2018年1月12日金曜日

医療の平等性


 日本では、健康保険に加入していれば、誰でも、どこの病院に行ってもよく、天皇陛下を手術した著名な先生から、健康保険の安い費用で手術を受けることは可能である。これが公的保険制度のないアメリカだと、こうしたドクターに手術してもらうのは1000万円を越える費用が必要であり、実体は金持ち専門の医者となる。スーパドクターは凄い邸宅に住み、自家用飛行機や別荘を所有する。一方、貧乏人は、大学の若手の研修医や人種差別的になるが、インド、アジア系の先生の手術を受けることになる。

 アメリカ人の資本主義による平等感覚からすれば、金持ちで、高い医療費が払えるなら、より高度な治療を受けることができ、金がなければ最低限の治療しか受けられない。金があれば高いホテルに泊まるというのと全く同じ発想であり、貧乏人はそれに対して不満はいわない。イギリスはアメリカと違い公的保険が発達し、基本的には医療費は無料となる。すばらしい制度のように思えるが、まず日本のようなフリーアクセスがなく、あらかじめ決めておいた家庭医のところに行き、問題があればより上位の病院を紹介され、そこで検査や治療を受ける。問題は家庭医から紹介され検査までの日数が相当かかり、場合によっては数ヶ月かかる。そのため、一刻も早い検査、治療を受けたい患者は、自費による治療を受けることになる。矯正歯科でも、保険は適用できるが、保険患者は午前中など、学校を休まなくてはいけない時間しか予約を入れないし、患者に通院時間を選べない。一方、自費の患者は好きな時間に予約を取れるようになっている。日本ではこうした自費と保険患者にサービス面で区別することは大きな問題となり、指導や保険医の取消を食らう。他にもドイツや北欧などの公的保険が充実している国も、自費と保険では、患者サービスに差をつけることが多い。アメリカでは、例えばコロンビア大学医学部附属病院では、金持ち専用の病院を持っている。要するに日本を除く国では(中国も含めて)、医療面での公平とは金があるものはいい治療、いいサービスを受けられ、金がない、公的保険は最低限の医療を受けることが普通なのである。

 こうした日本の医療の平等性は、世界でも稀あるいは唯一のものであり、日本に住む外国人からすれば、安全性とともに大きなメリットと考えている。実際、外国語指導助手(ALT)の先生の中には、これは津軽の場合だが、腰や顎の手術を受けたいがアメリカでは数百万の費用がかかるため、わざわざALTに応募する人がいる。日本では安い費用(通常数万円)で治療することができるためである。こうした制度を維持するには国も財政上大きな負担となっているが、一方、安い医療費で治療を行っている医療従事者の負担も大きい。実力のある医師は、限られた時間で多くの患者をみても、新卒の医師と同じ稼ぎでは、割に合わないと思うだろう。それよりはこうした名医は、一人当たりの治療費を多くして、見る患者を少なくする方が負担も少なく、収入もよい。最初に言ったようにアメリカの名医の手術費用は日本の数十倍であり、雑用もなく、手術だけして、リッチな生活をしている。最近は日本のネットでも、やれ医療、サービスは欧米に劣っている、もっと高度な治療を受けさせろという声も強いし、また医療ミスがあれば、すぐに訴訟ということになるが、こうした費用面のことは無視される。格安レストランと高級フレンチレストランの味とサービスを比較するようなもので、格安レストランで“なぜここでは外国産の肉ばかり使うのか”と文句を言うようなものである。

 医療の平等性、この日本のメリットは、何としても維持してほしいところであるが、ただ歯科では歯科医師数の過剰から平等性は崩れているし、将来的には医科の方もそうなるであろう。

0 件のコメント: