2018年1月17日水曜日

都会の歯科医院


 国民皆保険が施行されたのが昭和38年だが、当初は5割負担で、本人負担なし、家族3割負担となったのは昭和43年ころで、その頃から歯科医院に来院する患者は飛躍的に増えた。それまで歯科治療は基本的には保険が効かず、金がない人は歯が痛くなっても今治水などを塗って痛みを押さえていた。また今では考えられないが、ゴールドの開面金冠と呼ばれるものを前歯につけるのが金持ちも証でもあった。今見ると、こっけいなものであるが、当時は別段、変だとも思わなかった。

 こうした訳で、私が中学校に入るころから、歯科医院だった我が家も急速に潤い、借りていた診療所、二階の狭い家から、近くのところに住居を引っ越すことなった。“パントモ買ってハワイに行こう”のキャッチフレーズでパントモX線撮影装置が売れたのはこの頃で、ほぼ全患者にパントモを撮っていたので、確かに1年程でハワイ観光するほどの収入となった。患者は多く、朝9時に診療所を開けるのだが、8時ころから行列ができるため、早目に診療所の玄関の鍵を開けた。昭和389年ころに歯科用タービンが売り出され、それまで電気エンジンで削っていたものが歯科用タービンの普及で一気に早くなった。それにより一日、十数人しかみられなかった患者数が大幅に見られるようになった。子供も大人も虫歯が多く、朝の9時から夜の10時まで患者が途切れない。

 この頃から、歯科医も増長するようになり、安い保険点数でやっていられない、同じ治療するなら自費でする、保険医を辞退すると言い出した。日本歯科医師会でも保険医総辞退という運動をおこしたり、医科とは歩調を合わせないようになった。昭和50年になると、ポーセレンがかなり普及するようになり、これで歯科医はさらに潤い、医師より歯科医の方が収入の多かった時期でもあった。時計は金無垢のロレックス、車はベンツ、愛人を囲う人もいた。この時期が絶頂期で、その後は、歯科医師数の増加に伴い凋落していく。当時のバブリーな歯科医院は、その後はみごとに凋落している。

 ここ十年ほど東京、大阪など都会を中心に、自費を主体とした歯科医院が増加している。昭和50年頃と違うのは、当時は患者が多くいて、保険でも充分な収入があったが、それ以上の収入を求めたのに対して、現在は保険収入で経営が厳しいため自費診療を行う。廉価の診療費で多数みるという方法がとれないため、高額な自費診療で稼ごうとする。例えば、歯石除去は保険が適用できるが、拡大鏡をつかった場合、自費となり50万円という歯科医院がある。また虫歯を取っていって神経までいったなら、ここからはやはり拡大鏡を使った保存治療となり、その費用に15万円、さらに補綴処置に20万円かかると言う。まあやりたい放題で、私からすれば、こうした歯科医院は医療法に違反しているから、保険診療は一切しない、自費診療だけにすればよいと思うが、初診、検査、抜歯などは保険で、補綴、歯内療法、歯周治療など、おいしいところだけ自費にしている。 

 東京に住む娘のことだが、少し下の歯がでこぼしている。すると親が矯正歯科医と知っていても、平気で若手の素人の歯科医が矯正治療を勧める。それも200万円という。怖いものしらずである。また、私のところで矯正治療を受け、高校卒業後に上京して、大学に行く患者が多いが、何かの事情で都内の歯科医にいくと、すべての金属のインレー、クラウン、充填などは再治療を勧められる。こちらで私が見て、明らかに問題はないと判断した患者でもそうで、“白くて目立たないのにしましょう”と言って全顎の歯科治療を勧められる。


 田舎の、それも矯正専門医がこうしたことを言うのはかなり批判があろうが、東京の歯科医に聞くと、田舎は患者が多く、保険でも収入が多く、経営的に問題ないだろうが、都内では家賃、人件費などがかかり、保険診療では厳しくてやっていけないという。確かにそうだろう。だったら何も都内で開業する必要はなく、群馬、埼玉、茨城など周辺地域を探せば、もっと患者の多いところがあろう。私の場合は、生まれは兵庫県だが、開業に有利な青森県で開業した。商売とはそういうもので、患者数の少ない都内で開業するなら、そうしたことはわかりそうなものである。さらに言うなら、保険医療機関を標榜しながら、自費に誘導するというのは、明らかな医療法違反であり、こうした姑息な手段を取るのなら最初から自費診療だけで診療すればよい。是非、勇気を持って自費診療だけでやってほしいし、患者からすれば、最初から保険は効きませんと言われた方が、治療途中で軟象をとって露髄した瞬間に自費になるよりはいいだろう。父も歯科医、兄も兵庫県で歯科医院を開業していて、私も子供のころから歯科の状況はある程度わかっている。都会でもまじめにやっている歯科医院がほとんどと思われるが、一部の歯科医院の自費誘導が露骨であり、ホワイトニングが特定商取引法に入ったように、矯正歯科など歯科治療(自費)への締め付けも今後、厳しくなる可能性がある。

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