を毎月、載せているが、いつのまにか終わっている場合が多い。多分、きちんとした治療結果が得られていないので、ブログの更新をやめたのだろう。
先日のテレビで歯並びの悪い芸能人の矯正治療費が250万円と言っていた。私の所属する日本臨床矯正歯科医会は、日本を代表するほとんどの矯正歯科医が所属しているが、昔、この会で、各院の治療費を調査したことがあった。通常の表側の唇側矯正治療で、確か上限でも150万円くらいで、ほとんどは70-100万円であった。一症例が200万円あるいは400万円という高額な治療費をとる歯科医院をうわさに聞くことがあるが、こうしたところはほぼ矯正専門医でない。通常の感覚で言えば、治療費が高ければよい治療を受けられると思いがちだが、これは大きな誤解であり、先に述べたように、私の尊敬する優れた矯正医の多くは、適正な、平均的な治療費である。逆に言えば、こうした法外な治療費をとるところはかなり問題のある医院と言わざるを得ない。
実は、優れた臨床医、矯正歯科医は、その評判を聞きつけ、患者が多いため、それ以上に患者が来てもらっては困るという。そのため、ホームページはおろか、医院の看板も掲げていないところがある。つまり患者の多いところは、宣伝する必要がない。逆に言えば、患者が少ない、あるいは経営が苦しいから宣伝で盛って、集客を図るのである。となるといい歯科医院、矯正歯科医院をどのように選ぶかと言えば、これはそこで実際に治療を受けた人の口コミ(インターネット上の口コミは当てにならない)が一番確実で、それも複数の人から聞いた方がよい。さらに患者が多い、予約が取りにくいというのも参考になろう。行列ができるラーメン屋の方が、誰もいないラーメン屋よりはうまい。ただラーメン屋の例ではないが、専門家から見ればすごくいい治療をしていても、先生、スタッフの愛想がない、設備が古い、汚いといった理由で患者の少ない歯科医院もある。ホームページは沢山の情報が載っていて、医院を探すには便利なようではあるが、いい医院はホームページに載せないし、また情報自体が当てにならないことも多く、昔のように知人の口コミと実際の経験から歯科医院を決めるのがよいのだろう。
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